王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
314 / 356

314. やっぱり“最強”

しおりを挟む


 リシャール様が笑った。

「今回の演出も今後流行るかな?」
「そうですわね。ですが一度行ってしまうので、この後のアニエス様の驚きほどの衝撃は無いかもしれませんが……」
「が?」

 リシャール様が首を傾げる。

「演出方法は多少、人に合わせて変えることは可能ですわ!」
「ははは、本当にフルールのその発想はどこから来るんだろう?」
「え?」

 そう言われても……
 私は薔薇を見つめながらうーんと考える。

「大抵、突然の閃きですわね?」

 これしか答えようがありません。

「自分が楽しみたければ自分の好きなことを、誰かを楽しませたいと思った時はその相手が笑顔になってくれることを想像して考えていると───」
「自然と降って来る?」
「はい!  そんな感じですわ」

 私が笑顔で答えるとリシャール様も優しく微笑み返す。

「もし、この先、本当にフルール女王が誕生が実現した時は……」
「もちろん!  国民、皆の笑顔を想像しますわ!」
「そして、最強の国を目指す?」
「当然ですわ!」

 私は、ふふんと笑って大きく胸を張った。
 リシャール様は、やっぱりフルールだね、と言ってくれた。

 そんな話をしながら私たちは会場に入る。
 そして、皆と一緒にそれぞれのお花を持ちながらアニエス様の入場を待って───



「……え?  は?  これ、どういうこと!?」

 皆から祝福の言葉とお花を渡されているアニエス様が驚きで目を丸くしていた。
 次から次へと……何が起きているのかわかっていないようです。

「どうして皆、おめでとうって花を渡してくるわけ!?  ねえ、ナタナエル……」
「……」

 アニエス様は隣のナタナエル様に助けを求めるけれど、ナタナエル様はその横でニコニコしています。

「ちょ、ちょっと……ナタナエル!?  聞いてる?」

 オロオロするアニエス様。
 その間も皆様からアニエス様へのお祝いの言葉は続きます。

「え、え?  え?」

(思った通り、顔が真っ赤になって身体もプルプルですわ~)

 そんなアニエス様を見守るナタナエル様もとっても嬉しそうですわ。
 ふふふ、と笑っているうちに私の番もやって来た。
 私が近付くと、既に涙目になって困惑中のアニエス様がハッとした。

「はっ!  フ、フルール様……!」
「改めて、ご結婚おめでとうございます、アニエス様」
「っ!」

 丁寧にお辞儀をしてからそっと赤い薔薇の花をアニエス様に差し出す。

「これで“アニエス様の色”になったでしょう?」
「……も、もしかして、こ、これを考えたのってフルール様……なんですか!?」

 にこっ!

「アニエス様にこんなにも喜んで貰えてとっても嬉しいですわ!」
「は?  ま、待って!  わ、わたしは……別にっ!  ……よろこ……っっ」

 そこで真っ赤な顔で黙りになるアニエス様。
 言葉は詰まってしまったけれどその表情はとっても嬉しい……そう言っていますわよ?
 ふふふ、やはり恥ずかしがり屋さん。可愛いらしいですわね!

「アニエス、こういう時は素直に喜んでいいんだよ?  はい、集まったお花を貸して?」
「え?  ナタナエル……?」

 横からナタナエル様がアニエス様の元に集まった花と私の作った土台のブーケを受け取って、手際よく纏めていきます。
 やっぱり器用ですわ~
 ナタナエル様はきちんとメインの赤い薔薇の花を中心にして綺麗な花束にしていく。
 最後にクルッとリボンをつけて……これでブーケの本当の完成ですわ!

「え!  ナタナエル……これ……」
「アニエス。これは今日、君をお祝いするためにと集まった皆からの気持ちだ」
「皆から……の」

 目を見開いたアニエス様が会場全体を見渡す。
 皆、にこにこ顔で二人を見守っています。

「!」
「アニエス。赤い薔薇をメインにしたのは、これが君の瞳の色でもあり───俺の気持ちだからだよ」
「ナタナエル……」
「さあ、受け取って?  アニエス。公爵夫人考案……皆で作り上げた、君だけのブーケだ」
「~~~っっ」

 真っ赤に照れた涙目のアニエス様がそっと手を伸ばして、ナタナエル様からブーケを受け取る。
 あたたかい拍手が沸きあがる中で見えたアニエス様の顔は、これまでで一番可愛くて幸せそうだった。



───



(どれもこれも美味しそうですわ~)

 大成功となったアニエス様の結婚式の後に開かれたパーティー。
 そこで私は美味しそうな料理を目の前にして目を輝かせる。

「───フルール。僕、あっちのテーブルの料理を持ってくるね?」
「お願いしますわ!」

 出来る夫、リシャール様は私の分のお皿も持って別のテーブルに向かいます。

(さて、今日もたくさん堪能させていただきますわ~)

 そうして、すでに取り分けた目の前の料理にかぶりつこうとしたその時だった。

「ちょっと!  ────このような場でそんなにガツガツとはしたない!  ……あなたはコロコロになりたいんですか?」
「!」

 聞き覚えのある懐かしいその言葉にハッとして振り返る。
 そこには本日の主役、大親友のアニエス様が立っていた。

「アニエス様~!」
「相変わらず、胸焼けしそうな量……」

 声をかけてきたアニエス様の視線が私のお皿に向かう。
 その怪訝そうな表情は、私がコロコロになるのを危惧しているからですわね?

「安心してくださいませ!  その時はコロールと改名しますから!」
「やめて!  そんなことされたら、フルール様の顔を見る度に笑ってしまうから!」

 凄い勢いで止めてくれと言われてしまいました。
 チョロールもメラールもコロールも全部止められてしまいましたわ。

「そ、それより!  ────フルール様っ!」
「はい?」
「……っ」

 アニエス様の顔が強ばっています。
 そのまま真っ赤な顔で、あー……とか、うー……とか唸っているのでハラハラします。

「アニエス様、大丈夫です?  ナタナエル様を呼びます?」
「よ、呼ばなくていいわ!」
「そうですか」

 チラッと私は会場の中央に視線を向ける。
 ナタナエル様は今、幻の令息と鏡ごっこしていますものね。
 とても楽しそうなので邪魔はしたくない気持ちは分かります。

「では、お水でも飲みます?」

 私がそう言って手に持っていたお皿をテーブルに置いた時だった。

「フルール様!」
「え?」

 もう一度、名前を呼ばれたと思って振り返ったら……
 なんと!  アニエス様の方から私に抱きついて来ましたわーーーー!?

「アニエス様?  どうしましたの?」
「……」

 大親友のアニエス様の方から私に抱きついてくるなんて……!
 やはり、大親友の私の温もりが急に恋しくなったのかしら?
 それなら、頼まれればいつでも大親友な私の方から───……

「っっ!  それは、結構よ!」
「あら?」

 まあ!  凄いですわ?
 口にしていないのに私の気持ちをこうも正確に読み取るなんて!
 さすが、誰もが認める私の大親──

「違うわよ!  フルール様。あなたさっきから頭で考えていること全部口に出していますから!」
「……え」
「全部、だだ漏れていますから!!」
「だだ……漏れ」

 私は目をパチパチさせる。

「さっきから、ずっと大親友、大親友って……」
「だって、大親友ですもの」
「……っ」

 私の言葉にアニエス様が何故かここでぐっと押し黙る。
 その代わりになのか、私を抱きしめる腕に力が入った気がした。

「い、一度しか言わないわよ?  その耳かっぽじってよーーく聞きなさい!!」
「アニエス様?」

 アニエス様は私の耳元で言った。

「────あ、ありがとう……!  あなたの……フルール様のおかげで、わたしは今……し、幸せ、よっ!」
「……」
「そ、それだけ言いたかったのよ!!」

 アニエス様は顔を真っ赤にしながら私から身体を離すとそう言った。

「アニエス様……」
「さ、さあ!  あ、後は思う存分、好きなだけ食べて食べて食べまくってコロッコロになるといいわ!」
「……コロッコロ」
「コ、コロールとは呼んであげませんけどねっ!」

 アニエス様はそう言って逃げるように去って行った。

(耳まで真っ赤ですわ~)

 私がフフッと微笑んでいると、お皿を抱えたリシャール様が戻って来る。

「フルール、戻ったよ」
「おかえりなさいませ、旦那様!」

 さすが、リシャール様。
 今日も私の大好物がてんこ盛りですわ!

「フルール?  本日の主役がすごい勢いで走り去っていったけど?」
「はい!  やっぱりアニエス様はとっても可愛いですわ!」
「……」

 満面の笑みで答える私に向かってリシャール様もククッと笑う。

「不思議なんだよなぁ。これまでフルールに絡んで消された人間は老若男女身分問わず沢山いるのに……」
「?」
「彼女だけ生き残ってる……」
「旦那様?」

 リシャール様は、ハハハッと笑いながら持って来た料理を私の口へと運ぶ。
 私はあーんと口を開けた。

(美味しいですわ~)

「なんだかんだで最初から彼女はフルールのことが好きだったんだろうなぁ……」

(私も大好きですわ~)

「モテモテなんだよなぁ……無自覚の人たらし?」

 モグモグしながら、にこにこしているとリシャール様と私の目が合う。
 リシャール様は優しく微笑んで言った。

「あの日───捨てられた僕を拾ってくれた可愛い可愛い奥さんは、やっぱり“最強”だよ」

 ───当然ですわ!
 そんな思いを込めて私もにっこり微笑み返した。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...