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付き合い始めて1カ月。
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慶さんと付き合い始めて1カ月が経った。
最初は本宅の中もわからずに迷子になったりもしたけど、慶さんの会社の人が助けてくれたり・・・一緒にお茶したり・・・。
随分仲良くなったような気がする。
みなさんがよくしてくれる分・・・慶さんが注いでくれる愛情が深いことが理解できてきて・・・
好きって気持ちが増していく自分がいた。
だいぶ寒くなってきたある日・・・
お昼間は太陽が出ていてぽかぽかするときがまだある時期。
私は離れのお家で暮らさせてもらっていた。
お家を借りてるわけだから、『お家賃』を払うと言ったら・・・
慶「なら、本宅で時々コーヒー淹れて。」
と、言われ、私は時々コーヒーを淹れに行く。
今日は・・慶さんの会社の人に頼まれてお菓子を作りに本宅にお邪魔してる。
作ってる間、慶さんは私のことを側で・・・ずっと見てた。
慶「何作ってるの?」
椅子に座って私に聞いてきた慶さん。
私は泡だて器でバターを混ぜてるのを見つめながら答えた。
かえで「く・・クッキー・・・。」
慶「どれくらいでできるの?」
かえで「えーと・・あと・・1時間くらい・・?」
慶「じゃあちょっと仕事してくる。」
そう言って仕事に戻っていった。
かえで「朝から何回仕事場とキッチンを往復してるの・・?」
まだお菓子は出来上がらないのに、慶さんは何度もキッチンにやってくる。
一緒にいられるのは嬉しいけど・・・好きな人に見つめられて照れない人なんかいない。
ましてや私はこの間気持ちを自覚したところだ。
『好き』って気持ちが日に日に溢れすぎて・・・最近は慶さんをまともに見れないでいる。
かえで「はぁ・・・。」
生地をまとめていき、丸い形に抜いていく。
天板に並べたクッキー生地をオーブンに放り込んで、私はキッチンの外に出た。
廊下を歩いて・・・何回か曲がり、中庭に出る。
かえで「立派なお庭だよねー・・。」
大きな縁側に腰かけ、溢れる緑を見つめた。
かえで(どうしたら慶さんをちゃんと見れるんだろ・・。)
慶さんはいつも私を真っ直ぐに見てくる。
私も見たいけど・・・好きすぎて見れない。
かえで「はぁ・・・。」
ため息を漏らしたとき、私の後ろから声が聞こえた。
部下「・・・お嬢?こんなとこで何してるんです?」
振り返ると慶さんの会社の人が立っていた。
かえで「あ、クッキーが焼きあがるまでの時間がヒマで・・・お庭見てました。」
部下「そうですか。立派でしょう?」
かえで「・・・立派です。」
ぼーっと緑を見つめる。
慶さんの会社の人は、私の隣に腰かけた。
少し間を空けて。
部下「ため息が聞こえましたけど・・・若と何かあったんですか?」
かえで「・・・何かあったわけではないんですけど・・・どうしていいのかわからなくて・・・」
風になびく葉っぱが見える。
そよそよと揺れて・・・気持ちよさそうだ。
そんな葉を見ながら・・・呟いた。
かえで「慶さんが好きすぎて・・・まともに見れない・・・。」
部下「『好きすぎて』?」
かえで「抱きしめられると心臓が潰れそうになるし・・・。」
部下「・・・いい悩みじゃないですか。」
かえで「・・・えー・・。」
会社の人は立ち上がった。
部下「もっと・・・若のことを知ればそんな悩みは無くなるかもしれないですね。」
かえで「もっと・・・?」
部下「朝まで一緒にいる・・・とか?」
かえで「!!」
部下「ははっ、冗談ですよ。」
そう言ってその人は縁側から出て行った。
取り残された私は、またお庭の緑を見つめる。
かえで(まぁ・・・いつかはするんだもんね・・・。)
苦手でしかたのない『営み』。
慶さんが望むのであれば・・・私は受け入れるけど・・・
かえで「その前にちゃんと顔を見れるようにならないと・・・。」
その時、遠くでアラームが鳴る音が聞こえた。
クッキーが焼きあがった音だ。
かえで「いい色になってるといいなー・・・。」
私は立ち上がり、キッチンに戻った。
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キッチンに戻り、クッキーを並べてるとリョウさんが私のところにやってきた。
リョウ「かえでさん、社長は急な仕事が入って出ました。クッキーは残しといて欲しいと伝言を預かってます。」
かえで「あ・・・そうなんですか・・・。」
焼きあがるのを楽しみにしてくれてた慶さん。
急なお仕事ならしかたないけど・・・少し寂しい気持ちになってしまった。
かえで「あの・・リョウさん、慶さんって何時くらいに帰ってくるんですか?」
リョウ「18時には帰ってくると思いますけど・・・。」
私はキッチンの時計を見た。
今の時間は13時。
会えないとわかると会いたいもので・・・
慶さんの分のクッキーを袋に入れて・・・待つことにする。
かえで「ありがとうございますっ。リョウさんも食べてください。」
リョウ「いただきます。」
500枚焼いたクッキー。
たくさんのお皿に乗せて、テーブルに置いていく。
キッチンに来た人がどこに座っても食べれるように各テーブルに置いて回った。
かえで「私、離れに戻りますので・・・。」
リョウ「ありがとうございます。各自食べに来るように伝えます。」
かえで「お願いします。」
あとはリョウさんにお願いして、私は離れに戻った。
部屋の掃除をしたり・・・おかずの作り置きを作ったり・・・。
いろいろしてるとあっという間に時間は経つもので、気がついたら時計は17時半をさしていた。
かえで「あっ、もう帰ってくるかな?」
私はクッキーの入った袋を持って離れを出た。
石畳の道を歩いて門に向かう。
かえで「喜んでくれるといいけど・・・。」
慶さんの喜ぶ顔が見たい。
早く見たくて門のところで待つ。
かえで「外に出てもいいですか?」
私は門のところにいた人に聞いた。
いつも門を開けてくれる人だ。
門番「どちらへ?」
かえで「門の外で慶さんを待ちたいんです。」
門番「・・・わかりました。」
ギギ―・・・と開けられた門。
私は門をくぐって外に出た。
かえで「ありがとうございます。」
門番「いえ。自分はもう上がりますんで・・・若が遅いようでしたら戻ってくださいね?」
かえで「はいっ。」
門はギギ―・・・と音を立てて閉まった。
私はその場にしゃがみ込んで慶さんを待つことにした。
かえで「ふふっ・・。もうすぐかな・・・。」
クッキーを見つめたり・・・道を見たり・・・空を見たりして待った。
でも慶さんは帰ってこない。
時間は過ぎていき、傾いてた太陽は沈んだ。
辺りは暗くなったけど、街灯が明るいから怖くはなかった。
ずーっと・・・ずーっと待つ。
かえで「早く・・・会いたいよ・・・。」
だんだんと心細くなってくる。
私は膝を抱えながら自分の顔を埋めた。
そのまま目を閉じて・・・慶さんが帰ってくるのを待った。
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