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第7話

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「あの頃に出会ったハリーはもういない」

イリスはぼんやりとハリーを見つめながら、小声でつぶやいた。エレナと仲睦まじい様子に、すっかり腑抜けになったと不安さえ感じた。

幼馴染のエレナとは結婚披露パーティーで初めて会ったので、結婚前にハリーの本性を見抜くことは非常に難しい。

「エレナは天使みたいな笑顔だな」
「そう?」
「とても魅力的で可愛いよ」

イリスは、エレナにうつつを抜かす愚か者のハリーに、新婚旅行が終わってから離婚手続きを進めなければならないと、イリスの顔には断固たる決意がみなぎっていた。


数時間後に無事に目的地に到着した。世界でも屈指の最高級ホテルとして知られていて、その最上階を貸し切りにした。そこからは素晴らしい景色が堪能できる。

宿泊者以外は立ち入りを認められないほどの厳重な管理がされている。なのでエレナは本来ならば入ることは許されない。

「急だがもう一人泊まることになったから食事の用意など頼む」
「お部屋はどうなさいますか?」
「部屋は僕達と一緒でいい。広いから問題ないだろう」
「はぁ……そのようなことを言われましても……」

ハリーが事情を説明すると、王子と大貴族の令嬢の新婚旅行だということは認識している相手側は、いささか応対に困ったようで、引き気味にしてぎこちない笑顔を返しながら、イリスに心から同情して涙さえ浮かべた。

気の毒な視線を向けられたイリスは、とくに気にする様子もない。馬車の中では怒りのあまり気が狂いそうになったが、今はとっくに百年の恋も冷めてしまったという気持ちでハリーに幻滅している。

その間もエレナは、相変わらずハリーに寄り添って、言葉のかわりに満面の笑顔で応えていた。どちらが妻なのか?と思うほどで完全にイリスの顔に泥を塗る行為であった。

「はぁーっとんでもなく対応が悪いスタッフだな。何が具体的に説明しろだ!」

やっと部屋に着いた。時間がかかったのは、当然だがエレナのせいである。それにハリーがうまく説明できなくて、相手を納得させるのに手間取ってしまったのだ。

ハリーはわざとらしい大きなため息をつき、不満そうに口をとがらせて言い募り、まるで成長過程の幼い子供みたいに怒りをあらわにする。

「私は大丈夫だからハリー落ち着いて、結局一緒の部屋に泊まれたからいいじゃない」

エレナの声はハリーの心に安らぎを与えて、落ち着かせることができるが今回ばかりは簡単にはいかないようだ。ハリーは怒りがこらえ切れずに地団駄踏んでくやしがった。
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