王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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231. 何も問題は無い……はず

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「……メリザンド!  その顔は何を企んでいるんだ」
「……」

(何を企む、ですって?)

 だって、王女のシルヴェーヌの婚約者だからと諦めていた、彼……あの誰よりも美しいリシャール様よ?
 確かに今は既婚者……でも、王女のシルヴェーヌには逆らうなんてさすがに出来なかったけど、元は伯爵家出身の令嬢なら……

(欲しがってもいいじゃない?)

 それに。
 後継ぎなのに病弱なお兄様のこれからを支えるにはリシャール様みたいに高い爵位持ちのカッコいい夫が私には必要なの!
 だから、あの夫人にリシャール様はもったいないわ!
 あの人は別に、リシャール様でなくてもいいじゃない!

「メリザンド!  頼むから、これ以上、モンタニエ公爵夫人に何かしてブランシュを……シャンボン伯爵家を敵に回すような行為はやめてくれ!」
「……お父様って二言目にはそれね?」

 ブランシュって、ちょっと舞が得意なだけの伯爵夫人でしょう?
 凄いとは思うけど、なんでお父様の方がヘコヘコしているわけ?
 しかも、元侯爵令嬢なのにお父様を選ばずに自分より格下の伯爵家に嫁いだとか……
 私には理解出来ないわ。
 爵位が高くて見目の良い男に嫁いでこそ幸せになれるってものでしょう?

「それだけじゃない!  ブランシュの娘……モンタニエ公爵夫人は……ブランシュより厄介なんだ!」
「厄介?」

 確かに何者なの……とは思わされることばかりだけど。

「いいか?  ブランシュは!」
「はあ?」
「ブランシュは自分の道を邪魔をする者は分かりやすく潰す気満々で、それはもう生き生きと排除していたんだ……しかし娘は……公爵夫人はブランシュとは違う。そうじゃない……」
「……?」

 私は肩を竦める。
 お父様の言っていること、全然意味が分からないわ。

「自覚……そうだ!  公爵夫人は無自覚に相手をやり込めて潰しているんだ……!」
「……」

 これだ!  という顔をするお父様。
 でも、その言葉に私は心の底から呆れた。

「……お父様。バカなこと言わないで?  人をやり込めて潰す行為を無自覚なまま出来るわけないでしょう?」

 悪意がなくてどうやって人を潰せるわけ?

「う……」
「そんな恐ろしいことが出来る人がこの世にいてたまるものですか」
「だ、だが……兄上一家が追い詰められ破滅した時のことを聞くと……」
「またそれ?  もう、お父様は疲れているのよ、もう部屋から出て行って!」

 私は強引に話を打ち切って、お父様の背中を押して部屋から追い出す。

「お、おい!  メリザンド……」
「……」

(言われなくても分かっているわ、お父様!)

 シルヴェーヌたちの敗因は、大勢の前で不貞を堂々と宣言したからなんでしょう?
 だから、リシャール様と堂々と愛を育むのは夫妻を離縁させてからにするわ。
 それで何も問題は無いはずよ!


───


「───え!  お、お兄様!?  どうして食事の席に座っているの!?」
「やあ、メリザンド」

 その日の夜。
 夕食の席に着くとレアンドルお兄様が席に座っていた。
 帰国してからこんなことは初めてだった。

「調子が良かったから、昼間、庭を散歩していたんだけど……」

 いつもは青白い顔をしているお兄様が、頬を蒸気させながら語り始める。
 こんなに顔色がいいのも珍しい。

「え、ええ……お父様からそう聞いた、わ」
「うん。日に当たったり風に吹かれていたりしたら、いつもと違ってだんだん気持ちよくなって来て……」

 お兄様の顔は嬉しそう。
 よほど気持ちよかったに違いない。

「て……?」
「そのまま眠っちゃったんだ……」
「それで?」
「ん?  それだけだけど……」

 何故か話がそこで終わってしまった。

「…………は?  続きは?」
「続き?  ああ、それで目が覚めたらもっと気分が良くなっていたんだ、という話だけど……?」
「……」

 私は頭を押さえる。

(昔から変わっていない……)

 病弱のせいで人と関わってこなかったお兄様は、人との関わり方が下手。会話も下手。
 お父様やお母様、屋敷の者たちは慣れているみたいだけど、離れて暮らしていた私には正直、掴みどころがなくて会話が難しい。

「……それにしても急にどうしてレアンドルの調子がそんなに良くなったのだろうか?」

 お父様も不思議そう。

「うーん、少し前から調子がいいなって思う日が昔より増えてはいたよ……?」
「あら?  そうなの?」

 お母様も不思議そうに訊ねる。

「……うん。上手く言えないけど……欠けていたものが戻って来た……そんな感じ……?」
「「!」」

 お父様とお母様が、お兄様のその言葉に息を呑む。
 きっと生まれてすぐに亡くなったレアンドルお兄様の双子の弟のことを思い出したのだと思う。

 お兄様は双子だった。
 でも、この国で双子は忌み嫌われる存在。
 そのことで王家はかなりの騒ぎになったという。
 さらに、双子で産まれたお兄様たちは共に病弱で───……

「そうか……なら、空に還った“あの子”がレアンドルに力をくれたのかもしれないな」
「うん……!」

 お父様の言葉にお兄様は静かに微笑んだ。
 ちょうどそこへ料理が運ばれて来たので食事を開始した。

「───そういえば、あの禍々しい見た目の人参で作ったスープは美味しかったわね」
「!」

 私はギクッと肩を震わす。
 お母様があの公爵夫人から贈られた呪いの人参を話題に出した。

「あなたも、メリザンドも寝込んで食べられなかったなんて惜しいことをしたわね。ねぇ、レアンドル」
「うん、あれは本当に美味しかった……あれを食べてから、さらに元気になった気もするくらいだよ……」

 お兄様も大きく頷く。

「レアンドルの体調のことも考えてくれていたのか、一緒に添えられていたレシピも食べやすそうな物ばかりだったわ」

 嬉しそうに語るお母様の顔を見ながら私は内心で思いっ切り貶す。

(そんなのどうせ、考えたのは料理人であって夫人ではないわよ!)

「……そんなに美味しかったのか……だがあの見た目は……見た目が……」

 お父様が苦しそうに頭を抱える。

「……ああ。そういえばあなたはかつてブランシュ様……伯爵夫人に“呪いの人形”を大量に贈られていたんでしたっけ?」
「箱を開けたら大量の呪いの人形……あの人参はそれを私に思い出させたよ…………ははは」
「王子と婚約したくなくて、そんな凄いものを送り付ける度胸のある怖いもの知らずな令嬢はあの方くらいですわ」
「本当になぁ……問い詰めても、ただの殿下へのプレゼントですが何か?  とすました顔で言い張っていたよ…………」

(呪いの人形……?)

 いまいち私には何の話か分からなかったので首を傾げて二人の会話を聞いていた。
 そんな私にレアンドルお兄様が横から声をかけて来る。

「メリザンド……!」

 気のせいでなければその声がどこか弾んでいる。

「お兄様?」
「詳しくは分からないけどさ、楽しそうな話だね……!」
「……」

 世間知らずのお兄様はとっても能天気な笑顔を浮かべていた。



❈❈❈❈❈



「旦那様!  パーティーで私たちお揃いの服装にしましょうか!」
「え?」

 その頃の私は、パーティーに向けて国宝泥棒を阻止する対策を練っていた。
 リシャール様を私にメロメロにする作戦は毎晩、いい感じに上手くいっている。
 なので、あとは外に向けたアピールがもっと必要ねと考えた。

「世間の皆様へ向けた、私たちの仲良しアピールです!」
「それは構わないけど、仲良しなのはもう結構広く浸透していると僕は思っていたけど?」
「───いいえ!  まだまだですわ!  もっともっとです!」

 これから第二第三の国宝泥棒がこの先、現れないとも限りませんもの!

「フルール……」

 リシャール様がギュッと私を抱きしめてくれる。
 私は、にこっと笑いかけると背伸びをして自分からリシャール様にチュッとキスをした。

(愛する旦那様の貞操は必ず私が守りますわ!!)



 ────泥棒から国宝を守る戦い?  の日は確実に近付いていた。

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