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【第49話】予測と対策
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1時間ほど森の中を走ってみたものの、結局は一体の魔物も見つけることはできなかった。
鳥や動物の鳴き声は普通に聞こえていた事を考えると、森自体に異常が発生したわけではなさそうだ。
「どういう事だろ?」
河原にHaTMCを止めた漣が尋ねると、イヴは難しい顔で首を振った。
ここは、イヴがゲートを破壊した場所だ。
「魔物だけが忽然と消えるなど、自然ではあり得ないわ……」
「やっぱり、あの魔族が関係してるって事だよね」
イヴも同意して頷く。
「何処か……私たちに気付かれないような所に、集めているのかもしれない……」
「それって、つまり……」
二人はほぼ同時に同じ答えに辿り着き、顔を見合わせる。
「急いでリーナたちに合流して、街に戻りましょう」
「ああ、わかった」
帰りは森の中を探索する必要はない。
漣はHaTMCのハンドルを上に持ち上げ、樹々を越える高さへと上昇させた。
「きゃ」
押し殺した声で、イヴが悲鳴を上げる。
「ちょっととばすよ、しっかり掴まってて」
「は、はいっ」
HaTMCは一気に加速し、森の上空を滑るように飛翔する。
「た高っ、速っっ」
HaTMCの最高速はマッハ2だが、今は時速300Kmほど。展開されたウィンドシールドのお陰で、風圧を身体に受けることはない。
「やっ」「ダメっ」
それでも、イヴにとっては未知の体験だったらしく、飛行中に何度も小さな悲鳴が聞こえていた。
少し気の毒に思いつつも漣はスロットルを緩めず、一時間掛かった距離を僅か6分程度でリーナたちの所まで戻る。
「すっご~い! それって空も飛べたんだ!」
上空から現れた漣たちを見て、リーナがらんらんと目を輝かせていたのは言うまでもない。
「それで、どうでしたか?」
リーナとは対照的に真剣な表情で尋ねるクレムには、この状況の先に起こり得る事を予測できているのかもしれない。
「あまり良い予兆とは言えないわ。すぐ街に戻りましょう」
HaTMCを亜空間収納に納めて、漣たちは獣車でクローナークへと戻った。
◇◇◇◇◇
街に着くころには既に日が落ちていたが、イヴはそのまま商人ギルドの長であるフェリクス・マートの元を訪ねた。
元々イヴに協力的だったフェリクスは素直に彼女の警告を信じ、明日の早朝にも自警団に呼びかけ、準備に取り掛かると約束してくれた。
問題は守備隊長のゼール男爵だ。
「魔族が魔物の軍勢を引き連れて襲ってくる? しかも、近日中に?」
だが、森での経緯を聞いたゼールから戻って来たのは、意外にもイヴの予想に反した言葉だった。
「貴方がそこまで仰るのなら、本当に起こり得る事なのでしょうな。分かりました、我々も明日の早朝から兵士に準備させましょう。戦闘の主軸はお任せしてもよろしいですかな? では、住民がパニックを起こさぬよう、慎重に事を運びます」
それはまさに僥倖ともいえる事だったが、ゼールも守備隊長という任務を忘れてはいなかったのだろう。
ゼールの協力も取り付けた事で、これから取れる対応にもいろいろと幅が出てくるのは好ましい。
「ありがとうございます」
イヴは初めてゼールに笑顔を見せ、屋敷を後にした。
「いつでも出航できるよう、私の船を準備しておけ」
イヴが部屋から出て行くと、ゼールは傍らに控えた副隊長に指示する。
「住民の避難用ですか?」
話の流れから、副隊長はそう受け取ったのだろう。
「住民? 住民など、逃がす価値があるか? 船には私の財産を積み込めばいい」
「しかし、勇者に協力するのでは?」
副隊長はわざとらしく首を傾げた。
「これは好機だ、もちろん協力はする、勝てるようならな。だが、勝てないようなら、責任を取ってもらおうではないか」
もとより、ゼールには守備隊長としての誇りも、住民と街を守るという意志もない。
「魔物や魔族は、結界の中には入れんのだ。勇者と守備隊を、外に出して戦わせれば問題なかろう?」
その間に伝令を出し、援軍を要請する。
勇者たちが、それまで持ちこたえればそれで良し。もし、敗れるようであれば、どうせ街は壊滅するだろうから、負傷を装って脱出すれば良い。
所謂、名誉の負傷だ。
ゼールにあるのは、自らの立身出世への望みだけだった。
鳥や動物の鳴き声は普通に聞こえていた事を考えると、森自体に異常が発生したわけではなさそうだ。
「どういう事だろ?」
河原にHaTMCを止めた漣が尋ねると、イヴは難しい顔で首を振った。
ここは、イヴがゲートを破壊した場所だ。
「魔物だけが忽然と消えるなど、自然ではあり得ないわ……」
「やっぱり、あの魔族が関係してるって事だよね」
イヴも同意して頷く。
「何処か……私たちに気付かれないような所に、集めているのかもしれない……」
「それって、つまり……」
二人はほぼ同時に同じ答えに辿り着き、顔を見合わせる。
「急いでリーナたちに合流して、街に戻りましょう」
「ああ、わかった」
帰りは森の中を探索する必要はない。
漣はHaTMCのハンドルを上に持ち上げ、樹々を越える高さへと上昇させた。
「きゃ」
押し殺した声で、イヴが悲鳴を上げる。
「ちょっととばすよ、しっかり掴まってて」
「は、はいっ」
HaTMCは一気に加速し、森の上空を滑るように飛翔する。
「た高っ、速っっ」
HaTMCの最高速はマッハ2だが、今は時速300Kmほど。展開されたウィンドシールドのお陰で、風圧を身体に受けることはない。
「やっ」「ダメっ」
それでも、イヴにとっては未知の体験だったらしく、飛行中に何度も小さな悲鳴が聞こえていた。
少し気の毒に思いつつも漣はスロットルを緩めず、一時間掛かった距離を僅か6分程度でリーナたちの所まで戻る。
「すっご~い! それって空も飛べたんだ!」
上空から現れた漣たちを見て、リーナがらんらんと目を輝かせていたのは言うまでもない。
「それで、どうでしたか?」
リーナとは対照的に真剣な表情で尋ねるクレムには、この状況の先に起こり得る事を予測できているのかもしれない。
「あまり良い予兆とは言えないわ。すぐ街に戻りましょう」
HaTMCを亜空間収納に納めて、漣たちは獣車でクローナークへと戻った。
◇◇◇◇◇
街に着くころには既に日が落ちていたが、イヴはそのまま商人ギルドの長であるフェリクス・マートの元を訪ねた。
元々イヴに協力的だったフェリクスは素直に彼女の警告を信じ、明日の早朝にも自警団に呼びかけ、準備に取り掛かると約束してくれた。
問題は守備隊長のゼール男爵だ。
「魔族が魔物の軍勢を引き連れて襲ってくる? しかも、近日中に?」
だが、森での経緯を聞いたゼールから戻って来たのは、意外にもイヴの予想に反した言葉だった。
「貴方がそこまで仰るのなら、本当に起こり得る事なのでしょうな。分かりました、我々も明日の早朝から兵士に準備させましょう。戦闘の主軸はお任せしてもよろしいですかな? では、住民がパニックを起こさぬよう、慎重に事を運びます」
それはまさに僥倖ともいえる事だったが、ゼールも守備隊長という任務を忘れてはいなかったのだろう。
ゼールの協力も取り付けた事で、これから取れる対応にもいろいろと幅が出てくるのは好ましい。
「ありがとうございます」
イヴは初めてゼールに笑顔を見せ、屋敷を後にした。
「いつでも出航できるよう、私の船を準備しておけ」
イヴが部屋から出て行くと、ゼールは傍らに控えた副隊長に指示する。
「住民の避難用ですか?」
話の流れから、副隊長はそう受け取ったのだろう。
「住民? 住民など、逃がす価値があるか? 船には私の財産を積み込めばいい」
「しかし、勇者に協力するのでは?」
副隊長はわざとらしく首を傾げた。
「これは好機だ、もちろん協力はする、勝てるようならな。だが、勝てないようなら、責任を取ってもらおうではないか」
もとより、ゼールには守備隊長としての誇りも、住民と街を守るという意志もない。
「魔物や魔族は、結界の中には入れんのだ。勇者と守備隊を、外に出して戦わせれば問題なかろう?」
その間に伝令を出し、援軍を要請する。
勇者たちが、それまで持ちこたえればそれで良し。もし、敗れるようであれば、どうせ街は壊滅するだろうから、負傷を装って脱出すれば良い。
所謂、名誉の負傷だ。
ゼールにあるのは、自らの立身出世への望みだけだった。
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