王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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299. お土産ですわ!

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「あ!  この景色は……」

 馬車から窓の外を見ていた私はハッとする。

「旦那様!  国境を越えました!  無事に帰国ですわ~」
「うん」

 私が満面の笑みで振り返ると、リシャール様は優しく微笑んでいた。

「……長かったね」
「長かったですわ」

 ほんの数日の滞在のはずでしたのに。
 予定外のことばかり起きて結局、長居してしまいましたわ。

「予定通りに過ごすというのは難しいですわねぇ」
「ん……まあ、フルールだからね」
「……どういう意味です?」

 リシャール様をじっと見つめると、ククッと笑う。
 そして、私の肩に腕を回すとそっと抱き寄せた。

「僕の可愛い奥さんは、いつでも何処でも予測不可能ってことだよ」

 リシャール様は国宝級の眩しい笑顔を近付けてきて、チュッと私の額にキスを落とす。

「王太子殿下を送り届けるお役目が、国王共々廃嫡に追い込みました──って結末、誰が想像する?」
「それは……」
「……そして、極めつけは“これ”だよ」

 これ──そう言ってリシャール様は懐から手紙を取り出す。
 ネチネチ国の王妃殿下から託された手紙。
 私はにこっと笑う。

「お土産ですわ!」
「おみや…………うん、まあ……そうだね」
「旦那様?」

 なぜか、苦笑するリシャール様。
 そして、再び美しい顔を近付けてくるとチュッと今度は唇にキスをした。

「……んっ」
「フルール」
「旦那さ……」

 チュッと再びキスが降ってくる。
 馬車の中は一気に甘い空気でいっぱいになった。



 それからたくさんキスをした後、リシャール様はとても小さな声でポツリと呟いた。

「────本当に君は“最強”だよ、フルール」



───── 



「ただいまですわ~」

 こうして無事に帰国した私たち。
 しかし、久しぶりの家ですわ~と、ゆっくり身体を休めている場合ではありません。
 帰国の報告と王妃殿下に託された手紙を渡すために王宮へ向かいます。


「……陛下、大丈夫かな?」

 そんな王宮に向かう馬車の中でリシャール様が頭を悩ませている。
 眉間の皺がすごい。
 私はそんなリシャール様の眉間の皺をせっせと伸ばしながら訊ねる。

「何がですの?」
「一緒に胃薬持参した方が良かったかなって」
「胃薬?」

(陛下はお腹でも壊しているのかしら?)

 私は首を傾げた。
 でも、すぐに私は前にお母様から聞いた話を思い出す。

「いえ。大丈夫ですわ!」
「え?  大丈夫ってどういうこと?」

 きょとんとした顔をするリシャール様に、ふっふっふと笑いかける。

「お母様が言っていましたの。陛下は昔から胃薬が常備薬なのよって!」
「え……」
「ですから、私たちが持参しなくてもたくさん持っていると思いますわ!」
「胃薬が常備薬……なんだ」

 リシャール様が、ははは……と小さく笑う。

「王宮のご飯はとっても美味しいですから、陛下も昔からお代わりをたくさんしているのかもしれませんわね?」
「あー……胃もたれそっちじゃないと思うよ?  フルール」
「え?  違いますの?」
「……うん」

 リシャール様は優しく笑って私の頭を撫でた。



 そうして、私たちが王宮に着くと……

「あら?  お父様お母様、お兄様にオリアンヌお姉様……皆がいますわ?」

 なぜか、王宮には私の家族が勢揃いしていた。
 そして私の姿を認めると皆が駆け寄って来る。

「───フルール!」

 お兄様がガシッと私の両肩を掴む。
 そして、ガクガクと強く前後に強く揺さぶられた。
 目が回りますわ~

「無事だったんだな!?」
「ぶ、ぶじ?」
「隣国への滞在が延びると聞いて……俺たちはもう心配で心配で心配で……!」
「まあ!」

 そんなに私の心配を……?
 家族の愛に私の胸が熱くなる。

「出発前に母上がフルールに“好きにしていい”って言ったと聞いた」
「そうですわ!」

 これは、なかなか出ない許可ですわよ。

「そして、延びた滞在期間。フルールはいったい何をやらかして滞在が延長になったのだろうか……」

(ん?)

「向こうの国の王宮料理を食べ尽くしたのかも……」

(んん?)

「それより、母上直伝の舞を披露して王宮を破壊し尽くしているのかも……」

(んんん?)

「俺たちは色々考えた……」

 おかしいですわ。
 お兄様の発する言葉の中に、いっさい私の身体を気遣う言葉が見つかりません。

「そうしてハラハラしていたら、ようやく帰国すると聞いたから居ても立ってもいられず……皆で顔を見ようとやって来たわけだ」
「お兄様……」

 なるほど!  
 お兄様はこう言いたかったのですわね?
 向こうの王宮料理をお代わりし過ぎて、私がお腹を壊していないかの心配。
 お母様の舞が好きなネチネチ国王に無理やり踊らされて、怪我をしていないかの心配。

(ちゃんと私を心配してくれていましたわ~)

 なんて優しい家族!
 大丈夫でしてよ、お兄様!
 向こうのお料理も美味しかったですわ。
 遠慮なくたくさん召し上がってくださいとの言葉通り、たくさん食べたら、皆とっても嬉しそうに泣いてましたもの。
 それと、お酒のせいで記憶にありませんが、ガラス細工を壊した時も銅像を破壊した時も怪我はありませんでしたわ。

 私はお兄様に向かってえっへんと胸を張る。

「───安心してください、お兄様!  請求書はありませんわ!」

 お兄様が目を大きく見開き私を凝視する。
 私はニンマリ笑う。

「な、いのか?」
「ええ!」
「そ、そうか……俺はてっきり……そうなの、か。請求書はない」

 よかったとホッと胸を撫で下ろすお兄様。

「王妃殿下が請求はしないと約束してくれましたの」
「…………ん?  王妃、殿下?  なんでここで王妃殿下?」

 お兄様が首を傾げる。

「だって国王陛下も王太子殿下も退位と廃嫡が決まりましたので、今、国の実権を握っているのは王妃殿下ですもの」
「は?  た、退位に廃嫡!?」
「そうですわ~」

 目をまん丸にしているお兄様に私は満面の笑みで説明する。

「国王陛下は王妃殿下の足置き台となって人生再出発、王太子殿下は物好きな貴族に売られて人生再出発です!」
「なんだって!?」

 これにはお兄様だけでなく、他の皆も驚きの声を上げた。
 中でもお母様はお腹を抱えて笑いだした。

「足置き……足置き台!  あの粘着力で?  やだ、本当なの?  フルール?」
「はい!  王妃殿下の足元で必死にプルプルしていましたわ!」

 私は満面の笑みで頷く。

「見たかった……何それ、とってもとっても見たかったわ!!  見たい!」
「お、落ち着け!  ブランシュ」
「落ち着く?  無理無理。だって足置き……足置き台……あの粘着質が足置き……」

 お母様は自分も踏みたいと大興奮です。
 お父様が落ち着かせようとするも、足置き台になった国王を想像したのか笑いが止まらないようですわ。

「フ、フルール……つまり……」
「お兄様?」

 私の肩を掴んでいるお兄様の手がプルプル震えていますわ?

「お前は……お前はまたその調子で隣国を……隣国の王族までもを、こ……懲らしめて……」
「───公爵夫人!」

 お兄様がなにか言いかけた時、後ろから声をかけられる。
 この声は……と思って振り向くと、その声は間違いなく国王陛下。
 そして、久しぶりに見るそのお顔は何だか青ざめていた。

(ええ!?  まさか陛下、自ら直々に出迎えに来られたんですの?)

 さすがの私も驚く。
 一応、跡継ぎにはなったけれど、私は王族の一員になったわけじゃありませんわよ?
 そんな陛下は勢いよくわたしに詰め寄ってきた。

「こ、公爵夫人……い、今の話は……本当なのか?」
「えっと?」
「──今の……今の隣国の国王陛下と王太子殿下の話だ!」

 ああ、その話ですのね!  と私はにこっと微笑む。

「もちろん、本当ですわ!」
「っっ!  モンタニエ公爵!」
「───事実です」

 私の答えを聞いた陛下は、すぐにリシャール様にも確認を取った。
 きっちりしていますわね。
 話を振られたリシャール様は素早く丁寧に頷く。

「じ、事実……!」

(あら?)

 そんな驚いた様子の陛下が何かを手に握っている。
 何かの紙かしら?

「つ、つまり先ほど、隣国から届いたこの書状は事実……ほ、本当に……?」

 陛下はますます顔色が青くなり、お腹の辺りをさすっている。

(隣国から届いた書状?)

 その言葉で私は気付いた。
 ポンッと手を叩く。

「陛下!  もしかしてあちらの国から連絡がありましたの?」
「…………あ、ああ」

 その手に握っているのは元ネチネチ国からの書状ですわね!
 何故かじとっとした目で私を見る陛下。

「これを読んだら、部屋で待っていられず思わず飛び出したくなるくらいの衝撃だったのでな」
「まあ!」
「夫人……この書状には諸事情により国王と王太子が王族から離れることになったと書いてある」
「そうです。そして、彼らの新しい人生については先ほど説明した通りですわ」
「……」

 陛下がここでビクビク頬を引き攣らせます。

「で、では……その先の“これ”はなんだ?  公爵夫人」

 そう言ってプルプルしている陛下が書状を広げると、とある一文を私に見せた。

「まあ!  ……これは」
「三度見したが、何度読んでも内容は変わらなかったぞ!  これは……」
「───お土産です」

 私は、にこっと笑顔で答える。

「は?  おみ……」
「はい!  ですから、そこに書かれている内容ことは───お土産ですわ!」

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