王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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297. 慰謝料の請求を

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 ネチネチ王子が大きなショックを受けていますわ!
 今日の彼は踏んだり蹴ったりですわね。
 父親のことを愛していると思っていた母親が全く愛情を持っていなかったと知り、父親の浮気も発覚し、事の次第によっては自分が捨てられていたかも……

(でも、同情はしませんわよ~)

 私は大好きな人を小馬鹿にした王子を許すつもりはありません。

(後悔しても遅いですわ~)

 そんなショックで呆然としているネチネチ王子の前で、王妃殿下は容赦なく国王を責め立てていく。

「自分の欲を満たすだめに税金を使い続けていただけでなく、浮気ねぇ……」
「ぐっ……ぅ」
「それも、色合いだけで選んだからなのでしょうね───お相手は未婚の令嬢だけでなくても含んでいるだなんて───最っっ低ね」
「うぐっ」

 その発言を聞いて私はびっくりした。

(お相手には人妻もいましたのーー!?)

 てっきり未婚の令嬢に手を出したとばかり思っていましたわ!?
 ますます顔色を悪くしたネチネチ国王に、王妃殿下は更なるトドメを刺そうとする。

「フフッ」

 この場にいる真っ青な顔をした大臣たちの顔をじっくり眺めながら不敵な笑みを浮かべた。

「皆様?  この人の浮気相手が、この中にいる“誰の娘”で“誰の妻”か今ここで発表して差し上げましょうか?」
「や、やめろ!  やめてくれ王妃!」

 懇願するネチネチ国王。
 サーッと大臣たちの顔色が変わりましたわ。
 舞姫様の色合いはどんなだったか?  なんてザワザワしながら皆様、顔を見合せています。
 そして、冷ややかな目がネチネチ国王に注がれる。

「おう、王妃……す、すまなかった……」
「……」
「ゆ、許してくれ!  この通りだ……!」

 真っ青なお顔でその場に膝をついたネチネチ国王は、手のひらを地面につけると額が地につきそうな勢いで頭を下げている。

(ついに頭を下げましたわ~)

「こ、こここれからは、きちんと王妃のことを……」
「え?  そんなの結構よ。わたくしは今更、そんなことは望んでいないわ?」
「は?」

 ネチネチ国王は顔だけ上に向けて王妃殿下を見上げる。

「あなた、どこまで阿呆なの?  今更王妃扱いされてわたくしが喜ぶとでも?」
「……!  ……ッ!?」

 ネチネチ国王。
 女心がダメダメですわ。

「いいこと?  そういう時期はもうとっくに過ぎたのよ?」
「す、ぎた?」
「ええ。過ぎたわ」

 王妃殿下はとってもいい笑顔を浮かべます。
 そしてチラッと私に視線を向けた。
 なんでしょう?

「───先ほど、公爵夫人がわたくしにこう言ってくれましたわ」
「ヒッ……な、なにを……だ!?」

 私の名前を聞いたネチネチ国王の身体がブルッと震えましたわ。

「陛下にがっぽり慰謝料請求することが出来ますわ───ってね?」
「い、慰謝料だと!?」
「そう。慰謝料よ」

 そこで、王妃殿下と私の目が合う。

 ───当然ですわ!  がっぽりですわよ~!

 そんな気持ちを込めて私は頷く。

 ───ついでに計算は得意なのでおまかせくださいですわ~

 私はどーんと胸を張る。
 そんな私を見た王妃殿下はクスッと笑った。
 どうやら通じたようですわね!

「───ねえ、陛下?」
「……っっ!?」
「婚約時代から今日まで……わたくしが受けて来た長年の苦しみを全て“慰謝料”として請求させて貰いますわね?」
「な……!?」

 クワッとネチネチ国王の細い目が大きく見開かれる。

「そ、そそそんな金……ど、どどどどこにある、と言うのだ!?」
「あら?  くっだらない銅像に使うお金はあったのでしょう?」

 ホホホと笑う王妃殿下。
 ぐっと押し黙るネチネチ国王。

「うぅぅ、そそそそそそれは……」
  
 王妃殿下に追い詰められているネチネチ国王は、もう全身が震えていて言葉もまともに発せていない。

「でも、大丈夫よ。わたくしの要求はお金ではないから」
「か、かかかか金ではない!?」
「ええ」

 にっこり微笑んだ王妃殿下。
 そんな王妃殿下に見下ろされたネチネチ国王はおそるおそる訊ねた。

「……で、でででは!  王妃!  そなたは、な……何を、の、望むのだ!?」
「……」

 王妃殿下はとっても不敵な笑みを浮かべた。


─────


「謁見終了ですわ~」
「あれは……謁見、だったのかな」

 私は伸びをしながら部屋に戻るため、リシャール様と廊下を歩く。

「え?  他に何が?」
「そうなんだけど。ただ、冷静になると僕らは何を見せられていたのかと……」

 床に這いつくばり、文字通りぺっちゃんこになったネチネチ国王を横目に、私とリシャール様は謁見の間を退出した。
 王妃殿下は、まだまだ踏みつけが足りないらしく、ネチネチ国王だけでなく大臣たちもさらにぺっちゃんこにするというので、私たちはお暇して来た。

(私も助手としてやれることはやりましたわ~)
  
 振り返ると、大勢の人たちの元気いっぱいの声が向こうから聞こえてくる。

「……フルールは元気だね?」
「当然ですわ!」

 私も元気いっぱいで大きく頷く。
 すると、リシャール様がハハッと笑いながらも少し遠い目をして呟いた。

「……でも、この国はどうなるのかな?」
「分かりませんが───とりあえず、ネチネチではなくなりますわ!」
「フルール……」

 リシャール様がじっと私の目を見つめた。
 その美しい瞳にドキッと私の胸が跳ねる。

「フルール。ここまで来ても、国の名前も国王の名前も王子の名前も覚えていないだろう?」
「……っ」

 さすが私の愛する夫のリシャール様。
 全てお見通しですわ!

「私の中で、ネチネチが定着しすぎたのもありますけど」
「けど?」
「……」

 そこで一旦言葉を切った私は、てへっと笑う。

「覚えなくても困らないわ、と思ってしまいましたの」
「フルール……」

 私がそう言うと、リシャール様が優しく私の頭を撫でた。

「リシャール様?」
「───例外もあるけどさ」
「はい?」
「フルールに別名を付けられて名前を覚えて貰えなかった人は、軒並み潰れていく気がするよ」
「まあ!」

 リシャール様のその発言に、私は口元に手を当ててふふふと笑う。

「さすがに、それは大袈裟ですわ───……」

 そう言いかけて、あれ?  と思った。

(確かに……)

 顔と別名は思い出せても、本名がなかなか出て来ない人ばかりですわ。
 そしてその人たち……もう、姿を見かけなくなっていますわ?

「……フルール」 
「……」

 おそらく、リシャール様には通用しないけれど、えへっと笑って誤魔化してみる。 
 リシャール様はじっと私を見つめた。

「質問!  僕の弟の名前は?」
「ジメ…………」

 はっ!
 当然のように“ジメ男”と言いかけて慌てて口を塞ぐ。

「……サ……」
「サ?」
「サミ……」
「……」

 結局、この時は、“サミ”で断念した。




 そうして私たちは帰国の準備を始める。
 ネチネチ国王とその愉快な仲間たちが今後どんな罰を受けるかは、ネチネチ国の人たちで決めること。
 王妃殿下が主導となってきっちり罪を償わせるはず。

(でも、ネッチリ親子は、王族からはさようならですわ~)

 私とリシャール様は、そもそも具合の悪かったネチネチ王子を送り届けるというお役目だったので、これ以上の滞在は不要。
 しかも、不測の事態が起きたことで日程も大幅に延びてしまっている。

「帰国が遅くなってしまったから、皆、心配しているかもしれませんわね?」

 荷物を確認しながらリシャール様に声をかける。

「手紙は書いたけど……今頃ハラハラしているんじゃないかな?」
「ハラハラ?  ネチネチ国が今後どうなるかをですの?」
「……」

 何故か苦笑された。
  
「いや、うん。フルールが隣国で何をするか、かな?」
「まあ!」

 では、今回の私を言うならば、“助手・フルール”ですわね!

「こっちの国でも、国王を退位させて王太子を廃嫡させたと大騒ぎになりそうだ」 
「あら、旦那様。それは違いますわ」

 私はリシャール様の発言に訂正を求める。
 リシャール様は不思議そうに目を瞬かせた。

「違う?」 
「ええ。“慰謝料”としてネッチリ親子を追い詰めたのは王妃殿下ですもの」

 ───そう。
 あの時、慰謝料請求を口にした王妃殿下。
 その内容は、お金ではなく……ネチネチ国王の退位とネチネチ王子を廃嫡することだった。

「そういえば、あれって今後は王妃殿下がトップに立つということになるのでしょうか?」 
「うーん?  どうするんだろうね?」

 リシャール様も首を捻る。
 そうなるのだとしても、大臣たちも真っ黒な人が多かったから絶対大変だ。

「とはいえ、とりあえずネチネチ感が無くなってさっぱりした国になることは間違いありませんわ!」

 我が国もあれくらいお掃除したいところですわ~

「まあ、何であれ隣国の王家の騒動にフルールが関わったというお土産話だけでも皆、驚くよ」
「うっかりお酒を飲んでしまいましたけど」

 ははは、と顔を見合せて笑っていたら部屋の扉がノックされる。
 準備が出来たのかしら?
 そう思ったのだけど。


「え?  帰国前にどうしても王妃殿下が私に会いたいと仰っている?」
「───はい」
「ですが、今って色々後始末に追われていて忙しいのではありませんか?」

 呼びに来た王妃付きの使用人にそう訊ねる。
 それにあの後、一度王妃殿下とはお会いして、その時に今回の件のお礼はたくさん言われていますわよ?
 それでも、まだ何かある?

「そう、なのですが。妃殿下がどうしても、と」

 私とリシャール様は顔を見合せた。
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