王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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213. 伝説の最強公爵夫人

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「フルール。帰国したらその上から六段目の右から五番目にある本を確かめさせてもらう」
「……旦那様、違いますわ。上から五段目の右から六番目ですわ!」
「!」

 私が指摘するとリシャール様は「あっ……」と小さく呟く。

「ちなみに、上から六段目の右から五番目にある本は、ドッロドロの愛憎劇ですわ!」
「フルール……君はまた」
「一人の男性を巡って女性同士がドロドロの戦いを繰り広げますのよ!」
「……フルールが好きそうな話だ」

 リシャール様が苦笑する。

「主人公と愛を誓い合っていたはずの恋人が、ある日突然姿を消してしまうのです……しかし、数年後!  偶然彼と再会を果たします。が……なんと再会した彼のそばには婚約者を名乗る女性がいますの!  しかもその婚約者を名乗る女性はすでに妊娠していることをチラつかせてくるのですわ……!」
「それは───ドロドロだね。男は何してるの」
「ええ、ドロドロです。それでも主人公を愛していますわ」

 私はいい感じに話が逸れたわ、と安心する。

「フルール。話を逸らせたわ!  と、安心しているかもしれないけど、過激な本は程々にね?」
「あら?」

 やっぱり、さすが私の愛する旦那様。
 何でもお見通し。全然、話を逸らせていなかったわ。

 上から五段目の右から六番目の話は、
 とある悪女の復讐物語ですわよ!
 自分を陥れた悪者たちを捕まえては次から次へと拷問を与えて一族郎党、最後は全員の首を───

 そこまで思い出していたら、リシャール様からの熱い視線を感じたので私はにこっと笑顔を返した。

(仕方がありませんわ。この国はこの国の法律がありますもの)

 何よりの一番は憂いがなくなって二人が幸せな結婚式を迎えることですわ!

 私はチラッと真実の愛……いえ、ペラッペラの愛の集団を見る。
 エリーズ嬢は灰のように崩れ落ち、他の皆様もまだ泣きながら悲鳴をあげていた。


────


「これであとは無事に結婚式が終われば、僕らの役目はおしまいだ」
「そうですわね!」

 私とリシャール様は手を繋ぎながら部屋へと戻っている。

「アンセルム殿下はこれからが大変そうだけど、まあ……真実の愛がこの先、この国で流行ることは無いだろうなぁ……」

 リシャール様はしみじみとそう言った。

「そういえば、わたしがあの部屋で壊した物の弁償は結局、エリーズ様たちが支払ってくれるということで良いのでしょうか?」
「いいんじゃないか?  だって請求書がこっちに届いたら、義母上にフルールが歓喜の舞を踊ったことがばれちゃうよ?」
「!」

 それは良くないですわ!
 お母様、怒らせる、ダメ、絶対、ですもの!
 これ、シャンボン伯爵家の常識ですわ。

「コホン……そうですわね。ここは有難く皆様に払ってもらうことにいたしますわ!」
「ははは!  フルールは本当に可愛い!」

 リシャール様が楽しそうに笑いながらそう言う。

「笑いすぎですわ!」
「いや、だってもう……僕の妻がとにかく可愛すぎる」
「!」

 国宝級の美しい顔が甘い瞳で私を見て来る。

(その顔は本当にずるいですわーー!!)



 こうして、隣国の真実の愛騒動も無事に鎮圧出来そうな兆しをみせ、アンセルム殿下とイヴェット様の結婚式は無事に執り行われた。
 騒動の面々は全員、仲良く牢屋に入り拷問の時を待っている。

「フルールさん!  今回の件は本当に本当にありがとう!」
「いえ、イヴェット様!  おめでとうございます」

 ウェディングドレス姿で涙ぐみながら微笑むイヴェット様はとても綺麗だった。
 並んで愛を誓い合う二人の姿は、あの初めて会った時の雰囲気などもちろんなく、幸せな二人そのもの───
 それはきっとこの国の国民の中にも届いたと私は思っている。



「───素敵な結婚式でしたわ!」
「うん。幸せそうだった。僕も感慨深い……」

 アンセルム殿下とイヴェット様に別れを告げて私たちは帰国の途につく。
 興奮が治まらない私は帰りの馬車の中でもずっとその話ばかり。

「ところで、殿下から頂いたこの手紙は何が書いてあるのかしら?」

 別れ際、アンセルム殿下から手紙を渡された。

「読んでみる?」
「はい!」

 ドキドキしながら私は手紙を開封した。

「まあ!」

 内容は今回の件の感謝と……

「旦那様!  王家秘蔵のワインを毎年贈ります、ですって!」
「……二本貰っただけでも前代未聞なのに」
「ふっふっふ……これは、遠慮なく飲めますわね!!」
「割れ物はしっかり片付けてからね?」

 リシャール様の容赦のない突っ込みに、私もえへっと笑う。
 そんな私に向かってリシャール様も笑いながら言った。

「───これで、フルールの最強伝説は国を越えたね」
「国を?」
「狙われていた王太子妃を助けて、犯罪集団の壊滅に成功。ついでに国家を悩ませていた真実の愛問題も片付けた……もうこれ普通に伝説じゃない?」

 その言葉に私は目を瞬かせる。

「伝説……」  
「結婚式に参列するための外交だったはずなんだけどなぁ……」

(伝説……何だかとってもかっこいい響きですわ!!)

 最強の公爵夫人にまた一歩近付けた気がして私は嬉しくなる。

「聞いてください旦那様!  めざせ、伝説の最強公爵夫……」
「うん、フルール。でもその前に───」
「え?」

 リシャール様が私の手を掴んだと思ったら、そのまま私の身体をギュッと抱き寄せる。

「っ!  ど、どどどどうしましたの!?」
「……いや、隣国に行ってからフルール成分が足りなかったなと思って。だから補充」

 そう言った旦那様がギューーーーッと強く私を抱きしめる。
 そして、少し身体を離すとチュッと額にキスをした。
 次に目元、頬……唇とリシャール様がたくさんのキスの雨を降らしてくる。

(甘い……)

 チョロールな私の頭の中はすぐにデロデロになってしまう。

(確かに……最近はイチャイチャが少なかった気がしますわ)

 これはいけない。
 国宝級の美しさを持つリシャール様を狙う令嬢は、妻という私の存在があっても未だ絶えないというのに。

「───旦那様!」
「んっ!?」

 私は旦那様の顔を両手でガシッと掴む。

「私はこの先、どんなに魅力的な女性が目の前にやって来ても絶対に負けませんわ!」
「へ?  何の話?」
「誰にもあなたの妻の座は譲りません!!  断固として戦います!!」

 きょとんとするリシャール様に私は力強く宣言する。

「えっと……フルール?  すごい張り切ってるけど……いったい何と戦うつもりなの?」
「もちろん!  私の愛する旦那様を狙う女性ですわ!」
「…………また、妄想の世界の話かな?」
「想像ですわ!」

 ───そんな話をしながら仲良く帰国した私たち。
 でも、この時はまさか本当にそんな女性が目の前に現れるとは思っていなかった。

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