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第三十話 数えられなくなった人間は、声を持たない
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第三十話 数えられなくなった人間は、声を持たない
排除が日常に溶け込んだ社会では、
人は二種類に分けられる。
――数えられる者と、
――数えられない者。
エルディア王国では、
その境界が、
いつの間にか
固定されていた。
官庁の統計表。
そこに載るのは、
数字だけだ。
・生産人口
・納税者数
・国家貢献指数
名前は、
どこにもない。
王都の裏通り。
かつて、
評価が低いとされた者たちが
集まる場所があった。
集まる、といっても、
言葉を交わすわけではない。
ただ、
同じ場所に
座っているだけ。
「……今日も、
配給は来なかったな」
誰かが、
小さく呟く。
返事は、
ない。
彼らは、
怒っていない。
嘆いてもいない。
ただ――
期待していない。
期待しない人間は、
声を上げない。
声を上げない人間は、
記録されない。
こうして、
彼らは
「存在しない者」に
なっていく。
教会。
ミレイア・ルミナスは、
炊き出しの鍋を前に、
立ち尽くしていた。
「……今日で、
終わりです」
担当者が、
申し訳なさそうに言う。
「対象者の再選定により……」
彼女は、
言葉を探した。
だが、
見つからなかった。
神に祈る言葉は、
まだある。
だが――
人に向けて
語る言葉が
消えていた。
その夜。
王宮では、
新たな提案が
検討されていた。
「……非生産層の
集住区域を
設けてはどうか」
誰も、
「収容」とは
言わない。
ただ、
「管理」と
呼ぶ。
ルーファス・ヴァルディオスは、
その言葉を聞き、
ついに
立ち上がった。
「……やめろ」
会議室が、
静まり返る。
「それは、
排除ではない」
声が、
震える。
「抹消だ」
側近の一人が、
冷静に返す。
「ですが、
現実的な解決策です」
その言葉が、
胸を貫いた。
現実的。
それは、
いつから
人を
切り捨てる理由に
なったのか。
王都の外れ。
記録を続ける者たちは、
紙束を前に
沈黙していた。
「……もう、
“排除”じゃない」
学生が、
呟く。
「……“消去”だ」
彼らは、
初めて、
恐怖よりも
強い感情を
抱いた。
――
怒り。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
すべての報告を
読み終え、
静かに立ち上がった。
「……ここまで、
来ましたね」
アーヴィンが問う。
「動くか」
彼女は、
一瞬だけ
目を閉じ、
そして――
頷いた。
「はい」
「これ以上、
“待つ”ことは、
助けではありません」
彼女は、
誰にも聞かれない声で
呟く。
「数えられなくなった人間は、
自分で
声を
取り戻すことが
できない」
「だから――」
アーヴィンが、
続きを促す。
「だから、
名前を
呼ぶ者が
必要です」
エルディア王国では、
今夜も
静かだ。
誰も、
叫ばない。
だが――
静寂の底で、
確実に
何かが
変わり始めている。
数えられなくなった人間に、
再び
名前が
与えられる時。
それは、
この国にとって
最も
恐ろしい
瞬間になる。
なぜなら――
名前を呼ばれた瞬間、
人は
人に戻るからだ。
そして、
人に戻った者たちは、
必ず、
問いを口にする。
――
「なぜ、
私は
数から
消されたのか」
排除が日常に溶け込んだ社会では、
人は二種類に分けられる。
――数えられる者と、
――数えられない者。
エルディア王国では、
その境界が、
いつの間にか
固定されていた。
官庁の統計表。
そこに載るのは、
数字だけだ。
・生産人口
・納税者数
・国家貢献指数
名前は、
どこにもない。
王都の裏通り。
かつて、
評価が低いとされた者たちが
集まる場所があった。
集まる、といっても、
言葉を交わすわけではない。
ただ、
同じ場所に
座っているだけ。
「……今日も、
配給は来なかったな」
誰かが、
小さく呟く。
返事は、
ない。
彼らは、
怒っていない。
嘆いてもいない。
ただ――
期待していない。
期待しない人間は、
声を上げない。
声を上げない人間は、
記録されない。
こうして、
彼らは
「存在しない者」に
なっていく。
教会。
ミレイア・ルミナスは、
炊き出しの鍋を前に、
立ち尽くしていた。
「……今日で、
終わりです」
担当者が、
申し訳なさそうに言う。
「対象者の再選定により……」
彼女は、
言葉を探した。
だが、
見つからなかった。
神に祈る言葉は、
まだある。
だが――
人に向けて
語る言葉が
消えていた。
その夜。
王宮では、
新たな提案が
検討されていた。
「……非生産層の
集住区域を
設けてはどうか」
誰も、
「収容」とは
言わない。
ただ、
「管理」と
呼ぶ。
ルーファス・ヴァルディオスは、
その言葉を聞き、
ついに
立ち上がった。
「……やめろ」
会議室が、
静まり返る。
「それは、
排除ではない」
声が、
震える。
「抹消だ」
側近の一人が、
冷静に返す。
「ですが、
現実的な解決策です」
その言葉が、
胸を貫いた。
現実的。
それは、
いつから
人を
切り捨てる理由に
なったのか。
王都の外れ。
記録を続ける者たちは、
紙束を前に
沈黙していた。
「……もう、
“排除”じゃない」
学生が、
呟く。
「……“消去”だ」
彼らは、
初めて、
恐怖よりも
強い感情を
抱いた。
――
怒り。
一方、
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
すべての報告を
読み終え、
静かに立ち上がった。
「……ここまで、
来ましたね」
アーヴィンが問う。
「動くか」
彼女は、
一瞬だけ
目を閉じ、
そして――
頷いた。
「はい」
「これ以上、
“待つ”ことは、
助けではありません」
彼女は、
誰にも聞かれない声で
呟く。
「数えられなくなった人間は、
自分で
声を
取り戻すことが
できない」
「だから――」
アーヴィンが、
続きを促す。
「だから、
名前を
呼ぶ者が
必要です」
エルディア王国では、
今夜も
静かだ。
誰も、
叫ばない。
だが――
静寂の底で、
確実に
何かが
変わり始めている。
数えられなくなった人間に、
再び
名前が
与えられる時。
それは、
この国にとって
最も
恐ろしい
瞬間になる。
なぜなら――
名前を呼ばれた瞬間、
人は
人に戻るからだ。
そして、
人に戻った者たちは、
必ず、
問いを口にする。
――
「なぜ、
私は
数から
消されたのか」
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