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5. わたくしの縁談

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「酷いですわ!  いくら何でもこれは有り得ませんわぁぁぁーーーー」

  自慢の侯爵家の広ーいお屋敷中にわたくしの叫び声が響き渡りました。

「ミュゼット!  何故そんな大声を出すのだ!?」
「お、お、お父様には分かりませんの!?」

  わたくしのこの叫び声を聞いても、お父様には全くわたくしの気持ちがご理解頂けていないようで首を傾げておりますわ……

  (な、なんて事なの!)

 仕方が無いので、わたくしは説明をしようと思い釣書の1番上にいた方を指し示しながら言う。

「お父様、まずこちらのガイール侯爵ですけれども」
「おぉ!  第一候補だな?  彼は侯爵家の当主だからな。我が家とも釣り合いはバッチリで、今来ている縁談の中でも一番の身分だぞ!」
「……第一候補。この方が」

  その言葉を聞いたわたくしは、お父様に向かって大変冷ややかな目を向けます。

「そうですわね……家格の釣り合いはとれましょう……ですが!」
「何だ?」
「ねぇ、お父様。ガイール侯爵は何歳ですの?」
「ん?  御歳、75歳になられたばかりだぞ!」

  お父様はとてもとてもいい笑顔で答えます。わたくしは思わず叫んでしまいましたわ。

「これでは、おじい様と孫でしょぉぉう!?」

  ……ぶぉーん!
  ほら、縦ロールも大きな音を立てて揺れてくれましたわ!
  それはどうなんですの!?  と主張してくれていますのね。

「何だと?」
「75歳ですわよぉぉ!?」
  
  そうですわよ!  跡継ぎだってどうするんですの!?
  え、そのお歳でお励みになるの??  だ、大丈夫なんですの?
  ……わ、わたくしには分かりません!

「だが、ガイール侯爵は跡継ぎがもう決まっているしな」
「あ……では前にご結婚を?」

  わたくしのその言葉にお父様は首を横に振ります。

「いや。ガイール侯爵に結婚歴は無いが、昔、遊びで手を出した女性との子を跡継ぎにするために、と養子にしたそうだからな」
「!!」

  (な、何かしら、わたくしの本能が全力で言っていますわ……これは関わってはいけない、と)

  そんな複雑な事情のありそうなお家に嫁いだら“何か”に巻き込まれてしまうぞ!  と。

  (わ、わたくしは自分の本能を信じますわーー!!)

「お、お父様!  わたくしも、じ、自分の子供が欲しいですし、その、で、出来ればもう少しお若い方が……」
「ふむ、そうか。ならこっちはどうだ?」

  そう言ってお父様は、少し渋いお顔をして次に指し示して来たお相手は、伯爵家の方。この方は嫡男ではあるものの年齢はお父様と変わりません。
 
  (この方って、当主にするには問題が……と言われていて、長い間、跡を継げず嫡男のままというお話!)

「ほ、他の方は……」
「ん?  気に入らないか?  そうなると……」

  お父様!  よくご覧になって!?
  皆、どこかしらに問題があると耳にした事のある方ばかりではありませんか!!

「お父様……まさかとは思いますけれど、わたくしに来ている縁談というのはー……」
「皆、このような年齢だったり、そうだな過去に結婚に失敗していたりとする者だったりするが?」
「ダメダメではないですのーーーー!!」

  思わずわたくしはそう叫びます。
  ぶぉーーん!
  ほら、ご覧なさいな?  縦ロールも荒ぶっておりますわよ。

「うわっ!  危なっ!  な、何を言っているんだミュゼット……結婚なんてそんなものだろう?」
「……!」

  お父様のその言葉に強い衝撃を受けましたわ。
  だって、政略結婚だと思えばそれは当たり前ですもの。
  我が家には嫡男となるお兄様がいるので、わたくしが婿をとる必要はありませんし? 
  ですから、わたくしは我が家にとって有益な家に嫁ぐ……

  (ガイール侯爵が第一候補という事は、わたくしが子を産むことよりも欲しい繋がりがあるのかもしれませんわね……) 

  それでも、わたくしは……わたくしは思ってしまったの……

  あの、王太子殿下とリスティ様みたいに……
  いえ!
  あそこまで全力でイチャイチャは無くてもよろしいですけれども、互いを想い合えるようなお相手がいいな、と!

  (あぁ、わたくしったら、なんて事を!!)

「ミュゼット?  どうしたんだ?  突然、顔色が悪くなったが……」
「…………」
「とりあえず、今のところ縁談はこんなものだ。どれを選んでも我が家にとって損は無い!  この中からゆっくり選ぶといい。さぁ、部屋に戻って休め」
「…………」

  そのままわたくしは何も言えずにトボトボと自分の部屋に戻りましたわ。
  不思議ですわね?
  元気の無くなったわたくしの心と同じように、いつもなら、ぶぉんという音を立てている縦ロールも……そうですわね。どこか、ふぉんふぉんしていますわ。

  (縦ロールがこうして元気が無くなってしまうくらい、わたくしは落ち込んでいるのかしら……)




  翌日になっても、わたくしの気持ちは全く晴れません。
  おかげで今日の縦ロールは侍女が頑張ってくれましたが、いつもより一巻分少ないし、ふぉんふおんしてますわ。

「お、お嬢様……私共の力及ばずで申し訳ございません!」と謝られたけれど、そんな日もありますわよね。 



  ──そんなわたくしの縦ロールのいつもとの違いに真っ先に気付いてくださったのが、

「なぁ、今日の君の髪は……どこか元気が無いんだな」
「っ!」

  ──ラファエル様だなんて、これはなんの皮肉ですの!?

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