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9. 新しい人
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「たくさん売れましたね!」
「エレナのおかげだよ。食料も持てる分だけ買えたし、まだお金は余っているし、有難いねぇ。」
あれからもたくさんお客が見に来ては買ってくれ、日が暮れる前には完売してしまった。
敷物を返すのと、使用料を払ってから小麦粉と砂糖と塩と肉類を少し購入し、アンが待つ家へと帰って来た。
すると、アンの家には見知らぬ泣いているおばあさんが、アンと向き合って座っていた。
「!」
「まさか…また?」
エレナは、顔を隠してシクシクと泣いている人がいたのに驚き、対してマダリーナは慣れているのか、そのように言葉を発するとアンは一つ頷いた。
「そうなのかい…あんた元気そうなのにねぇ。ま、しばらくしたら楽しく生活できるからね。今はたんとお泣き。
さぁさぁとりあえず夕飯を作るから、エレナはビアンカに報告してきたら、先に沸き湯に入っておいで!その人と一緒にだよ!」
マダリーナは悲しそうにため息を着いてそう言うと、買ってきた肉で調理をし始めた。
エレナは、とりあえず言われた通りにビアンカへと報告へ行った。
「ビアンカさん、入りますよ。」
「あぁ、どうぞぉ。入っとくれー。」
ビアンカは夕飯の準備をしていたが、手を動かしながら、エレナを座るように促した。
「ビアンカさん、全部売れました!完売ですよ!」
「え!?本当にぃ?あんな暇つぶしに作った物がー!?」
「はい。色染めしたものなんて、みんな目を輝かせていましたよ。」
「あぁ、あれは時間がないと出来ないだろうからねぇ。失敗もするし根気もいるものぉ。
同じような配合にしても水の温度なのか、染める素材の質が原因なのか、なぜか同じ色にはならずに微妙に変わるんだよぉ。」
「もうないの?って言われました。」
「アハハハ。有難いねぇ。
私がここで無駄に生き長らえていたと思っていたが、無駄では無かったんだねぇ。」
「はい!無駄でなんてありませんよ、むしろ必要な人材だと思います!」
「エレナ、ありがとうねぇ。ここに来てから鬱々としていたけれど、今初めて晴れやかな気持ちになったよぉ。
だからといって、私を捨てた人達がエレナのように思ってくれるのとはまた別なのだけれどねぇ…。旦那が亡くなって私が一人になった時だって、子供達には知らないふりをされたのよぉ…。
あぁ、そうだわぁ!またもし販売する機会があれば、まだまだあるからよろしくねぇ!」
「…はい。
あ、小麦粉と調味料とお金、置いておきますね。」
「それはみんなで均等にと言っただろぉ?私が全部受け取るというのは、それは違うよー。
ここで、暇を潰すようにアサで何かを作ろうと思ったのはここに住んでいる皆がいたからねぇ。だから、私が作ったもので皆に恩返しが出来るならそれに越した事はないんだよぉ。」
「分かりました。では、アンさんやマダリーナさんにもそう伝えます。」
「悪いね、お願いするよぉ。
あぁ、小麦粉と調味料なんて重かっただろー?ありがとうね。一袋ずつ置いていってくれるかい?あとは皆で分けてもらっていいー?お金もそんなに使わないからねぇ。
じゃあまたね、おやすみよぉ。」
「はい。おやすみなさい。」
アンのいる家に戻ったエレナは、今して来た話をアンとマダリーナにした。すると、マダリーナも今焼いている鶏肉を持っていこうと思っていたと笑って言った。
アンも、分かった、お金は取って置こうと言った。使う時に使えばいいからそれまでは、と。
それから泣き止んでだいぶ落ち着いた座っている人にも、沸き湯に入っておいでと言った。
そしてアンは小麦粉と調味料が入った袋を手にして外へ出て行った。他の住人に配ってくるのだと言って。
「肉は、私も料理が出来上がったら他の皆に配るとして、沸き湯から上がるまでに夕飯が出来るように急ぐよ。だからゆっくり入っておいで。」
マダリーナも、そう言ってエレナを沸き湯へと促した。
☆★
「あの…」
「あの…」
沸き湯へと行き、使い方を教えたエレナは、それぞれ体を洗って大きな湯船に入って少しすると、互いに顔を見合わせて同じタイミングで口を開いた。
「あ、そちらからどうぞ。」
「あの…見苦しい所を見せて申し訳ありませんでしたね。
私はダリアと言います。ここは、終の山でしょう?それなのにあなたは若いですね。それになんだか、皆さん生き生きとしておられるような…。」
「ダリアさん、ですね。私も今お名前を伺おうと思ってました。
私は、まぁ…流れ着いたようなものです。」
エレナは自分の違う世界から来たという境遇を話しても理解されるか分からないと思い、そのように言った。
「そうかい。
終の山は、噂ではそこに捨て置かれたらあとは死ぬだけ、と言われていましたが、生きている人がいて驚きました。しかも、肌つやも良くて、元気そうで。」
「そうですか…なんだか嫌ですね。
元気そうなのは、この沸き湯があるからかと私は思っています。入っていると心が癒されるように感じますから。」
「あぁ確かに…。私も、この沸き湯に入って落ち着きました。
私は、ここの領主のアンドレイ家に仕えておりました。庭師を長いことしておりましたが、力仕事が出来なくなり侍女に転向したのですが今さら仕事を覚えるのも難しく…結果、ここに捨て置かれました。」
「え!領主様なのに!?普通、領主様って市長みたいなものですよね?領地を良くしていくのが領主なんじゃないんですか!?なんでそんな人が人を…捨てるなんて…!」
「あ、ち、違いますよ!ジェオルジェ様が直々にそんな心無い事は仰いません!
しちょうとは良く分かりませんが、執事のミルチャに、言われたのです。
何度言っても覚えられないのなら仕事はクビ、さっさと家へ帰れ、帰る場所がないのなら終の山へ行けばいい、と。
私は、若い頃より長年住み込みで働いていたものですから家なんてとうにありませんから。ですからもう、必要とされないのであれば命を絶とうとこちらへ参った次第だったのです。」
(はぁ!?そんな事言うの!?領主様っていう偉い家に仕えている人が!?執事って、統括する人でしょ!?なんか、ムカムカする!何様!?
だいたい、年齢が上になればなるほど、忘れっぽくなったり、すぐに動けないのはよくある事でしょう!?
歳いったり、体を壊したら終の山に捨て置くって…そうじゃなくて、生活出来るような施設を作りなさいよ!!)
エレナは、話を聞いていてだんだんと怒りが増してきた為に、積もりに積もった胸が苦しくなるような感情を断ち切るかのように、湯船から思い切り立ち上がった。
「エレナのおかげだよ。食料も持てる分だけ買えたし、まだお金は余っているし、有難いねぇ。」
あれからもたくさんお客が見に来ては買ってくれ、日が暮れる前には完売してしまった。
敷物を返すのと、使用料を払ってから小麦粉と砂糖と塩と肉類を少し購入し、アンが待つ家へと帰って来た。
すると、アンの家には見知らぬ泣いているおばあさんが、アンと向き合って座っていた。
「!」
「まさか…また?」
エレナは、顔を隠してシクシクと泣いている人がいたのに驚き、対してマダリーナは慣れているのか、そのように言葉を発するとアンは一つ頷いた。
「そうなのかい…あんた元気そうなのにねぇ。ま、しばらくしたら楽しく生活できるからね。今はたんとお泣き。
さぁさぁとりあえず夕飯を作るから、エレナはビアンカに報告してきたら、先に沸き湯に入っておいで!その人と一緒にだよ!」
マダリーナは悲しそうにため息を着いてそう言うと、買ってきた肉で調理をし始めた。
エレナは、とりあえず言われた通りにビアンカへと報告へ行った。
「ビアンカさん、入りますよ。」
「あぁ、どうぞぉ。入っとくれー。」
ビアンカは夕飯の準備をしていたが、手を動かしながら、エレナを座るように促した。
「ビアンカさん、全部売れました!完売ですよ!」
「え!?本当にぃ?あんな暇つぶしに作った物がー!?」
「はい。色染めしたものなんて、みんな目を輝かせていましたよ。」
「あぁ、あれは時間がないと出来ないだろうからねぇ。失敗もするし根気もいるものぉ。
同じような配合にしても水の温度なのか、染める素材の質が原因なのか、なぜか同じ色にはならずに微妙に変わるんだよぉ。」
「もうないの?って言われました。」
「アハハハ。有難いねぇ。
私がここで無駄に生き長らえていたと思っていたが、無駄では無かったんだねぇ。」
「はい!無駄でなんてありませんよ、むしろ必要な人材だと思います!」
「エレナ、ありがとうねぇ。ここに来てから鬱々としていたけれど、今初めて晴れやかな気持ちになったよぉ。
だからといって、私を捨てた人達がエレナのように思ってくれるのとはまた別なのだけれどねぇ…。旦那が亡くなって私が一人になった時だって、子供達には知らないふりをされたのよぉ…。
あぁ、そうだわぁ!またもし販売する機会があれば、まだまだあるからよろしくねぇ!」
「…はい。
あ、小麦粉と調味料とお金、置いておきますね。」
「それはみんなで均等にと言っただろぉ?私が全部受け取るというのは、それは違うよー。
ここで、暇を潰すようにアサで何かを作ろうと思ったのはここに住んでいる皆がいたからねぇ。だから、私が作ったもので皆に恩返しが出来るならそれに越した事はないんだよぉ。」
「分かりました。では、アンさんやマダリーナさんにもそう伝えます。」
「悪いね、お願いするよぉ。
あぁ、小麦粉と調味料なんて重かっただろー?ありがとうね。一袋ずつ置いていってくれるかい?あとは皆で分けてもらっていいー?お金もそんなに使わないからねぇ。
じゃあまたね、おやすみよぉ。」
「はい。おやすみなさい。」
アンのいる家に戻ったエレナは、今して来た話をアンとマダリーナにした。すると、マダリーナも今焼いている鶏肉を持っていこうと思っていたと笑って言った。
アンも、分かった、お金は取って置こうと言った。使う時に使えばいいからそれまでは、と。
それから泣き止んでだいぶ落ち着いた座っている人にも、沸き湯に入っておいでと言った。
そしてアンは小麦粉と調味料が入った袋を手にして外へ出て行った。他の住人に配ってくるのだと言って。
「肉は、私も料理が出来上がったら他の皆に配るとして、沸き湯から上がるまでに夕飯が出来るように急ぐよ。だからゆっくり入っておいで。」
マダリーナも、そう言ってエレナを沸き湯へと促した。
☆★
「あの…」
「あの…」
沸き湯へと行き、使い方を教えたエレナは、それぞれ体を洗って大きな湯船に入って少しすると、互いに顔を見合わせて同じタイミングで口を開いた。
「あ、そちらからどうぞ。」
「あの…見苦しい所を見せて申し訳ありませんでしたね。
私はダリアと言います。ここは、終の山でしょう?それなのにあなたは若いですね。それになんだか、皆さん生き生きとしておられるような…。」
「ダリアさん、ですね。私も今お名前を伺おうと思ってました。
私は、まぁ…流れ着いたようなものです。」
エレナは自分の違う世界から来たという境遇を話しても理解されるか分からないと思い、そのように言った。
「そうかい。
終の山は、噂ではそこに捨て置かれたらあとは死ぬだけ、と言われていましたが、生きている人がいて驚きました。しかも、肌つやも良くて、元気そうで。」
「そうですか…なんだか嫌ですね。
元気そうなのは、この沸き湯があるからかと私は思っています。入っていると心が癒されるように感じますから。」
「あぁ確かに…。私も、この沸き湯に入って落ち着きました。
私は、ここの領主のアンドレイ家に仕えておりました。庭師を長いことしておりましたが、力仕事が出来なくなり侍女に転向したのですが今さら仕事を覚えるのも難しく…結果、ここに捨て置かれました。」
「え!領主様なのに!?普通、領主様って市長みたいなものですよね?領地を良くしていくのが領主なんじゃないんですか!?なんでそんな人が人を…捨てるなんて…!」
「あ、ち、違いますよ!ジェオルジェ様が直々にそんな心無い事は仰いません!
しちょうとは良く分かりませんが、執事のミルチャに、言われたのです。
何度言っても覚えられないのなら仕事はクビ、さっさと家へ帰れ、帰る場所がないのなら終の山へ行けばいい、と。
私は、若い頃より長年住み込みで働いていたものですから家なんてとうにありませんから。ですからもう、必要とされないのであれば命を絶とうとこちらへ参った次第だったのです。」
(はぁ!?そんな事言うの!?領主様っていう偉い家に仕えている人が!?執事って、統括する人でしょ!?なんか、ムカムカする!何様!?
だいたい、年齢が上になればなるほど、忘れっぽくなったり、すぐに動けないのはよくある事でしょう!?
歳いったり、体を壊したら終の山に捨て置くって…そうじゃなくて、生活出来るような施設を作りなさいよ!!)
エレナは、話を聞いていてだんだんと怒りが増してきた為に、積もりに積もった胸が苦しくなるような感情を断ち切るかのように、湯船から思い切り立ち上がった。
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