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19. “マンディー”の正体

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「どこの誰って……」

  わたくしには、何故二人がそんな顔をするのか分かりません。
  ですから、二人に視線を向けながら続けます。

「ラファエル殿下が言ったのです、わたくしの髪を触りながら手触りや巻き具合が違う、と。あれはアマンダ様の髪の事では無かったのですか?」 

  わたくしがそう訊ねると、ラファエル様は心の底から嫌そうな顔をされました。

  (な、なんてお顔をしますの?)

「どうして俺がアマンダの髪を触る必要があるんだよ」
「そ、それは……」

  ラファエル様が口にされたように、アマンダ様は婚約者でも何でもないただの幼馴染に過ぎず、ラファエル様も彼女を愛していないと言うのなら、
  触らないですわよね……

「……ミュゼット様、マンディー様は殿下の飼われてる犬ですよ」 

  ジェイン様が横から説明をしてくれました。
  な、何ですって!?

「い、犬?」 
「そうです。犬の名前です。殿下はとにかくマンディー様を撫でるのが昔から大好きでして。公務もそっちのけでよくマンディー様を愛でておりました」
「……何でバラすんだ! 公務の事は悪かったよ!  でも、マンディーのあのクルクルの毛並みが気持ちいいんだから仕方ないだろ?」 

  ラファエル様がムキになって言い返します。

「しかも、マンディー様も殿下に撫でられるのが大好きでしてね、他の人間には懐いてくれなくて大変なのですよ。特に留学される時は大変でした」 

  ジェイン様がとても遠い目をしていますわ。
  これは間違いなく一悶着ありましたわね。
 
「国からは今も俺を恋しがっていて世話が大変だ、という手紙が山のように来ているしな」
「……」

  ……犬ですって!?
  わ、わたくしはあんなに悩んだのに……
  マンディー様は、クルクルの毛並みの手触りの良さそうな犬、でしたの? 
  
  (う、浮気者ではなかった……?)

  へなへなと、わたくしはラファエル様の腕の中で力が抜けて崩れ落ちそうになります。
  ふぉん……   
  同時に縦ロールも勢いを無くしました。

「ミュゼット!」
  
  へなへなのふにゃふにゃになったわたくしをラファエル様が抱き抱えるようにして支えてくれます。

「どうした?  急に縦ロールも勢いが無くなったが……」
「マンディー様……」
「うん、マンディーは可愛いぞ。嫉妬深いからミュゼットに喧嘩を売る可能性が高いのがとても心配だが」
「……」

  何故でしょう?
  ラファエル様はわたくしとマンディー様が顔を合わせること前提でお話されていますわ。

「ん?  だってマンディーの事がアマンダじゃないと分かったのなら、もう俺を拒む理由はどこにも無いだろう?」
「!?」

  ぶぉん!?

  縦ロールと共に驚き固まったわたくしに向かってラファエル様は、にっこりと笑ってそんな事を仰います。

「だからミュゼット……俺の事を好きだと認めてくれ」
「……っ!」
「そして、卒業したら俺と一緒に来てくれ」
「っ!」

  ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん!

  言葉を失ったわたくしとは対称的に、何故か縦ロールは元気を取り戻し勢いよく揺れていますわ。

「そうか。来てくれるのか!  ありがとう」
「!?」

  ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん!

「あぁ、分かってる。ミュゼット……他の女性なんて必要無い。生涯、君だけだと誓うよ」
「!?!?」

  ギュッ
  そのお言葉と共にラファエル様のわたくしを抱きしめる力が強くなります。

  ぶぉーん、ぶぉん、ぶぉーん!

「そうか。そんなに嬉しいと思ってもらえるなら俺も嬉しいよ」

  ───えぇぇ!?  ちょっとお待ちになってぇぇぇ!?
  わたくしは何も口にしていないのに、ラファエル様……縦ロールと会話してません!?
  そして、勝手に話が進んでますわよぉぉ!?

「あぁ、そうだな、ミュゼット。俺も君が好きだよ、愛してる」
「~~っっ!!」
  
  ぶぉん! ぶぉん!

「ははは、本当に可愛いなぁ。しかし、縦ロールはこんなに素直に俺の事を好きだと言っているのに、この可愛い口は未だに好きと言ってくれない……」

  ラファエル様は少し悲しげにそんな事を言いながら、わたくしの唇に指で触れそっと撫でていきます。

  ドキッと胸が跳ねました。

  (な、何て事を!?)

  ぶぉ~ん!

「ミュゼットのそんなところも勿論大好きだが、なかなか素直になってくれない罰として……この可愛い口は塞いでしまおう」
「!?!?」

  そう言ったラファエル様は、わたくしの顎に手をかけて上を向かせると、そのままわたくしの唇にそっと自分の唇を───



  ……チュッ

  (い、一度ならず二度までもーー!!)

  ぶぉん!  ぶぉん!  ぶぉ~~~ん!

「……はは、歓喜の舞だな。良かった」
「違っ…………あっ!  んんっ」

  一旦、唇を離したラファエル様がそう仰ったので、わたくしは反論しようとしたのに、彼はすかさずもう一度わたくしの口を塞いでしまいます。
  しかも、今度は軽く触れるものではなく覆い被さるようにしてガッツリと…………

  ぶぉん!  ぶぉん!  ぶぉぉ~~~ん!

  一段と縦ロールが弾んだような気が致しました。




  



  わたくしがラファエル様に口付けされて翻弄されている様子を見ていたジェイン様は……

「歓喜の舞……?  私にはどれも縦ロールがただただ荒ぶっているようにしか見えませんよ……そもそも何で会話が出来るのか……」

  と、縦ロールと会話をするラファエル様の事を嘆き、

「それと、何でさっきから私がいるのに自重してくれないんですか……私は何を見せられている……?」

  と、途方に暮れていたという。


  この時のわたくしは、モヤモヤしていた事が解決し、いつまでも終わらない口付けと、合間に囁かれる甘い甘い言葉にひたすら翻弄されて、アマンダ様の事がすっかりと頭から抜け落ちてしまっておりました。

  えぇ、すっかりと!

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