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24. “イチャイチャ”というやつですわ!
しおりを挟む「ミュゼット。ラファエル殿下とは、その……上手くやってるか?」
「お兄様?」
この度、突然、お父様から爵位を受け継ぐ事になったお兄様が疲れ切った顔で訊ねて来ましたわ。
「上手く?」
「仲良くやってるか、だよ。頼むから殿下を怒らせるような事だけはしないでくれ」
「仲良く?」
ぶぉん……
「うぉ! 何だ? どうした? 急に荒ぶるなよ!?」
「……荒ぶる? 変なお兄様ですわね。わたくしはいつも通りですわよ?」
「……そ、そうか。お前は相変わらずだな」
お兄様のお顔が少し引き攣っているのは何故でしょう?
「ところでお兄様に聞いてみたい事があるのですが……」
「何だ?」
ちょうどよい機会なので、最近疑問に思っている事を聞いてみる事にしましたわ!
わたくしの顔が真剣だったせいでしょうか? お兄様のお顔も釣られて真剣なお顔に変わります。
「世の中の婚約者同士というのは、毎日片時も離れずに常に密着して過ごすものなんですの?」
「……はぁ? おい、ミュゼット? 何を言っている??」
わたくしの言葉にお兄様は目を丸くして驚き、気の抜けた返事が返って来ました……
「だって、ラファエル様が……」
「殿下が?」
ぶぉん、ぶぉん!
「いや、だから何でそこでお前のロールは荒ぶるんだ?」
「ですから、ラファエル様が……!」
「……待て! ラファエル殿下とお前はいったい普段から何して過ごしてるんだ?」
何して過ごしてると言われましても───……
─────……
「おはよう、ミュゼット」
「おはようございます、えっと、ラ、ラファエル……様」
ぶ、ぶぉん!
わたくしがそう答えると、ラファエル様はとても嬉しそうな笑顔になりました。
正式な婚約者になった後に
「……殿下、ではなく、名前で呼んで欲しい」と言われたからです。
心の中ではいつも“ラファエル様”と呼んでおりましたが、それを口にするとなると慣れなくてどこか照れてしまいますわね。
「朝からミュゼットが可愛い……」
「はい?」
「俺の名前を口にするだけで、その可愛らしい頬を赤く染め、縦ロールも照れている」
「!!」
……ぶぉん!?
「あ、朝から、な、何をおかしな事を仰っているのです!? わ、わたくしは、て、照れてなどおりませんわ!!」
ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん!
「ははは、そうかそうか。慣れてないからか」
「ひぇ!?」
ぶぉ、ぶぉ、ぶぉん!
どうしてラファエル様には、何もかもが筒抜けなんですの!?
と、ぐるぐる考えているわたくしをラファエル様がぎゅーーーっと抱きしめて来ます。
ついでに頬に口付けまで降ってきましたわ!!
「ラファエル……様!? ここは、きょ、教室ですわ!」
「授業開始前だから、可愛いミュゼットをこうして愛でていても何も問題は無い」
「い、いえ、皆様の目が……」
「気の所為だ」
「えぇ!?」
そう言ったラファエル様は、チュッチュと私の頬への口付けを止めようとはしません。
「~~!」
こんなにも視線を感じておりますのよ!?
だって、こ、これは、アレですわよね……?
えっと、ルフェルウス王太子殿下やリスティ様が毎日何処かしらで繰り広げているような“イチャイチャ”というやつでしょう!?
つ、ついにわたくしもその仲間入り……という事でしょう??
ぶぉっ!? ぶぉーん、ぶぉんぶぉん!
「ん? イチャイチャ? それはそうだが……そもそも、やってる事はそんなに前と変わっていないだろう?」
……ぶ、ぶぉん?
「ははは! 無自覚だったのか! 何を今更……皆の俺達を見る視線は前からイチャイチャしてるなぁ、だったと思うぞ?」
「!!」
ぶぉおぉん!!
「そんなに驚くか。俺がミュゼットを好きで、ミュゼットも俺を好きなんだから当然だろ?」
「ひゃっ!」
そんな事を言いながら口付けを止めたラファエル様は、今度はわたくしの頬をそっと撫でます。
その手付きから、わたくしへの愛情が溢れているのが伝わって来て胸が張り裂けそうですわ!
「くっ! なんて目をするんだ……あぁ、ここが教室で無ければ、今すぐミュゼットこの可愛い唇に……」
「!?」
ラファエル様は、顎に手をかけてわたくしの顔を上げさせ、ばっちり目が合うと、うっとりとした顔でとんでもない事を口にし始めましたわ!!
ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん!!
「わ、分かってるよ! ここではしない……だから、ペチペチ攻撃は止めてくれ!」
「~~!」
「ははは、うんうん。ミュゼットは何もかも可愛いけど、縦ロールの攻撃も可愛いなぁ」
「なっ!」
……ぶぉぉん!
─────……
「……といった感じで毎日毎日過ごしておりますが……これは、お兄様の言う上手く、仲良くでお間違いないでしょうか?」
ラファエル様は出来る限り片時もわたくしを離そうとしないんですもの。
「…………」
「お兄様?」
お兄様ったらどうされてしまったのでしょうか。
わたくしが話を終えたら何故か頭を抱え始めました。
そして、小さな声で呟きました。
「これがお前の……お前達の日常か……」
「?」
はっ!
ラファエル様は、わたくし達は“イチャイチャ”していると仰ったけれど、お兄様のこの落ち込みようは、まだイチャイチャが足りない……つまり、もっともっとラファエル様とは仲良くしなくてはいけない……そういう落ち込みですわね!?
ぶぉーーん!
(縦ロールもそうだ! と言ってますわ!)
「お兄様、分かりましたわ!」
「……何がだ?」
「イチャイチャですわ! なんて事……まだ全然足りてなかったのですね……」
「は?」
「わたくし、婚約者としてもっとラファエル様とイチャイチャして仲良くなってみせますわ!」
「!?!?」
ぶぉぉぉんっ!
まぁ! ご覧になってお兄様! わたくしの縦ロールもより一層の気合いが入りましたわよ!
「お、おい、ミュゼット……」
恥ずかしいし、やっぱり照れくさいですけど……わたくし頑張りますわ!!
「何だその訳のわからない方向の気合いの入れ方は……!」
「やりますわよぉーー!」
ぶぉーん!
「おい? 聞いてるのか!? ミュゼット! 頼むからこれ以上殿下を煽るなーー!」
もっと、仲良くする為にもイチャイチャするという使命に燃えていたわたくしは、そんなお兄様の叫びは全く耳には入りませんでした。
しかし。
そんなイチャイチャする事に、より一層の気合いを入れたのが良くなかったのでしょうか?
またしてもすっかり、わたくしの頭の中から存在が抜け落ちていたアマンダ様が、ある日、とても怖い顔をして私の元へとやって参りました。
応援ありがとうございます!
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