王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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26. お兄様のおかげです!

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 お兄様の言葉にさすがのリシャール様も驚いていた。

「……凶器」
「凶器です!  なのでフルールと踊る時には、相当の覚悟が必要です!!」
「覚悟……!」

 リシャール様がゴクリと唾を飲み込んだ。

「まあ……!」

 そんな鬼気迫る表情でお兄様がそこまで言うなんて!
 やっぱり、私はお兄様の足を踏みつけ過ぎてしまっていたのね……

「ははは。むしろ、それは逆に気になって仕方がないな」 

 だけど、リシャール様は真剣な顔から一転、声を立てて笑うと私の手を取った。
 そしてそのまま私を椅子から立たせる。

「リシャール様?」
「よし!  せっかくだし……ちょっとだけ今、踊ってみようか?」
「え?  で、ですが……」

 私はためらい、そして戸惑う。
 だって、ここはお兄様の部屋で今はお仕事の休憩中。決して踊るのに相応しい場所とは言えない。
 実際、お兄様もリシャール様の言葉にギョッとして、ハラハラした目で私たちを見ている。

「もちろん音楽は無いから、軽いステップ踏むくらいだけど」
「え!  あ……」
  
 リシャール様はそう言って私の手を引いたので、勢い余って胸に飛びこんでしまう。
 そのまま軽く抱きしめられた。

「私……凶器らしいですよ?」
「うん」

 リシャール様がそれがどうかした?  という目で私を見る。
 その反応に私は目を瞬かせた。

「……怖いな、とか思いません?」
「え?  なんで?」

 不思議そうにするリシャール様。
 その反応には私の方が驚かされた。
 私が目を丸くしていると、リシャール様は素早くチュッと額にキスをする。

「───こんなに可愛い凶器なら大歓迎だ」
「!!」

 リシャール様は、そんなとんでもない言葉をあの国宝級の笑顔を浮かべて言った。

(こ、ここで、その笑顔!?)

 私にとっては、リシャール様のその笑顔の方こそ凶器な気がしてくるわ。
 ついついその笑顔に流されそうになるけれど、グッと堪えた。

「そ、そう言われましても……さすがに……」
「うーん……でもさ、アンベール殿にそこまで言わせるフルールの腕前が気になって、この後の仕事が手につかないかもしれない」
「え!」

(それは大変よ……!)

 リシャール様にそう言われて私は顔を上げた。
 パチッと目が合ったリシャール様は悲しそうな目をする。

「そうなると……アンベール殿も悲しむね」
「っっ!  お兄様も……悲しむ?」
「ああ。もちろん、僕も……」
「リシャール様も!」

 それはいけない。
 大好きな二人を悲しませるのは絶対に嫌だわ。

「わ、分かりました!  では少し、だけ」
「フルール!  ありがとう!」

 悲しそうだったリシャール様がパッと嬉しそうな顔する。
 その美しい顔にキュンとして見惚れながらも私はステップを踏みだした。


「…………チョ、チョロール……!」

 まさにちょうど、私がステップを踏み出した時、お兄様がこちらを見ながら何かを呟いていたけれど、残念ながらよく聞こえなかった。



「……っ」
「あ!  ごめんなさい!」

 そうして始めたダンスもどき。
 簡単なステップのはずなのに私はリシャール様の足をすでに何回も踏んでしまっていた。

(いくら、凶器大歓迎なリシャール様でもこれはさすがに呆れてしまうのでは?)

 そう思ったのだけど。

「フルール、顔を上げて?」
「……え?」

 そう声をかけられて顔を上げる。

「苦手意識のせいかな?  顔も身体も硬くなっちゃってるよ」
「あ……」
「だから、まずは余計な力を抜くために笑おう!」
「リシャール様……」

 国宝の笑顔につられて、私も自然と微笑む。
 すると、不思議なことに少し身体が軽くなり動きやすくなった気がした。

「フルールは、きっと頭で考えすぎているんだよ」
「考えすぎ?」
「そう。覚えたステップを記憶通りにやらなくちゃーって感じに。だから、ガチガチになってしまう」

 リシャール様はそう言って上手く私を誘導していく。

「普段のフルールは、元気いっぱい走り回るほどの元気があるのだから、身体は動くはずだよ。だから、まずは足を気にするより身体を動かす方を優先して、ほら」
「……あ」

 頭の中でごちゃごちゃ考えるよりもスムーズに足が動いてくれている気がした。

「ほら、ちゃんと身体は記憶しているじゃないか」
「……!  そ、それは、きっと──」
「それは?」

 ここで、それを口にするのはちょっぴり恥ずかしい。
 けれど、私は照れながらも答える。

「お兄様が……」
「アンベール殿?」
「はい!  お兄様は文句を言ったり苦い顔をしていても、私に何度足を踏まれても踏まれても、根気強く練習に付き合い続けてくれていたからですわ!  ですから……お兄様のおかげです!」

 リシャール様は目を見開いて一瞬ポカンとしたけれど、すぐに笑顔を向けてくれた。
 だけど、何故かそこで足を止めてしまう。

(え?  どうしたのかしら?)

「リシャール様?  あの?  どうされました?  もしかして踏まれすぎて足が痛……」
「…………フルール」
「は、はい」

 名前を呼ばれたので返事をしたその時、ギュッと抱きしめられた。

(──ええ!?)

 どうしてしまったの?  と、内心で慌てていたら、リシャール様は美しい顔を近付け来て私の耳元で囁いた。

「───君のそういうところ、本当に大好きだ」
「……え?」

 突然の愛の告白に戸惑う。
 私はジワジワと熱くなっていく頬を自覚しつつ、そっとリシャール様の背中に手を回して抱きしめ返しながら答える。

「あ、ありがとうございます……」

 するとリシャール様は小さく笑い、視線を横に向けながら続けて言った。

「まぁ……そう思っているのは僕だけじゃないみたいだけど」
「……?」
  
 どういう意味かしらと思い、私もリシャール様のその視線の先を辿る。
 すると、そこには……

(──ええええ!?)

「う、うぅ……フルール……」

 所々で私の名前を口にしながら、顔を両手で覆って泣いているお兄様がいた。

「リ……リシャール様!  お、お兄様が!」
「うん」

 びっくりしてリシャール様の方に顔を向き直すと、目が合ったリシャール様は静かに微笑んで「ほらね?」と言った。





(───さて、行くわよーー!)

 そして本日は、お誘いのあったお茶会の日。
 私は気合を入れてパンスロン伯爵家へと向かう準備をしていた。

「フルール、支度は出来た?」
「リシャール様!  ふふ、ばっちりですわ!」

 私の様子を見に来てくれたリシャール様。
 そんな彼は、私の姿を見るなりポッと頬を赤く染めた。

「どうしました?」
「いや……うん。普段から可愛いけれど、いつもより着飾ったフルールはさらに可愛いな、と」
「え!」

 その言葉に私の頬も赤くなる。

「あ、ああありがとうございます……!」

 吃る私を見たリシャール様は面白そうに笑った。

「フルール……まぁ、フルールのことだから大丈夫なんだろう、な」
「お兄様?」

 リシャール様のすぐ後ろから顔を出して登場したお兄様は複雑そうな表情をしている。

「大丈夫ですわ、飲みすぎには気をつけますから!」

 私はポンッと元気よく自分のお腹を叩く。

「……そっちじゃない!  お前はどこかの酔っ払いか!」
「お兄様……さすがの私もお茶で酔ったことはありませんわよ?」

 お兄様は、はぁぁ……と深いため息を吐いて脱力している。

「パンスロン伯爵家の令嬢のことだよ……」
「え?  ああ、大丈夫ですよ?  この間も言いましたが仲良しですから!」
「……」

 私が胸を張って答えたら、リシャール様が何故か無言で私の頭を撫でてくる。
 こういう時、髪型を崩さない程度に加減してくれる所がリシャール様らしいわ。なんて嬉しく思った。
 そんな私を見ながらお兄様は嘆く。

「仲良し……あー……うん。そうだな……もう、そうなんだろう───だ、だが、他にも令嬢が来るはずだ」
「そうですわね。前にアドバイスをくれた皆様かしら?  だったら楽しくなりそうです」

 私がそう言ったらお兄様が苦笑する。

「分かったよ……いいから元気に行って元気に帰って来い」
「はい!  お兄様」
「気を付けてくれ、もしも、何か危険なことが起きて、いざという時は…………足を踏んづけてやるといい」
「まあ、リシャール様まで!」

(二人とも心配症ねーー?)

 令嬢たちのお茶会にそんな危険なことなど孕んでいるものかしら?

「大丈夫ですわ、それでは行って参ります!」

 私は二人に手を振って元気よく出発した。

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