理由を与えなかった聖女は、名を呼ぶことを選んだ

鷹 綾

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第二十九話 排除は、合理化という言葉で正当化される

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第二十九話 排除は、合理化という言葉で正当化される

 

 選別が定着した社会では、
 次に必要とされるのは――
 **「説明」**だ。

 なぜ、
 仕事が減る者がいるのか。
 なぜ、
 支援が届かない者がいるのか。

 その答えは、
 もう用意されていた。

 

 ――
 「評価が低いから」

 

 エルディア王国では、
 評価制度を補完する
 新たな指針が示された。

 ――
 支援資源の最適配分
 国家貢献度の低い者への
 優先的支援は見送る。

 

 誰も、
 “排除”とは
 書いていない。

 だが――
 意味は、
 十分だった。

 

 市場の裏手。

 かつて賑わっていた
 小さな露店が、
 静かに畳まれている。

「……資材が、
 回らなくなって」

 店主は、
 それ以上を
 語らなかった。

 

 隣の店主も、
 視線を逸らす。

「……評価の問題だ」

 それが、
 免罪符になっている。

 

 工房街では、
 さらに露骨だった。

「……この工房、
 閉鎖だそうだ」

「理由は?」

「……“改善が見られない”」

 

 改善とは、
 何か。

 誰も、
 定義できない。

 

 教会でも、
 変化は避けられなかった。

 炊き出しの回数が、
 減る。

「……対象者を、
 見直しました」

 担当司祭が、
 そう説明する。

 

 ミレイア・ルミナスは、
 その名簿を見て、
 言葉を失った。

「……この方たちは」

「評価が……」

 

 評価。

 それは、
 神の前では
 何の意味も持たない言葉だ。

 

 だが、
 現実では――
 すべてを
 決めていた。

 

 夜。

 王都の外れで、
 また一人、
 姿を消した。

 工房を失い、
 支援も断たれ、
 住む場所もなくなった男。

 

 翌日、
 官報に、
 名前は載らない。

 ただ、
 統計の一行だけが
 更新される。

 ――
 「自立不能者、
 国外流出」

 

 誰も、
 それを疑わない。

 疑う理由が、
 もう
 与えられていないから。

 

 記録を続ける者たちは、
 紙に、
 震える文字で
 書き足す。

「……排除、
 始まりました」

「まだ、
 静かだ」

 

「でも、
 戻れない段階だ」

 

 一方、
 シュヴァルツガルト公国。

 セラフィーナは、
 報告を読み、
 ゆっくりと
 目を閉じた。

「……始まって
 しまいましたね」

 

 アーヴィンは、
 短く問う。

「止めるか」

 

 彼女は、
 少し考えてから
 答えた。

「……いいえ」

 

「まだ、
 国の内側で
 “理解”が
 揃っていません」

 

「排除は、
 痛みを
 伴います」

「その痛みを、
 “異常だ”と
 自分たちで
 認識しない限り、
 外からの介入は
 侵略に見える」

 

 エルディア王国では、
 今日も
 静かな一日が
 終わる。

 声は上がらず、
 血も流れない。

 

 だが――
 人が、
 人として
 数えられなくなる
 段階に、
 確実に
 入っていた。

 

 排除は、
 悪意から
 始まらない。

 合理化から
 始まる。

 

 そして、
 合理化された排除は、
 やがて、
 誰の目にも
 異常だと
 映る瞬間を
 迎える。

 

 その瞬間こそが、
 この国が
 最後に
 選択を迫られる
 時だった。

 ――
 壊れるか、
 目を覚ますか。
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