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3巻

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 第一章


 俺の名は、ブライ・ユースティア。【つきねこ】という冒険者ギルドに所属していたのだが、ある日、俺は突然そこから追放されてしまった。恋人にも見捨てられ、途方に暮れていた俺に、【ログインボーナス】というユニークスキルが発現する。その力は毎日一つ、〝特典〟が与えられるというもので、魔力を宿した剣から、肩こりを改善させるどうまで、色々な特典を受け取ることができた。
 俺に与えられた特典の中には、王国北端のエイレーン村にある城の権利証も含まれていた。
 その村は、土地はせており、魔族によるしゅうげきひんぱんに起こるという、まさに辺境と呼ぶにふさわしい土地だった。しかし、そんな状況にもかかわらず、村の人々は行き場をなくしていた俺を温かく迎えてくれた。この村に恩返しがしたい――そう思った俺はエイレーン村に腰を落ち着け、【ログインボーナス】の力を使い、村の復興ふっこうに取り組み始めたのである。
 先日俺は、村の復興を進めるべく、仲間達と共にスパリゾートの建設に着手した。
 エイレーンの南にあるノーザンライトという街には、かつてとても栄えた温泉街があったが、富裕層を相手にした前時代的な経営を続ける内に客足が遠のき、寂れてしまっていた。
 しかし俺は、その温泉が持つポテンシャルに目を付け、エイレーン村の近くに巨大温浴施設を建てることで、観光客を呼び戻そうと考えたのだった。
 私腹しふくやそうとする老舗しにせホテルのオーナーなどから、様々な妨害を受けながらも、無事にスパリゾートは完成し、辺境の村の一大観光名所となった。
 そうした過程で、ノーザンライトの老舗ホテル、「アルカディアホテル」の令嬢ユキさんや、【ログインボーナス】の意思が実体化した存在とも言うべきシエルなど、新たな仲間も増え、エイレーン村での生活はますますにぎやかになっていった。

         *

 その日、俺は城の前で、腕を組みながら一人たたずんでいた。
 そろそろ、頼んでいたが届くはずなのだが……

「おーい、ブライくん。例の物が届いたぞ~。山盛りだよ‼」

 そう思うやいなや、喜びを全身に表しながら、エイレーン村の村長であるセインさんが駆け寄ってきた。

「そうか、ついに来たのか」

 セインさんが引き連れている馬車に積まれた荷物を見て、俺はのどを鳴らした。
 どうやらずいぶんていねいに運んでくれたようだ。高い金を掛けて輸送を頼んで良かった。

「それで、ブライくん。この前言っていた秘密兵器とやらは?」
「ああ。誰の目にも触れない場所に、厳重に保管してある。当然、量産済みだ」
「それは良かった。しかし、この村でこんな日を迎えることができるなんて」

 さっきも言ったように、俺達はノーザンライトの北西に大規模なスパリゾートを築き上げた。
 レジャーと療養りょうようを目的とした温浴施設は、その珍しさから多くの観光客を集め、村は空前絶後くうぜんぜつごの好景気に沸き、完全に以前の活気を取り戻したのだ。
 そこで、俺達は村の復興を祝うために、秘密裏にある計画を進めていたのである。

「ちょっと、ブラ~イ‼ なにたくらんでるの~」

 俺とセインさんが荷物の搬入はんにゅうを進めていると、どこからか俺の仲間であるエスティアーナ――エストがジトーッとした表情を浮かべながらやってきた。

「最近、セインさんと二人でこそこそしてると思ったら、なにしてるの?」
「エスト……とうとう見てしまったか」

 俺は深刻そうな口調でエストへ語りかける。

「いけない子だね。我々の秘密を知ってしまうとは」

 そんな俺のノリにセインさんも続く。

「え、なに? なんなの? 二人ともどうかしちゃったの?」

 俺とセインさんのただならぬ雰囲気に、エストが困惑こんわくの表情を見せる。
 しかし、これはあくまでも秘密の企画。目撃者を放っておくわけにはいかない。

「仕方ない。エストには特別に先行公開しよう。ただし、このことはごんようだ。いいな?」
「う、うん……」

 俺達は周囲に人がいないことを確認すると、荷車に積まれている物をエストにろうした。

「こ、ここ、これはまさか‼」

 それを見たエストがこうこつとした表情を浮かべた。
 無理もない。こんな物を見せられれば、誰だってこうなる。

「お、お肉だあぁぁぁぁぁ‼」

 中に積まれていたのは、牧畜ぼくちくが盛んなフェルディア地方産の食肉だ。牛、豚、鶏、いずれも最高級の物が取り揃えられている。

「シッ、誰かに聞こえるぞ」

 俺はとっに背後からエストの口を手でふさいだ。
 これは俺達からのサプライズ。村の人達にはギリギリまで伏せておきたいのだ。

「う、うん。ごめん。でも、これはちょっと……」
「え?」
「う、腕が……」
「す、すまん……」

 咄嗟のこととはいえ、背後から腕を回してというのは少し乱暴だったか。反省せねば。

「で、でも、どうしたのブライ。こんなにたくさんのお肉」
「ああ。エスト、先月のスパリゾートの売り上げ、聞いたか?」
「ううん。全然、知らないけど」
「そうかそれなら教えてやろう。なんと……」

 俺はエストの耳元でこっそりと額を告げる。

「えっ、そんなに⁉」
「ああ、エストのアイディアのおかげで、この村はばくだいな利益を上げたんだ」
「ほえ~。す、凄いね」
「というわけで、みんなでお祝いしようと思ってな。せっかくだしエストも協力してくれ」
「うん。任せて」

 こうして、エイレーン村でバーベキュー大会が開かれることとなった。

         *

 数日後、村人と先日のいくつかの事件で世話になった人達を招いて、村の広場でバーベキューを開催した。

「ブライくんが来てくれたおかげで、この村も以前のように、いやそれ以上に発展する形で復興を遂げた。それだけでもありがたいのに、こうしてバーベキューまで開いてくれた。改めて、ブライくんに感謝を。そして、今日は心ゆくまで楽しもう。乾杯‼」

 セインさんがおんを取ると、乾杯の声が響いた。

「ぷはー‼」
「うまい!」

 みんなが手にしたドリンクを飲み、よろこびを口にする。
 そして、テーブルに置かれた鉄網の上に一斉に肉が置かれてジューッという音を立てた。肉の焼ける音と共に、みんながそれぞれに話を始め、辺りが賑やかになっていく。
 俺のテーブルに座るのは、エスト、村の工房で魔導具の研究をしているレオナ、ハーフエルフのラピス、そしてシエルといういつものメンバーだ。

「ねえ、ブライ。これはなに?」

 シエルが首をかしげながら、テーブルの上の、小皿に注がれた、赤みがかった黒い液体を指差した。
 シエルは、俺のスキル【ログインボーナス】の意思のようなものが、ぼうだいな魔力によって人の形をとった存在である。見た目のおさなさ同様、精神年齢も幼いのか、こうして色々なものに興味を示すことがある。

「フッ、知りたいか? シエル、それこそが今回の秘密兵器だ」
「おー、秘密兵器」
「察するに、肉をこれに付けるのでしょうか?」
「見たことない液体だけど、これは一体……」

 ラピスとレオナも未知の液体に興味津々しんしんだ。

「うむ。これは焼き肉のタレというやつらしい」
「そのまんまなネーミングだね」

 俺の返答に、少し呆れたように返すエスト。

「仕方ないだろう。鑑定したらそうやって表示されたんだ」
「ということは、もしかして、【ログインボーナス】で生み出した物かしら?」

 レオナの指摘に俺は頷く。

「その通りだ」

 俺は、《焼き肉のタレ》を生成した時のことを思い返す。
 あれはスパリゾートの建設が一段落した時のことだ。


「ブライ。新しい調味料が欲しいよ~」

 ほったんはエストの一言であった。
 復興は進んだもののエイレーンでは、未だ物資の選択肢が少なかった。そのため、作れる料理のバリエーションが限られており、エストはレシピの幅を広げるために新たな調味料を欲しがったのだ。

「じゃあ【ログインボーナス】で出してみるか」

 そこで試しに、俺のスキル【ログインボーナス】を発動させたところ、砂糖やスパイス、果てはしょうなどのノーザンライトでもなかなか手に入らない調味料の数々が生み出されたのだった。

「……これは?」

 そして、その中に交じっていたのが《焼き肉のタレ》だ。
 どういう由来の物かは分からず、恐る恐る舐めてみると醤油のような味がした。そこで、醤油をよく使う食文化であるオウカでの生活に詳しいユキさんに聞いてみたが知らないとのことであった。
 それでも、焼いた肉との相性はすさまじかったため、俺はバーベキュー大会でみんなにごそうしようと考えたのだ。


「なにが入っているか分からない謎の調味料ね……」

 レオナが小皿に注がれたタレを眺める。

「一応、醤油をベースにしているようだ。エストなら製法まで調べ上げられるかもしれないな」
「はは、どうかな。オウカの調味料は私には未知の存在だもん。それよりも、今は目の前のお肉を楽しもう。ほら、そろそろ焼けてきたよ」

 俺の言葉にエストがそう言いつつトングで肉をひっくり返すと、ほどよい焼き加減になっていた。木炭のこうばしい香りと相まって、なんとも美味しそうだ。

「エストの言う通りだな。まずは目の前の肉に、しんに向き合うとしよう。いただきます」

 俺は以前習得したはしさばきで、肉をタレに付けると、口の中へと放り込んだ。

「おお、これは――」
「うまああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!!!」

 俺が感想を言う前に、セインさんの絶叫が響いた。

「とりあえず好評みたいだな」

 パーティから追放され、行き場をなくした俺にとって、この村は故郷のようなものだ。いつか恩返しがしたいと思っていたのだが、こうして少しでも楽しんでもらえたのなら良かった。

「そうね。でも、お肉足りるかしら?」

 レオナがそう言って視線をよそのテーブルに移す。
 俺は、レオナの視線の先に目を向けた。
 するとそこにいたのは、優雅なしょで大量の肉を平らげる銀髪の女性騎士であった。

「クレアさんだっけ? とてもれいな人だけど、凄まじい大食いだね」
「貴族の出身だけあって食べ方は上品なんだけどね」

 女性騎士――クレアさんは、北の城塞じょうさいで暗黒大陸からこちらの大陸に攻め込む魔族を相手に、防衛を務めている人だ。今はたまたま魔族の侵攻が収まっていることから、この会に招待したのだが、確かに随分な大食らいだ。

「ブライくーん」

 俺達の視線に気付いたのか、クレアさんがこちらに手を振ってきた。

「折角だし、あいさつぐらいはしておこうかな」

 俺は彼女のテーブルにお邪魔することとした。


「なんというか、珍しい組み合わせだな」

 クレアさんと同席していたのは、レモンさんにユキ、そしてアリシアさんであった。
 レモンさんは自称植物学者だが、その正体はノーザンライト騎士団の前団長の腹心ふくしんであった男。
 ユキはノーザンライト一の宿泊所、アルカディアホテルの元オーナーの孫娘で、スパリゾート建設のために協力し合った仲だ。
 そして、アリシアさん。昔から俺に良くしてくれる教会のシスターで、元仲間に暴力を受け、ギルドを追われた俺を治療してくれて、きゅうを勧めてくれた人だ。おかげで俺はこのエイレーン村という、新たな故郷に巡り合うことができた。彼女には感謝してもしきれない。
 しかし、皆それぞれ俺とは交流のある人達だが、彼女達同士のつながりはあまりないので、随分と新鮮な気分だ。

「そうかもね。実際、私達に交流はほとんどないもの。でも、共通の話題があったから、それでつい盛り上がったの」
「共通の話題……?」
「ここに集まっているのは、みんな剣の使い手なんですよ。私はたしなみ程度ですけど」

 ユキはそう言って俺に笑いかける。
 そういえば、前にノーザンライトを騒がせたつじりを華麗なかたな捌きで斬り伏せたのはユキさんだった。俺は斬ったその場を見たわけではないが、刀を持って佇む彼女の姿は確かにサマになっていた。

「それはけんそんでござるよ。あのあやしげな力で強化されたジーンめを倒したのだから、達人級の腕前なのは間違いないでござる」

 レモンさんがうんうんと頷いてみせる。
 ちなみにレモンさんの素のしゃべり方はこんな感じではないのだが、前団長殺害の罪を着せられたことから、追っ手から逃れるためにこのとがったキャラ作りをしているとのことだ。今もまだその容疑は晴れていないため、そのキャラは続行中のようだ。

「あれは皆さんが消耗しょうもうさせてくれたおかげですから……」
「いやいや、ユキさんの立ち居振る舞いを見たら分かるよ。相当なたんれんを積み重ねた人の動きだもの」
「そうですね。刀という物は、私の使うような長剣よりもはるかに扱いが難しいと聞きますし、よほど鍛錬されたんでしょうね」

 クレアさんとアリシアさんがユキをたたえる。
 立場は違えど二人ともすごうでの騎士だ。そんな二人が認めるほどに、ユキは腕が立つのだろう。

「うーん……アリシア殿は光魔法と長剣の扱いにけたせいきょう。ユキさんはこの国では非常に希少な刀使い。レモン殿はしんそくのごとき剣捌きだと言うし、ブライくんなんて魔人を倒したほどの実力者だ。ここにいる人達で剣術大会なんて開いたら面白そうだね」

 そう言ってクレアさんが上機嫌で笑った。どうやら、少しだけ酔っているようだ。

「い、いやあ、自分はさすがに恐れ多いというか……あくまでも我流の剣なので」

 そう言って俺は謙遜しておく。
 基本的に俺が相手にしてきたのは魔獣ばかりだ。人と競う剣にはあまり自信がない。

「今日はずっとこんな感じで剣の話を?」

 俺は話題を変えようと隣に座るアリシアさんに尋ねる。

「いえ、そんなことはないですよ。他の話も……」
「どんな?」
「そ、それは……」

 アリシアさんが気まずそうに言葉を詰まらせた。答えづらい質問をしてしまったのだろうか?

「ふふ、それはズバリ恋愛トークだよ、ブライくん」
「れ、恋愛トーク?」

 口ごもるアリシアさんを見たクレアさんから、意外な答えが告げられる。それはまた随分と剣の話とはかけ離れた話題だ。
 しかし、恋愛か。俺はつい、周りを見回してしまう。
 クレアさんはしっかりとした人で、人目をくほどに美しい容姿をしているが、強者との戦闘を熱望してやまない武人でもある。戦闘狂といってもいいかもしれない。レモンさんも正体はともかく、今はござる口調のかなりの変人である。
 そんな二人の恋愛というのはまるで想像できない。

「む……なんだか、想像できないって顔してるね? お姉さん、ちょっと傷付いちゃうなー」
「ござるござる」

 どうやら思考が顔に出ていたようだ……
 二人が抗議の視線を送ってくる。

「私だって単なる戦闘狂ってだけじゃないの。ちゃんと理想のタイプがあるのよ」
「そうなんですか? ちなみに、どのような……」

 あまり根掘り葉掘り聞くのもはばかられるが、クレアさんの理想のタイプというのは純粋に興味がある。

「私より強い人」
「ああ……」

 あまりにも〝らしい〟答えで納得してしまった。

「私よりも強い人なら、きっと毎日が楽しいと思うの。朝から晩まで心ゆくまで斬り結んで。いつしか、時間も忘れて二人は強さの高みへと昇る。そして、疲れた身体で穏やかに団らんする。美味しい料理とあの浮遊島ふゆうとうみたいな温泉があれば、こんなに幸せなことはないわ‼」

 うーん。やっぱり戦闘狂。後半はささやかな家族の幸せの形という感じだが、前半の願望を満たしてくれる男はなかなかいなさそうだ。

「ちなみにそういった意味で私の一番の好みはブライくんかなー」

 ――ガチャンッ‼
 クレアさんがいたずらっぽく笑みを浮かべて言うとと、ちょうど同じタイミングでアリシアさんがジュースの入ったグラスを倒してしまった。グラスからジュースがこぼれ、アリシアさんの服にシミを作っていく。

「だ、大丈夫か、アリシアさん?」

 俺はポケットからハンカチを取り出すと、服に付いたシミを拭き取ろうとする。

「あ、あわ、あわわわわわわわわわわわわ」

 しっかりしている彼女にしては珍しい事故で、いつになく動揺しているようだ。

「ブブブブ、ブライさん、その……手がふ、触れ……⁉」
「あ、す、すまない……」

 慌ててアリシアさんの肩から手を離す。咄嗟のこととはいえ、いきなり触れるのはまずかったか。

「その、れたままだと風邪かぜを引くかと思って。無神経だった」
「いいい、いえいえ、その……む、むしろ、あ、ありがとうございます」

 アリシアさんが顔を真っ赤にしてうつむいてみせた。さすがに子ども扱いしすぎただろうか。

「んん……しん的ですなあ、ブライ殿」

 レモンさんがニヤニヤと笑いながらこちらを見てきた。なんだか含みがありそうな笑みだ。

「なんだその笑みは?」
「いやいや、ハンカチを持ち歩いて、女性に気遣いを見せるなんてなかなか手慣れているな~と思っただけでござるよ」
「シエルが飯の時に汚すことがあるから常備しているだけだ。それに……」
「それに、なんでござるか~?」

 いたずらっぽくレモンさんが尋ねてくる。
 あれ……今、俺はなにを言おうとしたんだ?
 服のシミを拭き取っている時、なんだか妙な感覚だった。まるでそうするのが当たり前というか、そうしてアリシアさんの面倒を見るのが自然な流れなような気がして……

「なんでもない。とにかく他意はないからな」

 よくよく考えればおかしな話だ。アリシアさんは俺なんかよりもずっとしっかりした人だ。それをまるで子どもの世話をするように接するなんてやりすぎだ。きっと、どうかしていたのだろう。

「まあ、からかうのは程々にするでござる。それよりも、ユキ殿はどうでござるか?」
「ユキ殿は確か、おさなじみがいましたな? 彼とはどうでござる?」

 幼馴染というのは、確か気弱そうな青年のアンディだ。ユキはともかく、彼の方はユキに想いを寄せていそうだった気がする。

「ふふ、ただのお友達ですよ」

 ユキさんがさらりと言ってのけた。にべもないというか、脈はなさそうな雰囲気だ。

「うーん……ということは、他に心に決めた相手でも?」
「それこそ、まさかです。恋愛についてはよく分かりませんから。でも、結婚するなら父のように優しい人が良いですね」

 ユキさんの父、ニコルさんは穏やかな人だ。彼女もそんな父をしたっているようで、この様子だと恋愛も先の話だろう。

「そんなレモンさんはどうなんだ? 他人のことばかり聞いているが、俺としてはレモンさんのそういう話に興味がある」
「おっとブライ殿、もしやせっしゃに興味津々でござるか? 照れるでござるな~」
「いや、純粋に、普段おどけてるレモンさんの人となりを知る機会だと思ってな」
「むぅ……折角からかったのに、あっさりとかわすでござるね」

 彼のやり方はなんとなく分かってきた。こうしてどうを演じて色々なことをけむに巻いたり、相手をからかうのがお得意のようだ。

「といっても拙者に面白い話などないでござるよ。拙者は生まれも育ちもこのノーザンライトでござる。近所に孤児院があって、いつも一緒に遊んでいた女の子がいたでござるが、その幼馴染が初恋相手でござる。騎士団への入団が決まった十二の時に、告白してあっさりフラれたでござるよ」
「おやおや、意外だなあ。レモン殿は、貴族のご婦人をたぶらかしてるイメージだったから」
「確かに」

 クレアさんの言葉に俺は思わず同意してしまった。
 以前、レモンさんの素顔を見たが、かなり整っていて年上ウケしそうな顔だった。それで、今言ったようなことをしていてもおかしくはなさそうな雰囲気を身にまとっていると思ったのだ。

「お二人は拙者のことをなんだと思ってるでござるか……」
「まあ、うさんくさい偽装をしているんだから、どうしてもそういう目で見られるだろう」
「ぬぅ……なにも言い返せないでござる」

 それにしても、意外だ。
 その幼馴染とはうまくいかなかったようだが、騎士団という安定した地位と彼の容姿からすれば、彼との交際を断る理由はなさそうなのに。

「なんで、フラれたんだ?」
ちょくせつに尋ねるでござるね! まあ、昔のことだから別に構わんでござるが」

 レモンさんは咳払いをしてから語りだした。

「彼女は、それはそれは聖女のように優しい人でござったが、それ故、自分の住む孤児院を支える道を選んだでござる。王都に出稼ぎに行って仕送りをしたいと。だから拙者の気持ちには応えられない、と言っていたでござる」
「孤児院のために出稼ぎを……随分と思いやりのある人なんだろうな」

 レモンさんの、昔を懐かしむその表情を見れば、その人がどれほど優しく、彼の思い出が良いものだったかがうかがい知れる。

「なんだか楽しそうですね……」

 その時、いんなオーラと共に、せ細った背の高い男が現れた。

「お、お前は……」

 意外な登場人物に俺は驚いた。
 そこにいたのは、かつての俺の仲間であるレヴェナントであった。


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