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ロージア領

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 数日後、私は王都を離れてロージア領にやってきていた。

 畑で作業をしている人物に声をかける。

「こんにちは、ドローズさん。最近はどうですか?」
「おおっ、誰かと思ったらランザス坊ちゃんの婚約者の嬢ちゃんか! わざわざ様子を見に来てくれたのかい?」
「はい。領地の産業がうまくいっているか確認するのも、私の役目ですから」

 ロージア領は広大な農地が魅力の大領地だ。

 この土地・気候は農業を営む上で素晴らしく、この領地でないと育たない作物もたくさんある。
 中でも貴族向けの香水の材料になる植物なんかは特に重要な収入源だ。

「婚約者なのに、そんなに領地のことを考えてくれるなんて……嬉しいなあ」

 ドローズさんはそう言ってにっこりと笑った。

 その表情にこっちまで少し笑顔になる。

 ドローズさんは大規模農地を管理する人物だ。すでに六十歳を超えているのに、自分で現場にも出る活力あふれる人でもある。

 こういう人のもとにちょくちょく私は顔を出して、領内の産業の様子を確認しているのだ。
 私がドローズさんと話していると、周囲で作業をしていた農民の人たちが集まってくる。

「誰かと思ったらレイナちゃんじゃないか」
「こんなところまでわざわざ来てくれたのか!」
「おい、休憩して行かないか? うちでとれたできたての野菜があるんだ。みずみずしくておいしいぞ!」
「わあ、ありがとうございます」

 歓迎ムードに思わず笑みを浮かべてしまう私。

 屋敷とは大違いの空気だ。

 あっという間に取り囲まれ、新鮮な野菜や果物が手渡される。
 なんだか故郷の領民たちと接していたときのことを思い出すなあ……

「それにしても……坊ちゃんや当主様はなにをしているのかねえ。こんな若い婚約者の女の子ばかりに働かせて、自分たちは王都から動きもしないなんて」

 ドローズさんはそう不満を口にする。

 彼の言う通りで、領地の査察のような仕事も私が担うようになってきている。

 もちろん書類に目を通したりは義父――ランジスの父親である現当主がやるけど、実際に領地に行ってしなくてはならない業務はすっかり私に押し付けられていた。

 『領地のことを学ぶのも婚約者の務め』だそうだ。

 ……本来ならこれはランジスの仕事だけど、毎回『予定がある』だの、『体調が悪い』だのと言って行こうとしない。

 最初のころは説得しようとしたけど、毎回義両親が出てきて怒鳴られるので、もう諦めた。
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