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第二十八話 選別は、善悪ではなく都合で行われる
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第二十八話 選別は、善悪ではなく都合で行われる
選別は、
突然始まるものではない。
それは、
すでに壊れた日常の上に、
ごく自然な流れとして
滑り込んでくる。
エルディア王国では、
新たな通達が出された。
――
国家貢献評価制度の導入
職務態度・協力度・
国家安定への寄与度を総合的に評価する。
言葉は、
柔らかい。
だが、
中身は明確だった。
「役に立つ者」を可視化し、
そうでない者を
見えなくする。
王都の官庁では、
早速、
評価表が配られた。
「……これを、
書けと?」
若い官吏が、
紙を見つめる。
項目は、
どれも曖昧だ。
・協調性
・忠誠心
・柔軟な対応力
数値化できないものばかり。
「……基準は?」
「上が決める」
それで、
十分だった。
工房街でも、
変化が起きる。
監督官が、
名簿を持って
歩き回る。
「……君は、
評価が高い」
「こちらは、
要改善だ」
理由は、
説明されない。
説明する必要が
ないからだ。
結果。
評価の高い者には、
資材が回る。
評価の低い者には、
仕事が減る。
誰も、
文句を言わない。
なぜなら――
評価に逆らうと、
次は自分だと
分かっているから。
教会にも、
同じ制度が
持ち込まれた。
「……奉仕活動への
積極性を、
評価対象に」
ミレイア・ルミナスは、
その文書を
読み終え、
しばらく
黙っていた。
「……祈りを、
点数で測るのですね」
返事は、
なかった。
彼女は、
初めて、
自分が
“高評価側”に
いることを
自覚した。
そして――
それが、
何よりも怖かった。
王都の外れ。
第二十六話から
記録を続ける者たちは、
新しい項目を
紙に書き加えていた。
「評価制度、
始まりました」
「基準不明。
異議申し立て不可」
「……これは、
分類だ」
学生が、
歯を食いしばる。
「善人か悪人かじゃない」
「便利か、
不便かだ」
誰かが、
静かに言った。
「……そして、
不便な者から
消える」
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
評価制度の報告を読み、
ため息をついた。
「……やはり」
アーヴィンが問う。
「予想通りか」
「ええ」
彼女は、
淡々と答える。
「選別は、
必ず
“合理性”の仮面を
被ります」
「反対しにくい」
「はい。
善悪ではなく、
効率の話に
すり替えられるから」
エルディア王国では、
早くも、
“空気”が変わり始めていた。
「……あの人、
評価、低いらしい」
「近づかない方が
いいな」
人は、
自分を守るために、
他人を
切り離す。
ルーファス・ヴァルディオスは、
評価報告を前に、
深く目を閉じた。
「……私は、
国を守るつもりで」
言葉が、
続かない。
守っているのは、
国ではない。
都合のいい形に
整えられた秩序だ。
選別は、
まだ
血を流さない。
だが――
心を、
確実に
削っていく。
そして、
削られ続けた者は、
ある日、
ふと気づく。
**「自分は、
もう、
人として
扱われていない」**と。
その気づきが、
積み重なった時、
社会は
必ず
次の段階へ
進む。
――
排除。
選別は、
そのための
準備運動に
過ぎない。
エルディア王国は、
今、
静かに、
その扉に
手をかけていた。
選別は、
突然始まるものではない。
それは、
すでに壊れた日常の上に、
ごく自然な流れとして
滑り込んでくる。
エルディア王国では、
新たな通達が出された。
――
国家貢献評価制度の導入
職務態度・協力度・
国家安定への寄与度を総合的に評価する。
言葉は、
柔らかい。
だが、
中身は明確だった。
「役に立つ者」を可視化し、
そうでない者を
見えなくする。
王都の官庁では、
早速、
評価表が配られた。
「……これを、
書けと?」
若い官吏が、
紙を見つめる。
項目は、
どれも曖昧だ。
・協調性
・忠誠心
・柔軟な対応力
数値化できないものばかり。
「……基準は?」
「上が決める」
それで、
十分だった。
工房街でも、
変化が起きる。
監督官が、
名簿を持って
歩き回る。
「……君は、
評価が高い」
「こちらは、
要改善だ」
理由は、
説明されない。
説明する必要が
ないからだ。
結果。
評価の高い者には、
資材が回る。
評価の低い者には、
仕事が減る。
誰も、
文句を言わない。
なぜなら――
評価に逆らうと、
次は自分だと
分かっているから。
教会にも、
同じ制度が
持ち込まれた。
「……奉仕活動への
積極性を、
評価対象に」
ミレイア・ルミナスは、
その文書を
読み終え、
しばらく
黙っていた。
「……祈りを、
点数で測るのですね」
返事は、
なかった。
彼女は、
初めて、
自分が
“高評価側”に
いることを
自覚した。
そして――
それが、
何よりも怖かった。
王都の外れ。
第二十六話から
記録を続ける者たちは、
新しい項目を
紙に書き加えていた。
「評価制度、
始まりました」
「基準不明。
異議申し立て不可」
「……これは、
分類だ」
学生が、
歯を食いしばる。
「善人か悪人かじゃない」
「便利か、
不便かだ」
誰かが、
静かに言った。
「……そして、
不便な者から
消える」
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
評価制度の報告を読み、
ため息をついた。
「……やはり」
アーヴィンが問う。
「予想通りか」
「ええ」
彼女は、
淡々と答える。
「選別は、
必ず
“合理性”の仮面を
被ります」
「反対しにくい」
「はい。
善悪ではなく、
効率の話に
すり替えられるから」
エルディア王国では、
早くも、
“空気”が変わり始めていた。
「……あの人、
評価、低いらしい」
「近づかない方が
いいな」
人は、
自分を守るために、
他人を
切り離す。
ルーファス・ヴァルディオスは、
評価報告を前に、
深く目を閉じた。
「……私は、
国を守るつもりで」
言葉が、
続かない。
守っているのは、
国ではない。
都合のいい形に
整えられた秩序だ。
選別は、
まだ
血を流さない。
だが――
心を、
確実に
削っていく。
そして、
削られ続けた者は、
ある日、
ふと気づく。
**「自分は、
もう、
人として
扱われていない」**と。
その気づきが、
積み重なった時、
社会は
必ず
次の段階へ
進む。
――
排除。
選別は、
そのための
準備運動に
過ぎない。
エルディア王国は、
今、
静かに、
その扉に
手をかけていた。
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