王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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21. 押し倒された(リシャール視点)

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「フルールーー!  押し倒すってなんだぁぁー!  そこは素直に告白でいいだろーー!?」

 部屋に残されたお兄様がそんなことを叫んでいたなんて知りもしない私は、そのままリシャール様の元に走る。

(なんてこと!  私としたことが珍しく考えすぎちゃったわ!)

 好き。
 私も、リシャール様のことが好きだわ。
 だって、思い返してみればずっとずっと私の身体は心に正直だったじゃない!
 胸がキュンとしたりドキドキしたり……顔が赤くなって恥ずかしくなって……

(よし!)

 リシャール様の部屋の扉の前に立った私は大きく深呼吸をしてからノックをした。

「───リシャール様!  大事なお話があります!」



❈❈❈



(こ、これはどういう状況だ!?)

 僕、リシャールは今、困惑していた。
 しかし、これはこれで人生最大のご褒美を貰っているかのような状況になっていた。

(愛しい人……フルールが僕を押し倒して来たんだが!?)


─────


 部屋の扉がノックされて開けてみれば、立っていたのはフルール。

「───リシャール様!  大事なお話があります!」

 顔を合わせるなりそう言った彼女。
 肩で息をしていたからどこからか走って来たのだとすぐに分かった。
 相変わらず、フルールは元気いっぱいだな……と微笑ましく思った。

「フルール?  大事な話とは?  頬も何だか赤い──……」

 そう言いかけた所でフルールの方から僕に抱きついてきた。

(……え!?)

 カチンッと僕は固まった。

 ベルトランとの慰謝料の件は今後、争うことにはなるようだが婚約破棄は成立……という事態になったのに触れるのは……という態度なので、なかなか触れられず、ちょっと強引に額へのキスへと辿り着くのが精一杯だったんだぞ?
 そんなフルールが……

 自ら抱きついてきた……だと!?

 混乱した僕の行き場のない手が宙を彷徨う。
 これは、背中に手を回して抱きしめ返しても許される……のか?
 いや?  これはあわよくばそのまま、またキスをしても……

「リシャール様……」
「……っっっ」

(か、可愛いーーーー!)

 フルールが僕の名前を呼ぶと胸の中から顔を上げた。
 その表情が可愛くて声を詰まらせる。

「お話がしたいです」
「わ、分かった、うん。じゃあ、あっちに座って───」

 僕がソファに視線を向けながらそう言ったら、フルールは首を横に振る。

「フルール?」
「いえ……ソファに座ってではなく…………あちらで」

 あちら……と、フルールが恥ずかしそうに指をさした。
 あちら?  そう思ってその視線を辿ると……

(べ、ベッド!?)

 ボンッと僕の顔が一瞬で真っ赤になる。

「フルール……あそこは僕の寝室……」
「……分かっていますわ」

(ど、どういうことなんだーーーー!?)

 僕は天を仰ぐ。
 今、今ならすごく、すごーーーく、アンベール殿の気持ちが分かる。
 何を言い出すか分からず、行動が全く読めないフルール。
 なのに憎めず、可愛いんだ。

「……」
「リシャール様?」
「わ、分かった」

 フルールのお願いを聞いて僕たちはベッドに移動した。

 そして、そのまま座って話をするのかと思ったら……

「リシャール様、横になって下さいませ」
「え?  ベッド……に?」
「はい……」

 何故かフルールにそのままベッドに横になってくれと言われた。

(あ!  ……もしかして、フルールは僕が疲れていると思ったのか?  それで休ませようと?)

 ついつい不埒な想像をしてしまった自分のことを恥じた。

 フルールたち、シャンボン伯爵家の人々のおかげですっかり僕の負った傷は癒えた。
 心に負うはずだった傷もフルールのおかげで考え方を変えたらスッキリしたので全然元気なんだけどな。

(悪役王女……虫けら……捨てられたんじゃない。捨てたのは僕……これからは自由……人を頼ってもいい……)

 どれもこれもフルールの中では何気ない言葉だったのだと思う。
 上辺だけで僕を慰めようとした言葉じゃなかったから、全て心にスッと入って来た。
 ───僕はそんなフルールの言葉と明るさに救われた。

「……」
「!」

 フルールの顔を見たらニコッと微笑まれた。 
 瞬間、自分の頬がカッと熱くなったのが分かる。

(それでいて笑顔が可愛いとか本当に本当に反則だ……)

 こんな子がそばにいて惚れない理由がない。
 王女殿下との婚約は義務のようなものだった。
 そこに特別な感情は一切なく……だからといって他の誰かに惹かれるなんてこともなく……

(フルールは“僕”が初めて自分で欲しいと思った)

 だから絶対にフルールのことは諦めない。
 この先、他の誰かがフルールの心の中に入って来ないように、これから口説いて口説いて口説いて口説きまくって、僕を好きになってもらう!

 そんなことを考えながらベッドに横になる。
 すると、それを見たフルールが嬉しそうに笑った。  
 
 僕はベッドで横になり、フルールはその傍らに座る……

(何だか、看病してもらっていた時みたいだな)

 なんて少し前までのことを懐かしく思った時だった。

「では、私も!」
「え?」

 なんと、そう言ったフルールが僕が横になっているベッドに乗り上げて……

(……え?  は?  な、なんだ?)

 そのままフルールは僕の上に覆い被さり、まるで僕は押し倒されたような体勢になった。



─────



「リシャール様……」
「……っ!」

 僕の上に覆い被さっているフルールの可愛い顔がそっと近付いて来る。
 その顔は真っ赤でどこからどう見ても照れているのが丸わかり。
 フルールはなぜ、照れながらもこんなことを?

 僕は下からフルールをじっと見上げる。

 ───これはなんなんだ?  なんのご褒美なんだ!?
 今まで色々なことを我慢して来た僕にくれた天からのサービスか何かなのか?

「フ、フルール!  僕に話があるのでは?  大事な話だと」
「……はい。大事な話ですわ」 
「……」 

(なら、この体勢はなんなんだい?)

 そう聞きたいけど聞けなかったのは、じゃあ、どきますね。と言われて本当にどかれるのが嫌だったから。

「リシャール様!」
「え?」  

 ───チュッ!

 僕の名前を呼んだフルールの顔がぐっと近付いて来て、チュッと僕の頬にキスをした。
 それは、ほんの一瞬だったけれど、確かにフルールの柔らかい唇が……頬に触れた。

「……」
「……フ、フルール……」
「……」
「い、今のは」

 下から見上げたフルールの顔は更に真っ赤になって照れていた。

(待ってくれ!  ────めちゃくちゃ可愛いんだが!?)

 僕の興奮が止まらない!
 そして、フルールはそんな真っ赤な顔のまま僕に向かって言う。

「…………わ、私がお兄様の顔に“おにーさま、大スキ”と落書きをしたという話の時に……リシャール様は言いました」
「う、うん?」

 あの時は、とにかくフルールと仲が良くてさらに、“大好き”と書かれたアンベール殿が羨ましくて僕は対抗するように、フルールになら落書きされてもいいかなと言った。

 僕が頷くと真っ赤な顔のフルールは、たった今、僕にキスをした頬を指さしながら言う。

「……そこにリシャール様、大好きと書いてくれてもいいよ、と」
「え?」 

(なんだって?)

 驚いた僕と顔が真っ赤で少し涙目の可愛いフルールとの目が合う。
 そして、フルールはそんな可愛い顔のまま叫んだ。

「で、ですから!  “リシャール様、大好き”……という想いを込めてキスを贈りましたの!!」

 ───と。
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