王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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24. 悩んだ結果

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───


(大丈夫だ。ちょっと揉めたけど大丈夫……)

「父上、ご安心ください!  僕たちの真実の愛は本物ですから!」
「ベルトラン。本当か?」
「はい!」

 僕はキッパリ宣言する。
 そう。真実の愛は本物だ!  運命なんだから!

 だから、課題も試験もきっとなんとかなる。
 そうさ!  フルールだって、きっと強がってこんな返事を書いたに違いない。
 根気強く誘いをかけ続ければきっと絆されてくれる……

 大丈夫、上手くいく……

(シルヴェーヌ様にはフルールの承諾が得られた時に、二人で会うことになったけど誤解しないでくれと説明すればいい)

 ……今は余計なことを言って波風は立てたくない。


❈❈❈❈❈


 ────リシャール様と気持ちを通わせてから数日経った。
 モリエール伯爵家……ベルトラン様に送り返した手紙の返事を待つ間、私なりに色々考えた。


「なに?  王女殿下……王家にも慰謝料請求をする?」
「ええ、お父様。私、ここ数日悩みに悩んで考えていたのですけど……遂に決めましたわ」

 その日の夕食の席で、四杯目のおかわりを手にしながら私は皆に向かってそう宣言した。

「四杯目……これが数日、悩みに悩んで考えごとをしていた人間の食欲……か?」
「お兄様?  何か言いました?」
「……い、いや?  コホッ……なんでもない。フルールのお腹は今日も元気だなと思っただけだ」
「当然ですわ!  私のお腹ですもの。ちょっとやそっとじゃ壊れませんわよ!」

 私はポンッと自分のお腹を叩いてみせた。

「あー……うん。フルールのお腹だから強いよな……それで?  王家への慰謝料請求は慎重にいくんじゃなかったのか?」

 顔を引き攣らせていたお兄様が今度は心配そうに訊ねてくる。
 もちろん、その通りよ!
 私はふふっと笑った。

「そう思っていたのですけど───」

 チラッと向かい側に座っているリシャール様に視線を向ける。
 さすがマナーも完璧なリシャール様!  思わず惚れ惚れする動きで食事を摂っているわ。
 すると、そんな私の熱い視線を感じ取ってくれたリシャール様と目が合った。

(……やっぱり綺麗な顔!  国宝!)

 私がうっとり見惚れていると、リシャール様が照れ出した。

「フ、フルール……!  そんなに見つめられると……て、照れる……」
「え?  あ……す、すみません!  リシャール様がこくほ……素敵でしたので!」
「素敵?  あ、ありがとう……」
「!」

 ますます照れるリシャール様につられた私も顔が赤くなる。

「……」
「……」

 赤くなった私たちは無言で見つめ合う。
 とっても幸せな空気を感じた。
 こういうふとした時に幸せを感じられるって素敵よね……なんて思って幸せに浸ってうっとりしていたら、突然お兄様に肩を揺さぶられた。

「───フルール!  幸せオーラを振りまくのは構わないがお前、思考がお花畑に向かっているだろう!  今すぐ帰って来い!  続きが気になるじゃないか!」

(……ハッ!)

 お兄様のその声で話の途中だったことを思い出した。

「し、失礼しましたわ、お兄様。確かに綺麗なお花がたくさん咲いているのが見えました」
「だろうな。こちらも食事が一気に甘くなったぞ」
「それは…………料理人が泣いてしまいますわね」

 私がそう答えたらお兄様がガクッと項垂れ、リシャール様はお腹を抱えて震えていた。

 とりあえず、話が大きく脱線してしまったので戻すことにする。
 私が王女殿下への慰謝料請求を考えたのは、リシャール様を思ってのこと。

(やっぱりリシャール様だけが、理不尽な目に合っているのが納得いかない!)

 気持ちを通わせてから更にそう思うようになった。
 ベルトラン様も支払いに素直に応じる気がないようだし、やはりここは王女殿下からもむしり取っておきたい。

「確かに、下手に文句をつけて我が家が潰されては大変ですから躊躇っておりましたけど婚約破棄が成立したこの段階でなら一度請求してみてもいいのでは、と思いましたわ」

 私がそう言うとお父様が頷いた。

「このタイミングなら、王女殿下の行いで婚約破棄に至ったということを理由に出来るからな」
「本音は上乗せしたい部分はたくさんありますが、ここは相場の値で請求して様子を見ようと思います」
「分かった。もともと、フルールの気持ちに合わせると決めていたから反対はない」
「お父様……」

 ありがとうございます、と頭を下げた。
 そうそう、それと……これも言っておかないと。

「それと、もしも王女殿下が渋る様子を見せたなら、ベルトラン様からの手紙を持ち出そうかなとも思うのですけど」
「ベルトランの手紙って……あれか?  浮気の誘いとかいう」

 お兄様が思い出したのかムッとした顔で聞いてくる。

「それですわ!  ほら、あの手紙って一見浮気のお誘いに見えるでしょう?」
「まあ……腹が立つほどに、な」

 面白くなさそうな顔をするお兄様。
 リシャール様も笑顔で聞いてくれているけれど冷気を放ち始めている気がする。

「王女殿下の真実の愛の話はもう世間に広まっています。それなのに殿下の真実の愛のお相手が不誠実だった……となれば王家としては当然隠したいですわよね?」
「待て!  フルール……王家を脅す気か!?」
「いいえお兄様!  いざという時の交渉材料にするだけですわ」

 私は首を振りながら説明する。

「もちろん、使えるかどうかはきちんと見極めないといけません。王女殿下がこの話をご存知だったら意味がありませんし」

 そう。
 このベルトラン様からの浮気のお誘いの話が、もしも王女殿下の了解の元で行われていたら、使う意味は全くない。
 それなら、この手紙は慰謝料請求の裁判で使えばいい。
 でも、もしも王女殿下がこのことを知らなければ、いい交渉の材料になるはず!

(それと、これはあくまでも私のいつもの野生の勘だけど……)

 ベルトラン様、私にお誘いをかけたことをきっと王女殿下に話していない気がするのよね。
 なんて言い訳しようかなと考えて、先延ばしにしていそう……

「ですけど、王女殿下がこのことをご存知なかったら、これって二人の真実の愛の絆も試せてちょうどいいと思いません?」

 私が笑顔でそう言ったら、全員がギョッとした顔で私を見た。


 そういうわけで、最後は少し空気が変だったけれど、こうして王女殿下宛にも慰謝料を請求することが無事に決定した。


「……そういえば、リシャール様。シルヴェーヌ王女殿下ってどんな方なんですの?」
「え?」
「この間、具体的に聞きそびれてしまったな、と思いまして」
「この間……?  ああ、あの誰かと思うような内容の」
「そうですわ」

 ベルトラン様からの手紙によると───
 美しくかつ可憐で、その姿はまるで妖精のよう……見た目だけでなく性格も清らかで可愛らしく甘え上手で華のような笑顔を見せてくれる。そばにいるだけで幸せになれる癒し系……

 私がそう語ると、リシャール様はうーんと難しい顔をした。

「容姿は見たまんまだから省略するとして」
「確かにお綺麗ですわ」
「だが、ベルトランの言うように性格も清らかで可愛らしいかと言われると、違うと思うんだけどな……少なくとも癒された記憶はない」

 リシャール様はベルトラン様の語った王女殿下の姿をそう語った。

「ただ一点。甘え上手……あれは的を射ていると思う」
「そうなのですか?」
「幼い頃から可愛い可愛いとチヤホヤされて育って来ているせいか、人に甘えるのは上手い。周囲……特に身内はコロッと簡単に騙される傾向にあったかな」

(そうなると、やっぱり国王陛下も王女殿下の味方ね……)

「だから、殿下にとって僕が口にすることは何でもお小言のように聞こえて嫌だったんだろう」
「……リシャール様」
「何を言っても全然、落ち着いて聞いてくれることはなかったかな」
「まあ!」
「僕の言っていたこと半分も響いていなかったような気がする」

 リシャール様はそう言って遠い目をした。
 これは色々、大変だったらしい。
 しかもそれが、結果として悪役令息と呼ばれて捨てられる理由にされるなんて……

「なるほど───つまり、落ち着いて誤解のない会話をすることが大事ということですわね?」

 私が大きく頷きながらそう言ったら、なぜかまた全員がギョッとした顔で私を見た。

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