王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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294. 世界で一番、気持ち悪い

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 それ……を見た、ネチネチ国王は真っ青になって、元気いっぱいの悲鳴を上げた。
 私は笑顔でリシャール様に声をかける。

「ふっふっふ。旦那様!  思った通りネチネチ国王の元気いっぱいで嬉しそうな悲鳴が聞けましたわ!」
「嬉しそう……?  かな」
「え?  違います?」
「……ははは、うん。やっぱりフルールは変わらない」

(……?)

 リシャール様は一瞬、何かを考え込んだけれどすぐに笑顔を返してくれた。

「王子を含めた他の方の反応を見ると皆、きょとんとしていますわね?」
「──うん。ただの国王の姿絵集だろう?  何で陛下はあんな声で叫んでいる?  ……そんな顔をしているね」
「ええ……」

(──あら?)
  
 リシャール様の言葉に頷きながら、もう一度この場にいる人たちの顔色を窺う。
 その中で、反応をしている人物が三人ほどいることに気付いた。

(あの反応、怪しいですわ……)

 私はその人たちをじっと見つめる。
 誰かしら?
 自国の人間も怪しい私にはあの三人が誰なのかさっぱりですわ。

「ん?  フルール?  何かあったの?」
「リシャール様、あそこの三名が怪しいですわ」
「あそこの三名?」  

 リシャール様も私の言葉で、その三名に視線を向ける。
 そして眉をひそめると、小声で私に耳打ちしてくれた。

「───フルール。あそこにいるのは、宰相と財務管理担当の大臣、それから国王の側近の一人……だよ」
「まあ!  旦那様は誰なのか分かりますの?」
「うん。側近以外はさっき王妃殿下が名指ししていたから」
「!」

 さすが、リシャール様ですわ。
 なるほど。あの三名は立派な豪邸を建てた方と、宝石店の常連とか言われていた方。そして側近。

(ネチネチ国王に近しい人たちですわね)

 つまり、あの三人はあの本に本当は何が書かれているかを知っている、ということ。
 私は再び、じとっとした目で彼らを見つめる。

「許せません……ネチネチ国王のあんなにも気持ち悪いお母様妄想日記の内容を鵜呑みにされていたら困りますわ!」
「え?  フルール。そっち?」
「はい?  そっち?」

 リシャール様が目を丸くして私の顔を見る。
 はて?  と私も首を傾げた。

「当然ですわ!  あんなの私のお母様ではありませんから!  大事なことです!」
「そ、それはその通りなんだけど……さ」

 何故か焦るリシャール様。

「このままでは、私のお母様が誤解されてしまいますわ!」
「フルール……」

 そう言い切った私は、『舞姫と私』の中身を知ってそうな三人を今度は睨みつけた。
 そんな私の熱い思いが届いたのか、三人の内の一人と私の目が合う。
 確かこのお顔は……豪邸の男ですわ。
 私は念を送る。

「ひっ!?  な、なんだ!?」
「……」

(誤解は許しませんわよ~~)

「な、なんだ……あの目は……」
「……」
「くっ……何でそんな目でこっちを見るのだ!」
「……」

(あれは全てネチネチ国王の妄想ですわよ~~)

「……う、」
「……」

(お父様だってあんな極悪人ではありません。素敵な人ですのよ~~)

 どんどん、豪邸の男の顔色が悪くなっていく。
 異変に気付いた宝石の男と側近がハッとしてこちらを見る。
 残りの二人と私の目も合ったので、私はさっきと同じように念を送ることにした。
 そして、念を送れば送るほど、三人とも“私の想い”を理解してくれたようで顔が真っ青になっていく。

「旦那様!  見てください。三人のあの顔色!  そしてプルプルした身体の震え!」
「う、うん……」
「三人とも誤解していたことを反省しているのかもしれませんわ!」
「そ、そういう意味の身体の震え……なのかな」
「はい!  私のおもいが届きましたわ!」

 私は満面の笑みを浮かべる。

「…………そう、だね」

 リシャール様は苦笑しながら頷いてくれた。


 こうして念をかけ続けた結果。
 あの本の『舞姫と私』の部分が単なるネチネチ国王の妄想日記だと理解いただけたことに満足した私。
 ふと、王妃殿下はどうなった?  と、視線を向けると王妃殿下がネチネチ国王を追い詰めていた。


「───この本には、あなたがこれまでして来た“不正の記録”がこっそり記されているわ!」
「……っ」

 王妃殿下の告発に皆がギョッとする。

「もちろん、あなただけじゃなくて他にも関わっている人物の名もね!」

 その言葉に慌てふためく大臣たち。
 先程の三人もまだプルプルしていますわ~

「王妃!  どとどどうしてそなたがそれを……!?」
「どうして?  わたくしがこの本を持っていたらおかしいの?」

 王妃殿下が冷たい目で国王を見つめる。

「そ、そなたは!  結婚後、そなたの部屋に私の姿絵を飾らせようとしたら顔を赤らめて“要らない”と……」
「そうね、お断りしたわ」

 王妃殿下の部屋に自分の姿絵を飾らせようとした?
 なかなかの気持ち悪さですわ!
 ネチネチ国王の自分大好きが伝わってきますわね……

「あれは、王妃が照れて恥ずかしがっ……」
「当然でしょう!  ───あんな気持ち悪いものが常に部屋に飾られていたら具合が悪くなるもの!」
「な、に?」

 ネチネチ国王が目と口を大きく開けて固まります。

「え?  母上……?」

 固まった父親の側でネチネチ王子も目をまん丸にして二人の顔を交互に見る。

(そういえば、ネチネチ王子は勘違いしていましたわね?)

「母上!?  あなたはいったい何を言っているのですか!」
「何って、本当のことですけど?」
「は!?」

 ネチネチ王子、大きく動揺していますわ。

「は、母上は父上のことを……愛し……」
「愛?  何を言っているの?  世界で一番、気持ち悪い男だと思っているわよ?」
「キ、キモ……!?」
「そうよ。もう気持ち悪い以外の言葉が見つからない」
「……王妃!?」

 王妃殿下の容赦ない言葉に、ネッチリ親子が衝撃を受けていた。
 そんな二人の様子に王妃殿下は思いっきり眉をひそめる。

「やだ。あなたたち、何故驚いているの?」
「……え?」
「母上……?」

 王妃殿下は二人の反応を見てやれやれと肩を竦めた。

「わたくし、今までもしっかり態度でも言葉でもそう伝えて来たわよ?」
「……な!?」
「母上、が?」
「凄いわね……あなたたち、これまでどれだけ都合よく解釈していたわけ?」

 全力で嫌そうな顔をした王妃殿下は大きなため息を吐く。

「……そんなわたくしがあなたの姿絵集なんて進んで手に取るわけないでしょう?」
「ぐっ……で、ではなぜ、今回は、そ、それを手に取ったのだ!?」
「だ・か・ら!」

 そこで王妃殿下は私に視線を向ける。  

「先程も言ったでしょう?  救世主!  救世主の夫人がわたくしにこの本を持って持って来てくれたのよ」

 ザワッ
 王妃殿下のその言葉で室内が一気にザワザワし始めましたわ。
 皆様の視線が一気に私に集中します。
 なぜ、隣国の客人が?
 そんな声が聞こえて来ます。
 同じように最初は動揺していたネチネチ国王。
 しかし、何かに気付くと急ににこやかに笑いました。

(気持ち悪い笑顔ですわね……)

 確かに世界で一番気持ち悪い──に納得ですわ。

「───そうか!  舞姫の娘は私に興味があったのだな……!  それでこの本が欲しくなって手に取っ」
「え?  要りませんわ」

 私はキッパリとお断りする。
 その気持ち悪い思考はなんですの?  

「は?」
「その本は偶然、怪しい匂いがしたから目に入っただけですもの」
「あ、やしい、だと?」
「愛する夫の姿絵集なら喉から手が出るほど欲しいですが、陛下の姿絵なんてこれっぽっちも興味ありません」

 私は、これっぽっちと言いながら、とっても小さな小さな小さな穴を指で作って見せる。
 それを見たネチネチ国王は憤慨した。

「ふ、ふざけているのかーー!」
「いいえ、大真面目です!」

 私は真剣な顔で胸を張って答える。

「なっ!  ……貴様、いくら舞姫の娘と言えど、言っていいことと悪いことが──」
「───お母様も、お父様の姿絵なら集めて本にして手元にずっと置いておきたいと常々言っていましたわ!」
「舞姫がっ!?」

 “お母様”という言葉はネチネチ国王の中に大変響いたようで、グッと悔しそうに押し黙った。

「そして、怪しさ満載が気になって中を開いて目を通してみれば……中身はこれですわ!」
「う、ぐっ……」

 ネチネチ国王の気持ち悪い姿絵は予想通り。
 それより……お母様よ!  問題はお母様との気持ち悪い妄想日記!
 後半から出て来た不正の記録さえなければ、こんな本、とっくにビリビリにして紙吹雪を作って遊んでいましたわよ!?

 私はネチネチ国王だけでなく、先ほど念を送った三人にも視線を向ける。
 未だに青い顔でプルプルしている三人は、私と目が合うと元気いっぱいにその場で跳ね上がった。

(ふふん────どうやら、きちんと反省しているようですわね?)

 私は三人に向かってにっこり微笑んだ。

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