213 / 356
213. 伝説の最強公爵夫人
しおりを挟む「フルール。帰国したらその上から六段目の右から五番目にある本を確かめさせてもらう」
「……旦那様、違いますわ。上から五段目の右から六番目ですわ!」
「!」
私が指摘するとリシャール様は「あっ……」と小さく呟く。
「ちなみに、上から六段目の右から五番目にある本は、ドッロドロの愛憎劇ですわ!」
「フルール……君はまた」
「一人の男性を巡って女性同士がドロドロの戦いを繰り広げますのよ!」
「……フルールが好きそうな話だ」
リシャール様が苦笑する。
「主人公と愛を誓い合っていたはずの恋人が、ある日突然姿を消してしまうのです……しかし、数年後! 偶然彼と再会を果たします。が……なんと再会した彼のそばには婚約者を名乗る女性がいますの! しかもその婚約者を名乗る女性はすでに妊娠していることをチラつかせてくるのですわ……!」
「それは───ドロドロだね。男は何してるの」
「ええ、ドロドロです。それでも主人公を愛していますわ」
私はいい感じに話が逸れたわ、と安心する。
「フルール。話を逸らせたわ! と、安心しているかもしれないけど、過激な本は程々にね?」
「あら?」
やっぱり、さすが私の愛する旦那様。
何でもお見通し。全然、話を逸らせていなかったわ。
上から五段目の右から六番目の話は、
とある悪女の復讐物語ですわよ!
自分を陥れた悪者たちを捕まえては次から次へと拷問を与えて一族郎党、最後は全員の首を───
そこまで思い出していたら、リシャール様からの熱い視線を感じたので私はにこっと笑顔を返した。
(仕方がありませんわ。この国はこの国の法律がありますもの)
何よりの一番は憂いがなくなって二人が幸せな結婚式を迎えることですわ!
私はチラッと真実の愛……いえ、ペラッペラの愛の集団を見る。
エリーズ嬢は灰のように崩れ落ち、他の皆様もまだ泣きながら悲鳴をあげていた。
────
「これであとは無事に結婚式が終われば、僕らの役目はおしまいだ」
「そうですわね!」
私とリシャール様は手を繋ぎながら部屋へと戻っている。
「アンセルム殿下はこれからが大変そうだけど、まあ……真実の愛がこの先、この国で流行ることは無いだろうなぁ……」
リシャール様はしみじみとそう言った。
「そういえば、わたしがあの部屋で壊した物の弁償は結局、エリーズ様たちが支払ってくれるということで良いのでしょうか?」
「いいんじゃないか? だって請求書がこっちに届いたら、義母上にフルールが歓喜の舞を踊ったことがばれちゃうよ?」
「!」
それは良くないですわ!
お母様、怒らせる、ダメ、絶対、ですもの!
これ、シャンボン伯爵家の常識ですわ。
「コホン……そうですわね。ここは有難く皆様に払ってもらうことにいたしますわ!」
「ははは! フルールは本当に可愛い!」
リシャール様が楽しそうに笑いながらそう言う。
「笑いすぎですわ!」
「いや、だってもう……僕の妻がとにかく可愛すぎる」
「!」
国宝級の美しい顔が甘い瞳で私を見て来る。
(その顔は本当にずるいですわーー!!)
こうして、隣国の真実の愛騒動も無事に鎮圧出来そうな兆しをみせ、アンセルム殿下とイヴェット様の結婚式は無事に執り行われた。
騒動の面々は全員、仲良く牢屋に入り拷問の時を待っている。
「フルールさん! 今回の件は本当に本当にありがとう!」
「いえ、イヴェット様! おめでとうございます」
ウェディングドレス姿で涙ぐみながら微笑むイヴェット様はとても綺麗だった。
並んで愛を誓い合う二人の姿は、あの初めて会った時の雰囲気などもちろんなく、幸せな二人そのもの───
それはきっとこの国の国民の中にも届いたと私は思っている。
「───素敵な結婚式でしたわ!」
「うん。幸せそうだった。僕も感慨深い……」
アンセルム殿下とイヴェット様に別れを告げて私たちは帰国の途につく。
興奮が治まらない私は帰りの馬車の中でもずっとその話ばかり。
「ところで、殿下から頂いたこの手紙は何が書いてあるのかしら?」
別れ際、アンセルム殿下から手紙を渡された。
「読んでみる?」
「はい!」
ドキドキしながら私は手紙を開封した。
「まあ!」
内容は今回の件の感謝と……
「旦那様! 王家秘蔵のワインを毎年贈ります、ですって!」
「……二本貰っただけでも前代未聞なのに」
「ふっふっふ……これは、遠慮なく飲めますわね!!」
「割れ物はしっかり片付けてからね?」
リシャール様の容赦のない突っ込みに、私もえへっと笑う。
そんな私に向かってリシャール様も笑いながら言った。
「───これで、フルールの最強伝説は国を越えたね」
「国を?」
「狙われていた王太子妃を助けて、犯罪集団の壊滅に成功。ついでに国家を悩ませていた真実の愛問題も片付けた……もうこれ普通に伝説じゃない?」
その言葉に私は目を瞬かせる。
「伝説……」
「結婚式に参列するための外交だったはずなんだけどなぁ……」
(伝説……何だかとってもかっこいい響きですわ!!)
最強の公爵夫人にまた一歩近付けた気がして私は嬉しくなる。
「聞いてください旦那様! めざせ、伝説の最強公爵夫……」
「うん、フルール。でもその前に───」
「え?」
リシャール様が私の手を掴んだと思ったら、そのまま私の身体をギュッと抱き寄せる。
「っ! ど、どどどどうしましたの!?」
「……いや、隣国に行ってからフルール成分が足りなかったなと思って。だから補充」
そう言った旦那様がギューーーーッと強く私を抱きしめる。
そして、少し身体を離すとチュッと額にキスをした。
次に目元、頬……唇とリシャール様がたくさんのキスの雨を降らしてくる。
(甘い……)
チョロールな私の頭の中はすぐにデロデロになってしまう。
(確かに……最近はイチャイチャが少なかった気がしますわ)
これはいけない。
国宝級の美しさを持つリシャール様を狙う令嬢は、妻という私の存在があっても未だ絶えないというのに。
「───旦那様!」
「んっ!?」
私は旦那様の顔を両手でガシッと掴む。
「私はこの先、どんなに魅力的な女性が目の前にやって来ても絶対に負けませんわ!」
「へ? 何の話?」
「誰にもあなたの妻の座は譲りません!! 断固として戦います!!」
きょとんとするリシャール様に私は力強く宣言する。
「えっと……フルール? すごい張り切ってるけど……いったい何と戦うつもりなの?」
「もちろん! 私の愛する旦那様を狙う女性ですわ!」
「…………また、妄想の世界の話かな?」
「想像ですわ!」
───そんな話をしながら仲良く帰国した私たち。
でも、この時はまさか本当にそんな女性が目の前に現れるとは思っていなかった。
355
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。
椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」
ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。
ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。
今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって?
これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。
さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら?
――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる