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45. 王女殿下と最強令嬢
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「本日はお招きいただきありがとうございます。シャンボン伯爵家のフルールと申します」
王宮に到着し部屋へと通され……遂に私はシルヴェーヌ王女殿下との対面を果たした。
頭を下げながら王女殿下の言葉を待つ。
「確か、これまでわたくしと貴女は話したことはなかったと思うから初めまして、になるのかしら?」
「はい」
「そう、よね。では顔を上げて?」
その言葉に倣って静かに顔を上げる。
そして私は初めてこんな間近でシルヴェーヌ王女殿下の顔を見た。
(さすが王女殿下! とてもお綺麗だわ!!)
シルヴェーヌ殿下は悪役王女と呼ぶのが勿体ないくらいの美人だった。
これはベルトラン様が恋に落ちるはずよね、と納得する。
「……ふぅん、なんだ普通」
王女殿下は上から下まで私をチェックするとクスリと笑いながらそう呟いた。
その言葉に私は大きな衝撃を受ける。
「ふつ……う? 普通……ですか?」
(───普通? 今、私に向かって普通と言ったわよね?)
衝撃を受けたので目を丸くしてシルヴェーヌ王女殿下を見つめる。
すると、王女殿下は扇で口元を隠しながら愉快そうに笑った。
「あら、ごめんなさい? つい、うっかり本音が出てしまったわ……うふふ」
「……本音」
「そうなのよ、でも悪気はなかったの……気を悪くしてしまったならごめんなさいね?」
「……」
私は王女殿下のその発言に目を大きく見開くと言葉を失った。
───な、なんてこと!
いつも面と向かって変わった子だね、元気だね、と言われてしまうこの私が……普通!
変わった子も元気な子も、言われることに何一つ不満はないけれど、こっそり憧れていたのが“普通”と言われることだった。
(人生で初めて聞いたかもしれないわ! 普通!!)
嬉しくて嬉しくて堪らなかった私は満面の笑みで殿下に向けてお礼を言う。
「王女殿下、ありがとうございます! その言葉は私にとって最高の褒め言葉なのです!」
「……は? わたくしは普通と言ったのよ? あなた、その意味が分かっていて?」
「はい、もちろん! ですから普通は褒め言葉なのです!」
「…………!?」
王女殿下は口をあんぐり開けて私をまじまじと見つめた。
そんな殿下を見ながら私は思った。
(さすが王女殿下だわ……)
私に対しての喧嘩を売り方が、まさかの褒め殺しだなんて!
これはこの先も侮れないわ……
やはり、王女ともなると油断ならないのだと言うことがよく分かった。
「……コホッ、えぇっと、それであちらに居るのがあなたがどうしてもと手紙を書いてきた護衛なのね?」
王女殿下は軽く咳払いすると、チラッと私の後方で控えている“護衛”に目を向けた。
「そうです。要望をお聞き入れ下さりありがとうございました」
「ふぅん……たかが、伯爵令嬢なのに護衛を二人も連れて来るなんて。随分と過保護に愛されているようですわねぇ……羨ましいわ」
「あ、愛……」
その言葉に胸がドキッとして嬉しくてつい頬が緩んでしまいそうになる。
そう!
だって、今日の私の護衛……
お兄様とリシャール様(変装済)なんだもの!
「あら? 一人は……あぁ、確かあなたの兄だったかしら? どこかで挨拶を受けたことがあるわ」
「仰る通り、私の兄です」
お兄様は私よりも行動範囲が広いので、王女殿下ともどこかで挨拶程度は交わしたことがあったみたい。
「それで、もう一人は──……」
そう言って王女殿下は、リシャール様(変装済)の方を見つめる。
そしてつまらなそうな表情になった。
「もう一人は何だかパッとしない冴えない雰囲気の男ねぇ……」
(殿下! あなたの元婚約者です!)
「……眼鏡でよく顔が見えないけれど、あの感じだと素顔も大したことなさそうね?」
(───いいえ、素顔は国宝級の美貌を持つ美男子ですわ!)
王女殿下はチラッと私を見ると鼻で笑う。
「あんな冴えない地味な感じの男が護衛だなんてお気の毒ですこと……」
(───いいえ、最っ高ですわ!!)
「うふふ。まぁ、あなたのような令嬢にはあれくらいの男がピッタリで丁度いいのかもしれませんわね!」
「ピッタリ……ですか?」
「そうね、とっても」
(───ありがとうございます!!!!)
まさか、リシャール様とお似合いだと言って貰えるなんて!
私は心の中でお礼を言っておく。
そして王女殿下は言うだけ言って満足したのか、もう“護衛”には興味をなくしたようだった。
「……」
リシャール様の言うように案外、堂々としていればバレないものなのね、と私は感心する。
王女殿下から、護衛同行の許可の返事が来たあと、リシャール様とお兄様が護衛として着いていく! と、言い出した時は本当に本当に驚いたけれど。
(二人のあんなにも真剣な表情……駄目なんて言えなかったわ)
それにしても、王女殿下は本当にあれがリシャール様だと欠片も気付いていないのかしら?
婚約者、だったのよね……?
それにあの美貌に対して冴えないだなんて……
今日もあんなに地味な格好に変装をしているというのに、リシャール様の美しさは何一つ隠せていないじゃない!
(きっと、王女殿下は以前の私と同じ……見る目が無いんだわ)
私は哀れんだ目で殿下を見つめた。
「───な、何なのよ! もう! さっきから!」
「?」
怒られた意味が分からず首を傾げたら王女殿下はため息を吐いた。
「やりにくい…………もういいわ。それでは挨拶はこれくらいにして“お茶会”を始めましょうか?」
「!」
(い、いよいよだわ!)
────
(な、な、なんて美味しそうなの!)
殿下と共にテーブルに着いた私は、まず、ずらりと並べられたお菓子に目がいった。
淹れられたお茶の茶葉も明らか我が家とは違う高級品だと分かる。
「うふふ。好きな物をどうぞ? 伯爵家では逆立ちしても用意出来ないような特別な物を用意させたわ」
「特別ですか? ありがとうございます! 殿下!」
私は満面の笑みでお礼を告げた。
「…………え? なんで笑っ……」
王女殿下の顔が一瞬引き攣ったように見えたけれど、もう私の頭の中はお菓子でいっぱい。
(お菓子、お菓子……お菓子……!)
「コホンッ───実はわたくし、ずっと貴女とはお話をしてみたいと思っていましたのよ」
「え……?」
私が狙いを定めたお菓子に手を伸ばそうとした時、お茶のカップを手に持った王女殿下がそんなことを言い出した。
仕方ないのでお菓子のことは一旦諦めて王女殿下の話を聞くことにする。
「私と話をですか?」
聞き返した私に王女殿下は小さく笑った。
「そうよ? だってわたくしたちは、ベルトランという同じ男性をを好きになった者同士ですもの」
「……べ」
(ベルトラントイウオナジダンセイヲスキニナッタ……?)
困ったわ。
今、王女殿下から発せられた言葉が私の脳内で上手く変換してくれない。
全身で私の脳内が拒否している。
そんな困惑中の私の顔をチラチラ見ながら王女殿下は続ける。
「それなのに、ごめんなさいね? わたくしの方がベルトランにたくさんたくさんたくさん愛されてしまって。ずっとずっとずっと貴女に申し訳ないとは思っていたのよ……だから、ね」
王女殿下はそこで言い淀む。
何だかとっても続きを言いにくそうにしている。
そこで私はハッと気が付いた!
(も、もしやこれは、慰謝料を支払ってもいいという……?)
この呼び出しはてっきり喧嘩を売られたのだとばかり思っていたけれど、実は慰謝料支払うわよという意思表示のためだった?
なんて私が期待に胸を膨らませた時だった。
「……わたくし、あなたにベルトランを返そうと思うの」
(ん?)
返す? 誰に何を? え?
「貴女のことは振り回してしまったけれど、どうやらベルトランはわたくしの真実の愛の相手ではなかったみたいなの。だから、ね? あなたにはベルトランをお返……」
「───あんなもの要りませんわ!」
私は反射的にそう答えていた。
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