王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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348. デートに出かけたら

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「テオ!  ハイハイ!  いっくよ!」
「あっうぁ~!」

 パタパタパタパタ……
 ペタペタペタペタ……

 ミレーヌの掛け声にテオフィルが元気よくお返事。
 そして、二人は仲良く廊下を走っていく。

「お嬢様~、お坊ちゃま~」
「お待ちくださーーい」

 そして、そんな二人の後ろをドタバタと追いかけていく使用人たちの声。

(今日も平和ですわ~~)

 そんな日課となった皆の声を部屋でのんびり午後のお茶を満喫しながら聞いていた私はリシャール様に笑いかける。

「旦那様!  今日もミレーヌちゃんとテオくんは元気いっぱいですわ!」
「うん、そうだね。ついでに使用人たちも、ね」
「ふっふっふ。とてもいいことですわ~」

 皆、元気!  に満足した私はニンマリ笑う。

「こうして子どもたちはどんどん大きくなっていくんですのね?」
「うん。今はまだハイハイだけど、きっとあっという間にテオも立って歩いて…………走って……」

 そこで何故かリシャール様が黙り込む。

「旦那様?」
「いや……時が経つのは早いなと思ってさ」
「そうですわね」
「まだまだ自分は若いつもりだけど、こうして子どもの成長を見守りながら、僕らもあっという間に歳を重ねていくんだろうなって」

 リシャール様のその言葉に、おじいちゃんとおばあちゃんになってものんびりとこうして仲良くお茶をする自分たちの姿を想像した。

(リシャール様はおじいちゃんになってもキラキラ国宝ですわ~)

「フルール?」
「いえ、老後もこうして旦那様とのんびりお茶を飲んで過ごす姿を想像していましたの」
「老後?  一気に飛んだね?」

 リシャール様がクククっッと笑う。

「ですが、国宝に全く衰えはありませんでしたわ」
「無いの!?」
「ええ。変わらず眩しかったです。旦那様はどれだけ歳を重ねておじいちゃんになられても揺るぎません!」
「ははは、ありがとう。それじゃ、フルールは最強の可愛いおばあちゃん?」
「当然ですわ!」

 私も笑い返してえっへんと胸を張る。

「それは、とっても楽しみだ」
「!」

 そう言って微笑みながらリシャール様が私の頬に手を伸ばした。
 私の胸がドキンと跳ねる。

(リ、リシャール様……!)

「……フルール」
「リシャ……」

 そして、麗しのお顔がそっと近付いて来たので目を瞑ろうとしたその時。
 バーンと部屋の扉が開く。

「「っっ!?」」

 その音に顔を近づけていた私たちは慌てて離れる。

「おとーたま!  おかーたま!  たーいまあ!」
「あっうぁ~!!」
「ミレーヌちゃん!  テオくん!」

 何とも絶妙なタイミングで可愛い子どもたちがキャッキャと笑いながら部屋へと戻って来た。
 私はコホンッと軽く咳払いをしてから二人に声をかける。

「追いかけっこは楽しかった?」
「あい!」
「あう!」

 二人はニパッと可愛くお揃いで笑って頷いた。
 どうやら、追いかけっこは大満足で終えた様子。

「あー……───二人のこの満足そうな顔…………僕は使用人の回収に行ってくるか」

 リシャール様が苦笑しながら席を立つ。
 確かに。
 今頃、廊下は二人を追いかけ続けていた使用人たちによる屍の山が出来ているに違いないですわ。
 そんな部屋を出ていこうとするリシャール様にミレーヌがどこ行くの?  と寂しそうな顔で声をかける。

「おとーたま~……?」
「うっ!」

 振り返ったリシャール様はかがんで目線を合わせるとミレーヌの頭を優しく撫でた。

「ミレーヌ。僕はちょっと皆を起こしてくるから、フルールとテオと一緒に待っていてくれるかな?  そのあと一緒に遊ぼう」
「あい!」

 ミレーヌはとってもいい笑顔で頷いた。

「テオ!  テオもいい子で待っててくれるかな?」
「う!」

 続けてテオフィルもニパッと笑う。

「ん、いい子たちだ!  じゃ、行ってくる。───フルール」

 そうして微笑んだリシャール様の国宝級笑顔に私の胸がキュンとなる。 

(今日も夫がかっこいいですわ~~!)

 思わずテーブルをバンバン叩きたくなるほど私は悶えた。
 そしてリシャール様を笑顔で見送ったあと、私はそっとミレーヌの頭を撫でる。

「ミレーヌちゃんはお父様のことが大好きね?」
「あい!  おとーたま、おかーたま、テオ、だ~ちゅき~!」
「まあ!  ミレーヌちゃん、ありがとう!」

(今日も娘が可愛いですわ~~!)

 感激した私はミレーヌをギュッと抱きしめる。
 すると、それを見ていたテオフィルもあぅあぅと訴えてくる。
 これは、ボクも!  と言っているに違いありません!

「テオくんもおいでですわ!」
「うっあぅあ~」

 声をかけると満面の笑顔を浮かべて高速でハイハイでタックルして来たテオフィル。

(息子も可愛いですわ~~!)



 そんな相変わらず、可愛い子供たちと毎日をほのぼの楽しく過ごしている私とリシャール様。
 でも、時には夫婦の二人だけの時間も大切にして過ごすことにしている。



「ミレーヌちゃん!  テオくん!  今日はこれからお父様とお母様はデートをして来ますわ!」
「でえと?」
「う?」

 きょとんとした顔で二人が私たちを見上げる。
 今日も最高に可愛い二人ですわ~

「そう。デートです!」
「でえと」
「でぇ~?」

 私は不思議そうな顔をする二人に向かってニンマリ笑う。

「残念ながら、まだまだベビーの二人には早いわね。デートとは特別大好きな人と二人でお出かけをすることですのよ」
「とくえつ……?」
「あうあう?」
「そう!  特別大好き!  ですわ」
「あい!」
「う!」

 二人は分かった!  とばかりに大きく頷く。
 グズらないし泣かない……なんて物分りのいい子たちなのかしら?
 さすが私たちの子ですわ。

「それでは、ミレーヌちゃんとテオくんのことをお願いしますわね!」

 私は後ろに控えるモンタニエ公爵家の使用人たちに後を託す。
 彼らは、身体を鍛えて鍛えて鍛えまくって最高のコンディションで今日という日を迎えてくれている。
 数時間なら耐えてみせます!  お任せ下さい!  と強く胸を張ってくれた。

(頼もしいですわ~)

「──ミレーヌちゃん!  テオくんをお願いしますわね?」
「あい!」
「テオくん!  ミレーヌちゃんの言うことを聞いて、いい子でお留守番ですわよ?」
「あう!」

 最後に二人にもにもしっかりといい子でお留守番するようにと言いつけるのも忘れない。

(これでバッチリですわ!)
  

────


「……前々から思っていたけど」
「旦那様?」

 馬車に乗り込み出発するとリシャール様がポツリと呟いた。

「ミレーヌもテオも恐ろしいくらい物分りがいいよね?」
「ええ!  さすが私たちの子です!」

 私が満面の笑顔で相槌を打つとリシャール様がクスリと笑う。
 そして何故かそのまま頭を撫でられた。

「どうしましたの?」
「いや、やっぱり僕の奥さん───フルールは可愛いなぁと思ってさ」
「……旦那様───リシャール様も素敵ですわ?」
「……」
「……」

 見つめ合った私たちはふふっと笑い合う。

「えっと、それで今日のデートは観劇、なんだよね?」
「そうですわ」
「まさか、フルールの愛読書が劇になるとは。聞いた時は驚いたよ」
「私もですわ」

 そう。
 なんと……あの私の大好きな愛読書の一つ、
『悪女は今日も愉快に嘲笑う』
 現在、こちらが劇となって絶賛上演中。

「やはり、ファンとしては崖での高笑いを一度は見ておかなくてはなりません。今後の参考にもしたいですし」
「ははは、参考にするんだ?」
「最強を目指す者として当然ですわ!」

 私はえっへんと胸を張る。

「ちなみに、同士のアニエス様は陛下にヴィクトルくんの面倒をお願いして、ナタナエル様とすでに三度も見に行ったそうです」
「陛下に!?」

 リシャール様がギョッとした。
 子どもを預けた先が陛下───さすが私の大親友アニエス様です。

「初孫にデレデレの陛下は、喜んで引き受けたそうですわよ~」
「公務しようよ……」
「と、いうことで、あのアニエス様が大興奮!  つまり劇は面白いこと間違いなしですわ~!」
「……」

 私が満面の笑みでそう言ったら、リシャール様は優しく笑ってまた頭を撫でてくれた。




「うーん。まだ、上演開始まで少し時間がありますわね?」
「だね。それにしても凄い人だ」

 会場に着いた私たち。
 馬車を降りるとリシャール様はキョロキョロ辺りを見回してそう言った。
 確かに人が多い。

「世間では今、悪女が大人気なんですって」
「へぇ………………まさかとは思ったけど本当に来たんだなぁ、悪女ブーム……」
「?」

 リシャール様の頬が何故かヒクヒクしている。

(どうしたのかしら?)

 少し不思議に思ったけれど私はそのまま話を続けた。

「昔、私がしたような縦ロールの髪型も流行っているそうですわ」
「縦ロール……あの可愛かった悪役夫人!」

 リシャール様が懐かしそうに笑う。

「あの時も言いましたけど、悪役夫人に可愛いは不要ですわよ?」
「仕方ないよ、フルールは何していても可愛いんだからさ」
「……っ!」

 ここで、リシャール様が国宝級の笑みを浮かべてそんなことを口にする。
 この笑顔は反則ですわ!

「あの時のフルール、ノリノリだったよね」
「ええ、悪役夫人フルール……また機会があればやりたいところです」
「ははは。ミレーヌなら嬉々としてクルクルの髪~とか言って真似しそうじゃない?」
「ミレーヌちゃん、似合いそうですわ~」

 そんな想像話と懐かしい思い出話に花を咲かせながら、私たちは用意された席に向かおうと歩き出した。
 しかし……

 ドンッ

「きゃっ!?」

 向こうから早足でやって来た人と身体がぶつかってしまった。
 ぶつかった相手がドシンッとその場に尻もちをつく。

「失礼しました、大丈夫ですか!?」
「痛ってぇ……」

(……ん?)

 私はその倒れ込んだ人の声を聞いて首を傾げる。

(この声、どこかで……?)

 何故かそんな既視感を覚えた。
 でも誰なのかすぐには思い出せない。

「───フルール!  大丈夫!?」
「旦那様!  ……ええ。私は……」

 リシャール様に、私は大丈夫です───と、言いかけて私は倒れ込んだ人にチラッと視線を向ける。

 ぶつかってしまった相手は男性。
 俯いているので顔は見えない。
 また、あまり身なりが良いとは言えず、ふぅと吹けばすぐにふっ飛びそうなほどげっそり痩せている。

(うーん?  やっぱりどこかで……)

「……っ!?  な、なに!?  フルールだと!?」
「え?」
「まさか、お、おおお前…………あ、あのフルール、なのかっ!!」
「?」

(あの、フルール?)

 そのげっそり男がガバッと顔を上げてそう叫んだ。
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