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25. ゆるふわ女の突撃
しおりを挟むその日は、朝からアマンダ様に詰め寄られましたわ。
「あなたねぇぇぇぇ!」
「!?」
アマンダ様は物凄く怖い顔で髪を振り乱してわたくしに迫って来ました。
ゆるふわ? が台無しですわ……
「毎日、毎日何なのよぉぉぉ!?」
「?」
言われている意味が分からずわたくしは首を傾げます。
「私のラフ様と毎日毎日イチャイチャしてんじゃないわよぉぉ! いい加減、私に返しなさいよぉぉ!!」
その言葉にはわたくしもカチンと来ます。
ぶぉん! と、縦ロールも怒ってますわよ!
「お言葉ですがラファエル様はわたくしのです! アマンダ様のではありません。訂正を求めますわ!」
「はぁ? ふざけないでよ! 私は認めない、認めてないわ!」
「……アマンダ様にわたくしとラファエル様の関係を認めてもらう必要性を全く感じません!」
何故、アマンダ様はこうもラファエル様の事をご自分のもののように言うのでしょうか?
わたくしにはさっぱり分かりません。
「煩いのよ! 毎日毎日イチャイチャイチャイチャ、あっちもこっちもイチャイチャイチャイチャ。悪役令嬢達がイチャイチャしまくるってなんなのよ!」
「……?」
アマンダ様はまた、悪役令嬢とか言ってますわ。
あと、なぜ複数なんですの?
本当に意味が分かりませんわね……
わたくしは、ふぅ、とため息をつきます。
「アマンダ様が何を仰っても、ラファエル様の婚約者はわたくしです」
「なら、さっさと、破棄しなさいよ!! そもそもその婚約は間違いなんだから」
「阿呆な事を言わないでくださいませ」
……ぶぉぉん
わたくしもいい加減、うっとおしくなって来ましたので縦ロールも不穏な様子を見せます。
「……っ! な、何よそのドリ……縦ロール……や、やる気?」
「お望みならば」
最近この縦ロールは攻撃する事を覚えましてよ?
「……っ!」
ぶぉ~~ん……
と、何処か怪しい動きを始めたわたくしの髪を見てアマンダ様がたじろぎます。
先程までの威勢のよさはどこへ……
「ふんっ! 覚えてなさい! これが最後通告よ! ここで手を引かなかった事をいつか後悔する事になるんだからねっ!」
そう言ってアマンダ様は逃げて行かれました。
「……後悔……と言われましても、ねぇ?」
……ぶぉん!
「わたくしはラファエル様とはもっとイチャイチャすると決めていますし……」
……ぶぉん、ぶぉん!
「ですわよねぇ……」
縦ロールとそんな会話をしておりましたら、
「ミュゼット!」
「ラファエル様?」
ラファエル様が駆け込んでいらっしゃいましたわ。
「ミュゼットがアマンダに呼び出されて絡まれてると聞いた……んだが?」
ラファエル様は辺りを見回しておかしいなという顔をされます。
「えぇ、ですが、おひとりで何やら色々と叫ぶだけ叫んで退散していかれましたわ」
「け、怪我は無いか?」
ラファエル様はとても心配そうに、わたくしの身体を隅々まで確認していかれます。
「大丈夫ですわ。とりあえず、縦ロールがやる気を見せたら怯んでましたので」
「縦ロールがやる気? そ、そうなのか……」
ラファエル様はこの言葉で少し安心されたようですが、それでも表情は硬いまま。
「もう邪魔で邪魔でしょうがないのでアマンダを隣国に送り返せないかと連絡しているところなんだが……」
「返答が思わしくないのですか?」
ラファエル様は困った顔で笑います。
「……昔からおかしな事ばかり口にしていたからな。アマンダの両親もほとほと困っていた。今回の留学で環境が変われば……と、少し期待もしたそうだが無駄だったと嘆いていた」
……つまり、留学する事で厄介払いが出来て喜んでいる可能性が高い……と。
これはお迎えは期待出来そうにありませんわね。
わたくしも内心でため息をつきます。
ふぉん……
「ミュゼット」
「?」
「縦ロールの元気が無い」
「そ、そんな事はありませんわ! いつも通りですわよ! ほら!」
……ふぉん
「いや、違う。勢いが足りないな」
ラファエル様はわたくしの縦ロールを手に取りながらそう仰います。
いったいラファエル様の目にはこの縦ロールがどう見えているのかしら?
「ミュゼットの縦ロールまで悩ますとは許せないな」
「ラファエル様……」
「ミュゼット……」
チュッ!
目が合った……そう思った時にはすでに遅く、ラファエル様は素早くわたくしの唇を奪います。
(ひ、人気の無い校舎の隅とは言っても、こ、こんな所で!!)
ぶぉぉーん!
「あ、元気になった!」
「っっっ!」
「そうか、そうか。俺がミュゼットに口付けると縦ロールも元気になるのか!」
ぶぉん、ぶぉん!
「ん? もっとしてくれ? ははは、ミュゼットは照れ屋さんのくせに大胆だな!」
ぶぉんぶぉんぶぉん!
「そうか! それは期待に応えないとなー……」
「!?!?」
そうして、再びラファエル様の顔が近付いて来て───……
ラファエル様は予鈴が鳴るまでわたくしを離してはくれませんでした。
それから数日後。
その日、先生への用事を済ませて教室へ戻る途中、近道になるので校舎下の裏庭を横切っていた時の事です。
ピクッ!
わたくしの縦ロールが突然“何か”に反応を示しました。
(何かしら?)
わたくしが足を止めると、突然校舎から花瓶が……
えぇ、花と水の入った花瓶が上からわたくしの目の前に降ってきましたわ。
ガシャーンという音をたてて目の前で砕け散る花瓶をわたくしは呆然と見ておりました。
「……っ!」
縦ロールに気を取られて足を止めていなかったら、わたくしに直撃していた事でしょう。
わたくしは慌てて校舎を見上げましたが、人影はありません。
(こ、これは……事故?)
いえ! そんな事はありえませんわ!
ぶぉぉぉん……!
ほら! 縦ロールも不穏な気配を感じていますわ!
(ですけど、もしかして……わたくし、狙われている……?)
「……」
これは単なる気のせいではなかったようでして、この日を境にわたくしの周りでは不可解な事が起こるようになりました。
───が!
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