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20.書庫
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地下へと続く階段には照明がなく、数段も下りれば忽ち暗闇に包まれる。闇魔法を使っているため、サリサは暗がりを不気味だとは思わない。
ただしこうも何も見えないと、階段を踏み外してしまう恐れがある。慎重に、慎重に……と心の中で繰り返しながら一段ずつゆっくり下りていると、急に明るくなった。
天井を見上げれば、夕暮れ色の光球がサリサの頭上にふわふわと浮かんでいる。
「悪い悪い。人間は夜目が利かないんだったな。これで見えるか?」
「は、はい、すみません」
ハイドラが魔法で作ってくれた明かりだった。
サリサの動きに合わせて光球も移動する。触ってもいいとハイドラから言われたので試しに触れてみると、ふにふにとマシュマロのような感触。両手で掴んで左右に引っ張るとパン生地のように伸びた光球にびっくりして、慌てて丸め直してから解放してあげた。
サリサの前を歩くハイドラは暗闇など気にせず、軽快な足取りで進んでいる。エルフは暗闇の中でも良好な視界を保てるのだ。
階段はいつまでも続く。地上が遠ざかり、雨の音も聞こえなくなる。廊下の床と同じ材質を使っているのか、足音も吸い取られる。
無音とひんやりとした空気を纏う暗闇の下り階段は、まるで冥府へ続く路。サリサがそろそろ不安を覚え始めていると、数段先に臙脂色の扉が現れた。
ハイドラがその前に立つと、扉は来訪者を招き入れるように勝手に開いた。
「よし、着いたぞ」
迷うことなく中に入ったハイドラをサリサも追いかける。
「……え?」
そして目の前に広がる光景に目を大きく見開く。
地下とは思えない浩々たる空間。
そこに規則正しく並んだ本棚と、そこに隙間なく収められている書物。
読書を楽しむためのテーブルと椅子、ソファーも設置されている。
紙の匂いを含んだ空気は、地下にいるのに温かくて心地よい。
「ヴィクターもアグリッパも本を読むのが好きでな。地下に書庫を作ったんだよ」
「書庫というよりも、もはや図書館のような……」
しかも横に広いだけではなく三層構造になっており、上階にも本棚が置かれている。
この書庫にどれほどの本が眠っているのだろう。十万、二十万……いや、それ以上か。
「ここにある本なら、どれでも好きに読んでいいからな。確かマルリーナ国語で書かれた本は、あの辺にあるはずだ」
「ほぁ」
本棚の数が多すぎて、ハイドラがどの棚を指差しているのか分からない。
けれど本を読みたくても読めない環境に長らくいたサリサにとっては、ここはまるで夢の国のようだ。
ハイドラがいなかったら、喜びのあまり小躍りをしていただろう。
ただしこうも何も見えないと、階段を踏み外してしまう恐れがある。慎重に、慎重に……と心の中で繰り返しながら一段ずつゆっくり下りていると、急に明るくなった。
天井を見上げれば、夕暮れ色の光球がサリサの頭上にふわふわと浮かんでいる。
「悪い悪い。人間は夜目が利かないんだったな。これで見えるか?」
「は、はい、すみません」
ハイドラが魔法で作ってくれた明かりだった。
サリサの動きに合わせて光球も移動する。触ってもいいとハイドラから言われたので試しに触れてみると、ふにふにとマシュマロのような感触。両手で掴んで左右に引っ張るとパン生地のように伸びた光球にびっくりして、慌てて丸め直してから解放してあげた。
サリサの前を歩くハイドラは暗闇など気にせず、軽快な足取りで進んでいる。エルフは暗闇の中でも良好な視界を保てるのだ。
階段はいつまでも続く。地上が遠ざかり、雨の音も聞こえなくなる。廊下の床と同じ材質を使っているのか、足音も吸い取られる。
無音とひんやりとした空気を纏う暗闇の下り階段は、まるで冥府へ続く路。サリサがそろそろ不安を覚え始めていると、数段先に臙脂色の扉が現れた。
ハイドラがその前に立つと、扉は来訪者を招き入れるように勝手に開いた。
「よし、着いたぞ」
迷うことなく中に入ったハイドラをサリサも追いかける。
「……え?」
そして目の前に広がる光景に目を大きく見開く。
地下とは思えない浩々たる空間。
そこに規則正しく並んだ本棚と、そこに隙間なく収められている書物。
読書を楽しむためのテーブルと椅子、ソファーも設置されている。
紙の匂いを含んだ空気は、地下にいるのに温かくて心地よい。
「ヴィクターもアグリッパも本を読むのが好きでな。地下に書庫を作ったんだよ」
「書庫というよりも、もはや図書館のような……」
しかも横に広いだけではなく三層構造になっており、上階にも本棚が置かれている。
この書庫にどれほどの本が眠っているのだろう。十万、二十万……いや、それ以上か。
「ここにある本なら、どれでも好きに読んでいいからな。確かマルリーナ国語で書かれた本は、あの辺にあるはずだ」
「ほぁ」
本棚の数が多すぎて、ハイドラがどの棚を指差しているのか分からない。
けれど本を読みたくても読めない環境に長らくいたサリサにとっては、ここはまるで夢の国のようだ。
ハイドラがいなかったら、喜びのあまり小躍りをしていただろう。
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