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314. やっぱり“最強”
しおりを挟むリシャール様が笑った。
「今回の演出も今後流行るかな?」
「そうですわね。ですが一度行ってしまうので、この後のアニエス様の驚きほどの衝撃は無いかもしれませんが……」
「が?」
リシャール様が首を傾げる。
「演出方法は多少、人に合わせて変えることは可能ですわ!」
「ははは、本当にフルールのその発想はどこから来るんだろう?」
「え?」
そう言われても……
私は薔薇を見つめながらうーんと考える。
「大抵、突然の閃きですわね?」
これしか答えようがありません。
「自分が楽しみたければ自分の好きなことを、誰かを楽しませたいと思った時はその相手が笑顔になってくれることを想像して考えていると───」
「自然と降って来る?」
「はい! そんな感じですわ」
私が笑顔で答えるとリシャール様も優しく微笑み返す。
「もし、この先、本当にフルール女王が誕生が実現した時は……」
「もちろん! 国民、皆の笑顔を想像しますわ!」
「そして、最強の国を目指す?」
「当然ですわ!」
私は、ふふんと笑って大きく胸を張った。
リシャール様は、やっぱりフルールだね、と言ってくれた。
そんな話をしながら私たちは会場に入る。
そして、皆と一緒にそれぞれのお花を持ちながらアニエス様の入場を待って───
「……え? は? これ、どういうこと!?」
皆から祝福の言葉とお花を渡されているアニエス様が驚きで目を丸くしていた。
次から次へと……何が起きているのかわかっていないようです。
「どうして皆、おめでとうって花を渡してくるわけ!? ねえ、ナタナエル……」
「……」
アニエス様は隣のナタナエル様に助けを求めるけれど、ナタナエル様はその横でニコニコしています。
「ちょ、ちょっと……ナタナエル!? 聞いてる?」
オロオロするアニエス様。
その間も皆様からアニエス様へのお祝いの言葉は続きます。
「え、え? え?」
(思った通り、顔が真っ赤になって身体もプルプルですわ~)
そんなアニエス様を見守るナタナエル様もとっても嬉しそうですわ。
ふふふ、と笑っているうちに私の番もやって来た。
私が近付くと、既に涙目になって困惑中のアニエス様がハッとした。
「はっ! フ、フルール様……!」
「改めて、ご結婚おめでとうございます、アニエス様」
「っ!」
丁寧にお辞儀をしてからそっと赤い薔薇の花をアニエス様に差し出す。
「これで“アニエス様の色”になったでしょう?」
「……も、もしかして、こ、これを考えたのってフルール様……なんですか!?」
にこっ!
「アニエス様にこんなにも喜んで貰えてとっても嬉しいですわ!」
「は? ま、待って! わ、わたしは……別にっ! ……よろこ……っっ」
そこで真っ赤な顔で黙りになるアニエス様。
言葉は詰まってしまったけれどその表情はとっても嬉しい……そう言っていますわよ?
ふふふ、やはり恥ずかしがり屋さん。可愛いらしいですわね!
「アニエス、こういう時は素直に喜んでいいんだよ? はい、集まったお花を貸して?」
「え? ナタナエル……?」
横からナタナエル様がアニエス様の元に集まった花と私の作った土台のブーケを受け取って、手際よく纏めていきます。
やっぱり器用ですわ~
ナタナエル様はきちんとメインの赤い薔薇の花を中心にして綺麗な花束にしていく。
最後にクルッとリボンをつけて……これでブーケの本当の完成ですわ!
「え! ナタナエル……これ……」
「アニエス。これは今日、君をお祝いするためにと集まった皆からの気持ちだ」
「皆から……の」
目を見開いたアニエス様が会場全体を見渡す。
皆、にこにこ顔で二人を見守っています。
「!」
「アニエス。赤い薔薇をメインにしたのは、これが君の瞳の色でもあり───俺の気持ちだからだよ」
「ナタナエル……」
「さあ、受け取って? アニエス。公爵夫人考案……皆で作り上げた、君だけのブーケだ」
「~~~っっ」
真っ赤に照れた涙目のアニエス様がそっと手を伸ばして、ナタナエル様からブーケを受け取る。
あたたかい拍手が沸きあがる中で見えたアニエス様の顔は、これまでで一番可愛くて幸せそうだった。
───
(どれもこれも美味しそうですわ~)
大成功となったアニエス様の結婚式の後に開かれたパーティー。
そこで私は美味しそうな料理を目の前にして目を輝かせる。
「───フルール。僕、あっちのテーブルの料理を持ってくるね?」
「お願いしますわ!」
出来る夫、リシャール様は私の分のお皿も持って別のテーブルに向かいます。
(さて、今日もたくさん堪能させていただきますわ~)
そうして、すでに取り分けた目の前の料理にかぶりつこうとしたその時だった。
「ちょっと! ────このような場でそんなにガツガツとはしたない! ……あなたはコロコロになりたいんですか?」
「!」
聞き覚えのある懐かしいその言葉にハッとして振り返る。
そこには本日の主役、大親友のアニエス様が立っていた。
「アニエス様~!」
「相変わらず、胸焼けしそうな量……」
声をかけてきたアニエス様の視線が私のお皿に向かう。
その怪訝そうな表情は、私がコロコロになるのを危惧しているからですわね?
「安心してくださいませ! その時はコロールと改名しますから!」
「やめて! そんなことされたら、フルール様の顔を見る度に笑ってしまうから!」
凄い勢いで止めてくれと言われてしまいました。
チョロールもメラールもコロールも全部止められてしまいましたわ。
「そ、それより! ────フルール様っ!」
「はい?」
「……っ」
アニエス様の顔が強ばっています。
そのまま真っ赤な顔で、あー……とか、うー……とか唸っているのでハラハラします。
「アニエス様、大丈夫です? ナタナエル様を呼びます?」
「よ、呼ばなくていいわ!」
「そうですか」
チラッと私は会場の中央に視線を向ける。
ナタナエル様は今、幻の令息と鏡ごっこしていますものね。
とても楽しそうなので邪魔はしたくない気持ちは分かります。
「では、お水でも飲みます?」
私がそう言って手に持っていたお皿をテーブルに置いた時だった。
「フルール様!」
「え?」
もう一度、名前を呼ばれたと思って振り返ったら……
なんと! アニエス様の方から私に抱きついて来ましたわーーーー!?
「アニエス様? どうしましたの?」
「……」
大親友のアニエス様の方から私に抱きついてくるなんて……!
やはり、大親友の私の温もりが急に恋しくなったのかしら?
それなら、頼まれればいつでも大親友な私の方から───……
「っっ! それは、結構よ!」
「あら?」
まあ! 凄いですわ?
口にしていないのに私の気持ちをこうも正確に読み取るなんて!
さすが、誰もが認める私の大親──
「違うわよ! フルール様。あなたさっきから頭で考えていること全部口に出していますから!」
「……え」
「全部、だだ漏れていますから!!」
「だだ……漏れ」
私は目をパチパチさせる。
「さっきから、ずっと大親友、大親友って……」
「だって、大親友ですもの」
「……っ」
私の言葉にアニエス様が何故かここでぐっと押し黙る。
その代わりになのか、私を抱きしめる腕に力が入った気がした。
「い、一度しか言わないわよ? その耳かっぽじってよーーく聞きなさい!!」
「アニエス様?」
アニエス様は私の耳元で言った。
「────あ、ありがとう……! あなたの……フルール様のおかげで、わたしは今……し、幸せ、よっ!」
「……」
「そ、それだけ言いたかったのよ!!」
アニエス様は顔を真っ赤にしながら私から身体を離すとそう言った。
「アニエス様……」
「さ、さあ! あ、後は思う存分、好きなだけ食べて食べて食べまくってコロッコロになるといいわ!」
「……コロッコロ」
「コ、コロールとは呼んであげませんけどねっ!」
アニエス様はそう言って逃げるように去って行った。
(耳まで真っ赤ですわ~)
私がフフッと微笑んでいると、お皿を抱えたリシャール様が戻って来る。
「フルール、戻ったよ」
「おかえりなさいませ、旦那様!」
さすが、リシャール様。
今日も私の大好物がてんこ盛りですわ!
「フルール? 本日の主役がすごい勢いで走り去っていったけど?」
「はい! やっぱりアニエス様はとっても可愛いですわ!」
「……」
満面の笑みで答える私に向かってリシャール様もククッと笑う。
「不思議なんだよなぁ。これまでフルールに絡んで消された人間は老若男女身分問わず沢山いるのに……」
「?」
「彼女だけ生き残ってる……」
「旦那様?」
リシャール様は、ハハハッと笑いながら持って来た料理を私の口へと運ぶ。
私はあーんと口を開けた。
(美味しいですわ~)
「なんだかんだで最初から彼女はフルールのことが好きだったんだろうなぁ……」
(私も大好きですわ~)
「モテモテなんだよなぁ……無自覚の人たらし?」
モグモグしながら、にこにこしているとリシャール様と私の目が合う。
リシャール様は優しく微笑んで言った。
「あの日───捨てられた僕を拾ってくれた可愛い可愛い奥さんは、やっぱり“最強”だよ」
───当然ですわ!
そんな思いを込めて私もにっこり微笑み返した。
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