王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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285. クラッシャー ②

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 私はネチッとした顔の銅像を改めて見つめる。

「ほーせきだらけ……」

 贅沢三昧と言うだけあって随所に使っている宝石の数は尋常じゃない。

「こんなふうにゴテゴテかざりつけたものを、こくほうだなんてみとめませんわ!」
「「「ひっ……!?」」」

 私の勢いに肉食メイドたちが目を丸くしている。
 仲良く身を寄せ合ってプルプルしていますわ。

「──だんなさま!」
「え?」

 私はリシャール様の腕を掴んで引っ張ると堂々と宣言した。

「ごらんなさい!  こちらがわがくにのこくほうですわ!!」
「え……国宝?」
「どうです?  あんなふうにゴテゴテにかざらなくても、とーーってもうつくしいでしょう!?」
「う……」

 肉食メイドたちは眩しそうに目を細めたあと、リシャール様のその美貌に再びうっとりした。
 その見惚れる様子にムッとする。

「みほれたくなるきもちはわかりますが、わたしのおっとですわよ!?」
「は、はいっ……!」

 肉食メイドたちがビクッと身体を跳ねさせた。
 そして、困惑したように視線を合わせる。

(リシャールさまがたべられないように、けんせいですわ~)

「うつくしいってつみですわね……」
「えっと、フルール?  何を言っているの?  あと、本当に大丈夫?」

 怪訝そうなリシャール様に向かってにっこり微笑む。
 リシャール様は全く……と言って苦笑すると優しく私の腰に腕を回して抱き寄せた。

(リシャールさま……)

 リシャール様の美しさとあたたかさに私は一瞬でメロメロになる。
 そんな私たちの様子に肉食メイドが震えながら訊ねてくる。

「あ、あああの!」
「こ、公爵夫人は、突然な、なぜこんなに破壊して回っ……暴れ……い、いえ、走り回っておられる、のでしょうか?」
「なんだか、は、話し方も、子供っぽくなられた……と言いますか……」
「……」

 リシャール様は軽く息を吐いてから肉食メイドたちに視線を向ける。
 その目がとっても冷たくて私の胸がキュンとした。

「嫌がらせ行為だったのかは知らないけど、完全に自業自得だよ。なぜ、僕たちに酒を運んで来た?」
「え?」
「は、い?」
「お酒、でございますか!?」
「……そうだ。今、フルールはお酒を飲んで酔っ払っている。彼女は酔うとこうなる!」

 肉食メイドたちが目を丸くして驚いている。
 そして困惑の表情を浮かべると声を揃えてこう言った。

「お酒!?  そ、そんなの聞いていません!」
「し、知りません、でした……」
「私たちはこれを運べと言われただけです!」

 肉食メイドたちの言葉にリシャール様が眉をひそめた。

「───誰に?」
「メ、メイド長です……」

 リシャール様の鋭い視線に肉食メイドがプルプル声を震わせながら答える。
 その顔は真っ青だった。

(すごい、れいきをかんじますわ~)

 私はリシャール様の放つ冷気と美しい横顔にうっとり見惚れる。

「メ、メイド長は……こ、国王陛下直々の命令だから、と!」
「……へぇ?  陛下の命令?」

 リシャール様の周囲の空気がピシッと凍りつく。
 にっこり笑顔なのに、全然目が笑っていません。
 私はその空気にゾクゾクした。

(リシャールさま、すてきですわーー)

 そんな空気の中、肉食メイドたちは涙目になりながら更に続けて言った。

「そ、そもそも、私たちお客様は公爵夫人一人と聞いていました!」
「あの(壊された)部屋に案内して軽食と飲み物を運んだあとは……」

 そこで何故かスッと目を逸らす肉食メイド。
 しかし、そこを逃すリシャール様ではありません。

「あとは───何かな?」
「……っ」

 リシャール様の美しくもゾクゾクする冷気にあてられながら、肉食メイドは何とか口を開いた。

「……そ、そのお部屋に」
「王太子殿下をご案内するように、と」
「王太子殿下を────へぇ?」

 ピシッ……
 その言葉を聞いた瞬間、この場の空気がもっともっと下がった。

「……あぁ、そういうことか」

 リシャール様が冷気とどす黒いオーラを放ってゆったりと美しく微笑む。
 そして、私の腰に回されている手にはギュッと力が込められた。

(リシャールさま……?)

「ひ、ひぃぃっ!?」
「……っっ!!」
「う、うぅぅ……」

 肉食メイドたちは、リシャール様のこの世のものとは思えない美しい微笑みに耐えられなかったのか、その場で腰を抜かす。

「……つまり、酔ったフルールにあの王子をけしかけて無理やりでも既成事実でも作ろうとした、そんな所か……」
「だんなさま?」

 私は、チッと美しい顔で吐き捨てるリシャール様を見上げる。

「うん。さすが、フルール曰く“ネチネチ国”の“ネチネチ国王”だ───最低だな」
「ねちねち……」
「──ということは、今頃“計画”が狂って大慌てだろうな」

 リシャール様が悪い顔でニタリと微笑む。
 こういう顔も好きですわ!

「──夫である僕が同行していたこと、酒に酔ったフルールが暴れ回ったこと、そして何より王太子殿下はすでにフルールに対してトラウマ……恐怖心を抱いている───……」

 悪い顔のままブツブツ呟くリシャール様。

「くくっ、何一つ上手くいかずに、多大な被害だけを受けている……間抜けだな」
「だんなさま?」

 私が声をかけるとリシャール様がこっちを向いて、にこっと笑ってくれた。

「フルール。あの国宝予定とか言っている銅像の主、どう思う?」
「あくしゅみなこくおうですわ。こんなもの、こくほうとはみとめません!」
「だよね、贅沢三昧というだけあって最高級の宝石をこれでもかと使用しているみたいだし?」
「こくみんのぜいきん……」

 メラメラッとした気持ちが湧き上がってくる。

「だんなさま……」
「ん?」
「せめて、あくしゅみなゴテゴテした、ほーせきだけでもとれないかしら?」
「え?」

 そう言って私は銅像に向かって手を伸ばした。
 それを見た肉食メイドたちが叫ぶ。

「……っ!  だ、駄目です!」
「お願いですから、触れないでーー!」
「───私たちが怒られてしまいますからーーーー」

 腰を抜かしていた肉食メイドたちが、気力を振り絞って立ち上がると私を止めようと突進して来た。

(まあ!  ききせまるかお!)

 咄嗟に彼女たちを避けようとしたら……

 ───バキッ

「……あら?」

 私の腕が銅像の頭に乗っていた王冠にぶつかる。
 その衝撃で、まずゴテゴテの宝石をたんまり使っていた王冠が落下した。
 砕ける王冠、床に散らばる宝石。

「ひぃっ!?」
「な、なんてこと!」
「お、王冠が!?」

 肉食メイドたちは悲鳴を上げて宝石を拾い集めようとする。
 その光景を見て思った。

(かんたんに、らっかしましたわ~)

 私はニヤリと笑う。

(あんがい、もろいのかもしれませんわ!)

 そう思った私は次に腰元に刺さっている剣に目を向ける。
 こちらも装飾にゴテゴテ宝石がたっぷり使われている。
 そんな悪趣味な剣に指さしながらリシャール様に声をかけた。

「だんなさま!  これもとれるかもしれません」
「え?  取れる?」
「はい!  とれそうなきがしますの。えいっ!」

 ───バキンッ!

「ほら、とれましたわ!」
「……フルール」

 私はへし折った剣を握りしめながら、ポカンとした顔のリシャール様に満面の笑みを向ける。

「さて、つぎですわ。つぎは───……」
「ひっ!  もう、や、止めてぇぇぇ!?」
「誰か……誰か、彼女を止めてーーーー!」

 肉食メイドたちが真っ青な顔で元気いっぱいに叫んだ。




「───おいっ!  な、何事だ!」
「何をしているーーーー!?」
「はっ!?  それは私の銅像……な、何を?  離れ……」

 肉食メイドの叫び声を聞いたらしいネチネチ国王やネチネチ王子たちが嬉々として銅像解体を試みる私の元へバタバタと走って来たのと、

(うーん……ちまちま、ちまちま……めんどーですわ?)

「あ!  そうですわ!  これなら────えいっ!」

 ちまちま解体するのが面倒になった私はがいつかのお母様みたいにぶんっと高く足を振り上げてみて、振り上げたその足がうまく銅像に命中したのはほぼ同時だった。

「う、うわぁぁぁぁ!?」
「陛下の……陛下の威信をかけた銅像が破壊されたぁぁ!?」
「蹴り一発で!?」

 その場には、皆の私の素晴らしい足使いに大きな悲鳴が響き渡る。
 私はふふん、と胸を張った。

(これも、おかーさまのじきでんですわよ!)

「〇✕△■~~!?」

 その中でも一際、頭を抱えて大きな悲鳴を上げていた男の人がいたので私はそちらに視線を向ける。

(……あ!  ネチッとしたかお!)

「ふふっ」

 銅像と同じその顔を見てこの人こそがネチネチ国王だと理解した私は、彼に向かってにっこりと笑いかけた──……

 ……───ところで私の意識はプツリと途切れた。

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