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6. 分かりにくい優しさ

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「……え!」

  その言葉にわたくしは驚いてしまい、うまく言葉が返せません。
  ラファエル様はわたくしのそんな様子に、気づいていらっしゃるのかそうでないのか分かりませんが話を続けます。

「勢いが足りない」
「!」

  そうなのです!!
  と、叫びたくなりましたわ。

「こう、なんて言うのだろうか……いつもなら、こう人を攻撃……じゃない、まるで迫って来るような……いや、それもな……とにかく勢いがある!」
「……」

  何だかごちゃごちゃ仰っているのでよく分かりませんが、やはりこの方はわたくしの縦ロールの違いに気付いている様子。

「……どうして、分かるんですの?」

  ようやく口から出たのはそんな言葉でしたわ。
  ですが、わたくしのその質問にラファエル様はうーんと渋いお顔をして首を傾げられました。

「どうしてかな?  自分ではよく分からない」
「それでもラファエル殿下はお気付きになるのですね」
「むしろ、どうして他の人は気付かない?」

  ラファエル様はまたしてもうーんと悩まれる。
  その後、じっと私の事を見つめて小さく呟かれました。

「何があったかは知らないが、ミュゼット嬢はいつもの様に元気な方がいいなぁ」
「っ!  な、な、な、な、何を!」

  わたくしは動揺してしまいました。
  本当に本当にこの方は何なのでしょうか!

「あぁ、そうか。俺は案外、毎日その奇っ怪な……いや、ミュゼット嬢のきけ……弾むように元気なその髪を見るのを楽しんでいたのかもしれない」
「……は?」

  楽しむ……?  人の髪を見て楽しむとは??
  本当にこの方の趣味が分かりませんわ!

「君が元気が無いと調子が狂う」
「!」

  ラファエル様はそう口にするなり、本日の一巻分は少ない縦ロールをそっと手に取りました。

  (し、心臓が……!  今にも破裂して飛び出して来そうな程、ドキドキしていますわ!!)

  どうして、わたくしの心臓はこの方といるとおかしくなるんですの? 
  
「思っていた程の硬さじゃないな……いや、これは今日だけか……?」
「……ラファエル殿下。それは髪の毛ですわよ?  硬いという表現はどうかと思われますわ」

  わたくしの大事な大事な縦ロールを手に取り、握ったり広げたりしながらそんな事を口にされたラファエル様にムッとして言い返します。

「い、いや、すまない。別にバカにしたわけでは無い!」
「……」
「た、頼むからそんな目で見ないでくれ!」
「…………ふっ、ふふ」
「ミュゼット嬢?」

  そう仰いながらどこか慌てる様子のラファエル様が可笑しくて、わたくしは思わず吹き出してしまいます。
  すると、ラファエル様はまた、わたくしの頭に手を伸ばし頭をポンポンと……

  (あぁぁぁ、もう!  これ恥ずかしいですわ!  無理ですわぁぁ)

  このようにわたくしが内心で荒ぶっておりましたら、

「しおらしいミュゼット嬢も可愛いけど、いつもの縦ロールを振り回すミュゼット嬢の方が好きだなぁ……面白くて。見ていて楽しい」

  と、失礼な事を仰います。

「ラファエル殿下、聞こえていましてよ?」
「あ、あはは!  すまない、すまない。つい本音が」
「ほ、本音っっ!!」

  わたくしがキッと睨むとラファエル様はますます可笑しそうに笑う。

   (本当にこの方は───!!)

「でも、うん、良かった。いつものミュゼット嬢のようになって来た」
「っっ!」
  
  その言葉にわたくしは思ってしまう。
  まさか、わたくしを怒らせて元気にさせる為にわざとこんな言い方をしたのではなくて?  と。

  (いえ、まさかね……この方はわたくしをからかっているだけですわ!)

  と、必死に自分に言い聞かせます。
  だって、そうでないとわたくしの心の中に何かおかしなものが生まれてしまいそうなんですもの。
  ですから、わたくしは必死にその“何か”を押さえ込もうと思いましたの。

  (だって、また選ばれないのは悲しい)

  それに、ラファエル様は隣国の王子様ですわ。
  留学の為にこの国にいるだけで、学園を卒業すれば国に帰ってしまう方。
  わたくしと今後、関わる事など無い。本当はとても遠い方。

  (どうして、寂しいなんて思ってしまうのかしらね……)

  これ以上考えると頭が爆発してしまいそうでしたので、わたくしは話を切り上げることにします。

「そ、そんな事よりもうすぐ授業が始まりますわよ!  わたくし、遅刻したくないのでもう失礼しますわ!」
「え?  まだ時間は……」

  ラファエル様の戸惑いが伝わって来ます。
  えぇ、本当はまだ、時間はありますわね。

「いいえ、時間が無いと言ったら無いんですのよ!  それではお先に失礼いたしますわ!」
「え!?  ちょっ、ミュゼット嬢!?」

  わたくしはそう言い切って…………逃げる事に致しました。






  ちなみにですが、この日のわたくしの髪を見て……

「ルー様!  大変です!」

  リスティ様は殿下に必死な顔でそう呼び掛け、

「どうした、リスティ?」
「ミュゼット様の髪が!  髪が違います!  いつもと違うのです」
「また……?  で、違うとは?  “ふよふよ”してるのか?」
「いいえ!  ふぉんふぉんです!」 
「ふぉんふぉん…………リスティ。すまないが、私にはその違いが分からない」
「えぇ!?  分からないのですか!?」

  王太子殿下はリスティ様の言葉にしばらく頭を抱えていたとか。


  この時のわたくしは、あのイチャイチャカップルがそんな会話をしていた事など全く知りませんでしたわ。

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