王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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276. 親が親なら子も子

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────


(うーん、なんだかすごーく視線を感じますわ)

 即位の儀が無事に終わって、そのまま場所を移してお祝いのパーティーが始まった。

「旦那様、旦那様!  パーティー会場入りしてから視線をたくさん感じますの」
「え?」

 私は小声で隣に立つリシャール様の服の袖をクイクイと引っ張りながら耳元で囁く。

「そう?」
「旦那様も一緒にじろじろ見られていますわ?  気になりませんの?」
「そんなに見られてるかな?」
「まあ!  無自覚!」

 そうでしたわ。
 リシャール様の持つ美しさは我が国の国宝級。
 これくらいじろじろ見られるのは当たり前。
 当然のことでしたわね。

「発表はこれからだけど新陛下の後継者がフルールだという話はとっくに広まっているから、やっぱりその影響かな?」
「そうですわね……」
「それか、すでに大掃除を開始しているからか……」
  
 リシャール様がうーんと悩む。

「それは分かるのですけど───何だかねっとりした視線もありますの」
「ねっとり?」

 リシャール様が眉をひそめる。
 そして何かに気づく。
 ガシッと私の両肩を掴んだ。

「旦那様?」
「そうか……今日のフルールも誰が見てもめちゃくちゃ可愛いから…………フルール!  僕もなるべく君の側に居るようにするけど一人にはならないように!」
「はい!」
「美味しい料理につられて一人でフラフラ……いや、誰かについて行かないように!  料理は僕が運ぶから!」
「分かりました……き、気をつけますわ」 

 未来の女王候補フルール。 
 夫から五歳児みたいな注意を受けてしまいましたわ。
 ですが……

(お酒もたくさんあるし、気をつけることが沢山ですわ~)

 なんて考えていたら、後ろから声をかけられた。
  
「───モンタニエ公爵夫人、ごきげんよう」

 その声につられて振り返った私は、あっ!  と声を上げそうになった。
 私に声をかけて来たのはゴテゴテ夫人を中心とした貴族の夫人たち。

(今日も重そうな頭で飾りもゴテゴテですわ~)

 どうしても私の目線は彼女の頭に向かってしまう。
 そんな夫人は機嫌良さそうにニヤニヤしながら私に問いかけてくる。

「ふふ、昨夜の私のアドバイスは効きまして?」
「え?」

 私が聞き返すと夫人はホホホと笑って声を潜める。
 顔はまだニヤニヤしています。

「夫との……」
「ああ!  こちらから積極的に……というやつですわね?」
「そうそう。実はあれから心配していましたの」
「心配?」

 ゴテゴテ夫人が悲しそうに目を伏せる。

「ついついお節介な心が働いてしまいアドバイスさせて頂きましたけれど、やはりあれは夫に嫌われる可能性が高……」
「いいえ、全然大丈夫でしたのでご心配なく!」 
「…………え?」

 私は満面の笑みで答えた。
 そして内容が内容なので私も声を潜める。

「……おかげさまで、大変充実した夜が過ごせましたの」 
「は、い?」

 私はポッと頬を染める。

「その……いつもより激しく熱い(戦いの)夜でしたわ」
「は、激しく熱い……え?  は?」

 ゴテゴテ夫人の表情が凍り付く。
 だって昨夜の私は頑張りましたわ。
 前回は勢いよくキスマークを付けようとして、リシャール様にかぶりついてしまいましたから……
 ですから、昨夜はかぶりつかないようにと頑張りましたわ!

「───こら!  フルール。君はまたそんな誤解を招きそうな発言をして」
「旦那様?」

 リシャール様が私の腰を抱きながら加わる。
 国宝の横からの参戦にゴテゴテ夫人以外の夫人たちが一斉に顔を赤らめた。
 そして、リシャール様は国宝級の微笑みを浮かべる。

「───でも、昨夜みたいに積極的な君も素敵だよ、フルール」

 そのまま私の髪を手に取りそっとキスを落とした。
 夫人たちから黄色い悲鳴が上がる。
 そして、リシャール様は未だに固まっているゴテゴテ夫人に向かってニコッと微笑む。

「マルクリー侯爵夫人。昨日は妻にアドバイスとやらをありがとう。おかげでとても愛らしくて可愛いくて激しい妻が見られた」
「え?  ……あ、う、な……なんて?」

 マルクリー侯爵夫人───ゴテゴテ夫人がようやく口を開いた。
 私もにっこり笑顔でお礼を告げる。

「頂いたアドバイスのおかげで頭が空っぽの顔が可愛いだけが取り柄の若い女とやらに、夫を取られることは無さそうですわ。ありがとうございます」
「……うっ!!」

 その瞬間、ゴテゴテ夫人は何か言いたそうにクワッと目を大きく見開いた。
 そしてプルプル身体を震わせている。 
 何か怒っている?  
 そう感じて不思議に思った私はハッと気付く。
 ゴテゴテ夫人の向こうにいるのは……

(ゴテゴテ夫人の夫のモサ男が若い令嬢にデレデレして声をかけまくっていますわ!)

 だからこんなにプルプルして……
 やはり、ゴテゴテ夫人ほどの方でも、夫の気持ちをキープさせ続けるのは難しいということですわね?

(ならば私は今夜も頑張るまでですわ!)

 ───絶対にリシャール様に私のことを飽きさせたりなんてしません!

 呆然とするゴテゴテ夫人や惚けた様子の他の夫人たちの前で私は大きく気合を入れた。


────


「───フルール。さっきは楽しそうだったわね?」
「お母様?」

 ゴテゴテ夫人たちとの話を終えて、会場内の料理を物色していたらお母様がやって来た。

「あら?  あなたの愛する夫は?」
「───今、あちらのテープルで私のために料理を物色してくれていますわ!」

 リシャール様は“僕が運ぶ”という宣言どおり、料理を取りに行ってくれている。
 私が向こうのテーブルにいるリシャール様の背中に向けて指をさすとお母様がフフフと笑う。

「───よく出来た夫ね」
「はい!  国宝ですから」

 微笑ましそうにリシャール様へと視線を向けたお母様があっと声を上げた。

「お母様?」
「ちょっと、フルール!  見てご覧なさい、あの料理のチョイス。フルールの好みばっかりよ!  彼は本当にフルールを熟知しているのねぇ」
「ふふふ、これぞ愛のなせる技ですわ!」

 私はえっへんと胸を張る。

「仲良しね。あ、それよりフルール?  マルクリー夫人のあんなに面白い顔は初めて見たわ。さすが旦那様と私の娘ね!」
「面白い顔?」
「固まっていたじゃない。傍から見ていてとっても面白かったわよ」
「ありがとうございます?」

 お礼を言ったらお母様はやれやれと肩を竦めた。

「彼女、昔からよく突っかかってくるのよねぇ。あれはもう趣味なのかしら?」
「そうなんですの?  ゴテゴテといい変わった趣味をお持ちのようですわね」
「ゴテゴテ…………ふっ」

 お母様が小さく吹き出した。

「そういえば、お母様。儀式ではお疲れ様でした」
「え?  ああ、お祝いの舞のこと?」
「そうですわ!  あれは特別バージョンでしたわね?」

 私が興奮してそう訊ねると、お母様は目を瞬かせたあと苦笑した。

「昔、あのぼんくらと売り言葉に買い言葉で“いつかあなたが国王になる時が来ようものならその時は皆の前で踊ってやるわよ”と言ったことがあるのよ」
「まあ!  では約束でしたのね!?」

 さすが私の勘ですわ!
 そう感じたことは間違いではなかったようです。

「まさか、本当になるとは思わなかったわーー……だってあれよ?」

 お母様が再び苦笑した時だった。

「───お話中のところ失礼します。ご挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え?」
「あら?」

 私たちがその声に振り返る。
 そしてその声の主の姿に驚いた。

(ネチネチ国の王太子殿下ですわーーーー!)

 なぜ彼が話しかけてくるんですの!?
 内心びっくり驚いていたら、彼は私たちに挨拶をしたあと視線をお母様に向ける。

「貴女が伯爵夫人ですね?  父から話に聞いていましたが儀式ではとても素敵な踊りでした」
「これはこれは、わざわざご丁寧にありがとうございます」

 お母様がお礼を返すとネチネチ国の王太子殿下は微笑みを浮かべた。

「各国にファンがいるという話も頷けます、母上が嫉妬するほど父上が夢中になるわけだ」
「……それはどうも」

(この様子……ネチネチ国の国王はかなりお母様の舞がお好きなようですわね?)

「父は昔からよく私に話してくれたんですよ。隣国の留学中で出会った舞姫の話を!」

 そうしてネチネチ国の王太子殿下は、うっとりとした微笑みで語り出す。
 その語る内容があまりにも濃いので国王のネチネチ具合とその息子である彼がかなり影響を受けていることが分かった。

(親が親なら子も子ですわ!)

 私はチラッとお母様を横目で見る。
 お母様は静かに目を閉じて自分への賛辞を気持ちよく聞いている……
 ように見えますが、これは──

(お母様、全部聞き流していますわーー!)

 お母様得意の“聞いているフリ”

 ちなみに私はお母様と同じことをしてもすぐにバレてしまいます。
 なぜ?

 しかし、ネチネチ国の王太子殿下はそんなことには一切気付かず、お母様の舞への想いを語り続けていますわ。
 そして、全くお母様の心に響かず届かなかった熱い思いをたっぷり語り終えると今度は私に視線を向けた。

「───そして、お隣がお嬢様の今は公爵夫人になられたフルール・モンタニエ公爵夫人でお間違いありませんか?」
「ええ、はじめまして。フルール・モンタニエと申します」

 私が挨拶をするとネチネチ国の王太子殿下が小さく笑った。

「……なにか?」
「いえ、実は貴女が結婚されたという話を聞いて父が酷く落胆していたんです」
「落胆?  なぜですの?」

 首を傾げた私が聞き返すと、彼はさらに笑みを深める。
 そして、私の目を見つめた。

(ねっとりした視線ですわね……)

「祖父が許さなかったので話が進められなかったのですが、父はずっと私と貴女の婚姻を望んでいたからですよ?  フルール・モンタニエ公爵夫人」

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