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18. 誤解を解きましょう

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「う、浮気者!?  俺がか?」
「そうですわよーー!!」

  ぶぉーーん!
  ベチッ!

  わたくしの縦ロールがラファエル様へと攻撃を開始しました。
  鼻血事件の件があるせいか、お顔を避けて……ですけども。
  
「いっ!  待て待て待て!  何でそうなる?」
「ラファエル殿下はゆるふわがお好きなはずですわ!  縦ロールのわたくしは浮気相手なのでしょう!?  ですから妃の話も……」

  ぶぉん、ぶぉんぶぉんぶぉんぶぉん!
  縦ロールも攻撃をやめません!

「くっ!  じ、地味に痛いぞ……?  それよりも、ゆるふわ?  浮気?  とはどういう意味だ、ミュゼット!」

  ラファエル様はわたくしの両肩に手を置いて揺さぶるようにして訊ねて来ます。

「だ、だって……」
「!!  ミュゼット!?」

  ラファエル様がぎょっとした顔で慌て出します。
  それもそのはず。私の目からはポロポロと涙が溢れてきましたから。

「わたくしを愛してると言ってくれましたが、その相手はわたくしだけでは無いのでしょう……?」
「はぁ!?」
「縦ロールも愛してると仰いましたが、これまではゆるふわをずっと愛でて来たのでしょう……?」
「いや、だからゆるふわって」
「正妃は既に決まっているから、わたくしは側妃として望まれているのでしょう……?」
「正妃?  側妃!?」

  ラファエル様はわたくしの言葉に目を丸くして驚いている様子ですが、その間も目から溢れる涙は止まってくれそうにありません。

「ミュゼット……泣かないでくれ」
「……」

  そう言ってラファエル様は、わたくしの涙を拭いながらもう一度抱きしめてきます。

「俺はミュゼットの事が好きで愛してる。そう告げたばかりなのに何故そこに自分だけじゃない、という話が出てくるんだ?」
「……アマンダ様がいっしゃるからです」
「……?  ならば、ずっとゆるふわを愛でてたって何だ?」
「それも、アマンダ様の事です。アマンダ様の髪はゆるふわですもの」
「ゆる?  ……側妃ってなんだ?」
「アマンダ様が正妃になられるからです」
「~~!!」

  わたくしが答える度にラファエル様の顔色がどんどん悪くなっていきます。
  そして、最後は頭を抱えました。

「わ、わたくしは!  側妃なんて嫌なのです!  難しいと分かっていてもわたくしだけを愛してくれる人とー…………」

  ──その先は言葉になりませんでした。

「……っ!」

  ラファエル様がご自身の唇でわたくしの唇を塞いでしまわれたからで……
  そう!  口付け……というやつですわ!!

  ……ぶわぁぁ!

  縦ロールも初めての事に今までに聞いたことの無い音を立てております。

  (な、な、何故!?  ラファエル様は何をして!)

  内心で大暴れしているうちに、ラファエル様は、チュッと音を立てながら唇を離しました。

「…………っ、何をするんですのーーー!?」
「いっ!」

  ベチッという縦ロールの攻撃音と共にわたくしは怒鳴ります。

「何って……これくらいしないとミュゼットには伝わらないからだよ」
「何をですの……」
「俺が愛してるのは誰なのか、妃に望んでるのは誰なのか──いいか?  俺がこんな事をするのはミュゼットだけだ!」

  ラファエル様は真っ直ぐな真剣な瞳でわたくしを見つめながらそうハッキリと口にされます。

「そもそも!  どうして全部、アマンダが絡んでくるんだ!?」
「アマンダ様が仰いました……ラファエル殿下と自分は結婚するのだと、わたくしはラファエル殿下がこの国にいる間の浮気相手に過ぎないのだと」
「……それで“浮気者”か」
 
  ……ゾクッ!

  再び、ラファエル様の周りの温度が下がった気がします。

「側妃と言い出したのもそのせいか?」
「アマンダ様と婚約されてるなら彼女が正妃でしょう?」
「…………」

  ラファエル様は小さな声で「それか……」と呟いた後、長ーーーいため息を吐かれました。

「………………おい、ジェイン」
「……っ!  はっ!」
「?」

  ラファエル様は少しの沈黙の後、教室の端で置物のように静かに佇んでいた男性に声をかけました。
  わたくしはここでようやく彼の存在を思い出しましたわ。

「……っっっ!」

  (はっ!  ここまでの、やり取りを全て見られて……いた、ですって!?)

  さ、先程の口付けも見られ……!?
  ボンッと私の顔が羞恥でまた赤くなります。

  ぶぉん、ぶぉん……

「……えー、あー……コホンッ。ミュゼット様に置かれましては……」
「前置きはいい!  必要なことだけ話せ!」
「……承知しました」

  ジェイン様は深々頭を下げると何やら説明を始めましたわ。

「ミュゼット様はまず、根本的に勘違いをされています」
「……え?」
「アマンダ様は殿下の婚約者などではありませんよ」
「……!」
「私も含めた殿下の幼馴染の一人に過ぎません」

  その言葉にわたくしはラファエル様の方に視線を向けると彼は静かに頷きましたわ。

「ちなみに愛した事も無い」
「……愛して……ない?」
「あぁ。だから初めから“側妃”なんて立場は考えられていない。俺の妃は、俺の望む妃はミュゼット一人だけだよ」

  ──チュッ

「!!」

  ラファエル様が、わたくしの頬にキスを落としながらそう仰いました。

  (全部、アマンダ様の嘘?  ラファエル様は初めからわたくしだけを……?)

  驚きながらラファエル様の顔を見つめると彼は優しく微笑みます。
  ですから、その顔はいけません!  胸のドキドキが止まらなくなるんですのよ!!

  ───いえ、待って?
  それなら、ずっと愛でていたらしい“マンディー”は?  どこの誰ですの?
  
「ゆるふわ……」

  わたくしがその言葉を口にするとラファエル様が不思議そうな顔をして訊ねて来ます。

「さっきも気になったが、ゆるふわって何だ?」
「……っ」
「それは、私も気になりましたねぇ」

  ジェイン様も不思議そうに口を挟んできましたわ!
  わたくしもここまで来たら聞かずにはいられません。
  この方も“マンディー”と口にしておりましたもの。

「ゆるふわは、ゆるふわですわよ、アマンダ様のように、なよなよ……いえ、フワフワした髪の事ですわ」
「また、アマンダか……」

  ラファエル様が顔を顰められます。

「だが、俺はアマンダの髪に興味は無いぞ」
「!」
「好きでもない女の髪に興味など無いからな」

  ミュゼットの縦ロールほどのインパクトも無いだろう?  などと仰います。
  そこまで言われてしまったら、説明してもらわなくてはなりません。

「……でしたら、マンディー……マンディーとはどこの誰ですの!?  アマンダ様の事では無かったのですか!?」
「は?」
「え?」

  わたくしの叫びに、ラファエル様とジェイン様はとても不思議そうな表情を浮かべました。

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