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6章【外交編・ブライエ国】

18 甘やかすメイド

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「とりあえず反省会は以上だ。あ、メリッサにはオレさまの部下をつけとくわ。語学勉強頑張れって言っておいてくれ。じゃ、オレさま忙しいから次会うときはモットー国でな~」

そう言うとそのまま部屋を出ていくセツナ。言いたいことだけ言って去っていったが、彼なりの気遣いだと受け止めておこう。

「同い年だというのにこうも違うとは、私もまだまだだな」
「ケリー様?」

クエリーシェルの表情はちょっとだけ吹っ切れた顔をしていた。先程の助言で、彼なりに何か思うところがあったのかもしれない。

「ケリー様はケリー様のままでいいと思いますよ?」
「ほら、先程甘やかすなと言われたばかりだろう?」
「そうですけど、私は今のケリー様も好きですよ?もちろん、トラウマが克服できるならそのほうがいいと思いますが、弱い部分も含めて私は好きです」
「またそんな……」
「それじゃ、ダメです?」

クエリーシェルの瞳を覗くように上目遣いで見つめれば、頬を染める。そして、「ズルいぞ」と言ったあとにまたギュッと抱きしめられた。

「リーシェは私を甘やかす天才だな」
「そうですよ。ケリー様のメイドですからね」

口元を緩めて笑うと、そのまま口づけられる。可愛らしいクエリーシェルにキュンと甘くときめきながら、強く彼を抱きしめ返した。





コンコンコン

扉をノックすると、そっとドアが開き、その隙間からひょこっとメリッサが顔を出した。

「〈メリッサ、こんにちは〉」
「〈こんにちは、ステラ。どうぞ、中に入って〉」

言われて中に入る。以前入ったときと同じで、相変わらずこの部屋は殺風景だった。

「〈進捗はどう?〉」
「〈しんちょく……?〉」
「〈あぁ、難しい言葉だったかしら。勉強の進み具合はどう?ってこと〉」

ここのところずっと部屋にこもりきりで心配だったのだが、どうもひたすら部屋で勉強しているらしい。

今後ここで生活するのであれば、言葉を覚えるというのは必須だ。だからこそ、メリッサは必死に覚えるために勉強に励んでいた。

「〈うん、だいぶ……頑張ってはいるよ〉」
「〈そう。偉いわね〉」
「〈ここで暮らしてくって決めたし。じーちゃんもそれを望んでたから……〉」
「〈そっか。でも、ちゃんとやってることは偉いわ〉」
「〈ありがとう〉」

はにかむように笑うメリッサ。褒められることに慣れていないようで、なんだか照れ臭いようだった。

「〈ここの生活には慣れた?〉」
「〈うん。ここにはあたしを虐める人はいないし、びっくりするくらいおもてなししてもらえてる〉」
「〈それはよかった〉」
「〈それに、じーちゃんのお友達も優しいし、セツナさんも優しいし、ゲイルも優しいよ〉」
「〈ゲイル?〉」

聞き慣れない名前に聞き返すと、メリッサは大きく頷いた。

「〈あたしのための侍女さん。年も近くて、すぐに仲良くなったの〉」
「〈そう、それはよかったわね〉」
「〈うん〉」
「〈セツナさんは勉強教えるの上手い?〉」
「〈うん、とっても上手〉」
「〈そっか。明日からはセツナさんお仕事あるらしいから、他の人が勉強見てくれるそうよ〉」
「〈そうなんだ。すぐ帰ってくる?〉」

メリッサの瞳が揺れる。なんとなくセツナが何をしに行くのかは察しているのだろう。師匠のことがあったばかりだから、不安に感じるのも無理はなかった。

「〈大丈夫、すぐに帰ってくるわ。あの人は強いから〉」
「〈そう……。早く帰って来てほしいなぁ……〉」
「〈随分とセツナさんのことお気に入りなのね〉」
「〈うん。お話面白いし、ステラのことも聞いたよ?すごいじゃじゃ馬で異国に来ても家族と離れ離れになっても堂々としてたって褒めてたわ〉」
「〈本当?いつも私の前では貶すくせに〉」
「〈ふふ、きっと素直じゃない人なのね〉」

随分と大人びたことを言うメリッサ。それがなんだか面白かったが、この思春期の時期に下手なことを言ってはトラウマを与えかねないので、顔に出さないように内頬を噛んだ。

「〈ねぇ、ヒューベルトさんは元気?あたし、お礼がしたいんだけど……〉」
「〈メリッサ……〉」
「〈あたしも病室行こうと思ったんだけど、ダメって言われちゃって〉」
「〈そう。……今は色々検査とか状態を確認しなきゃだから、そのうちそれが終わったらヒューベルトさんに会えると思うわ〉」

本当のことは言えなくて、それらしいことを言っておく。だが、きっと聡いメリッサのことだ、恐らくだが察してはいてもあえて知らぬフリをしてくれた。

「〈そっか。じゃあ、ヒューベルトさんに会う頃にはブライエ国語が喋られるようになって、びっくりさせようかな〉」
「〈そうね。それはいい考えだと思うわ〉」

メリッサの頭を撫でる。ヒューベルトのおかげでこの子は無事にここまで来れた、と心の中で再びヒューベルトに感謝しながら、ギュッとメリッサを抱きしめた。
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