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29. 凶器という名のドリル (アマンダ視点)
しおりを挟む今、私の目の前で「アマンダ様の為なら!」「俺達はアマンダ様の味方です」と言ってくれていた彼らが堂々と手のひらを返している。
ヒロインを慕う彼らは私の為なら何でもする。そのはずだったのに!
「アマンダ様からドリ……オコランド侯爵令嬢が邪魔だから陥れるのに協力して欲しいと頼まれました……」
「傷物にするだけでいいからと」
コイツらと来たらラフ様に睨まれて、ペラペラと余計な事まで喋ってくれてるわ……!
どうしてこうなったの?
私の何がいけなかったの?
私はラフ様に目を覚まして欲しかっただけなのに!
「アマンダ嬢……君って人は本当に」
「……っ!」
ラフ様が悪役令嬢を腕に抱いたまま私に冷たい視線を向けてくる。
(そこは私の場所なのに!)
ラフ様の洗脳は相当ね。
あの凶器に完全にやられてしまってるわ……
だって見たでしょ? あのドリル……人を吹き飛ばしていたのよ?
もはや、髪じゃないわよ! あんなのがただの髪な筈がないでしょう?
髪っていうのは私みたいなゆるふわの髪を言うのよ。
決して髪は人を吹き飛ばして鼻血を出させるものじゃない。
ドリルに吹き飛ばされていたヒロイン親衛隊その1を横目で見ると、彼はいまだに止まらない鼻血に悪戦苦闘していた。
「ねぇ、ラフ様! 信じて! 私はあなたの為に……」
ドリル女をラフ様から引き離す事はこれで完全に失敗。
しかも、私が黒幕として断罪されそうになっているじゃないの。
悪役令嬢はミュゼットなのにーー!!
「さっきから、ピーピーピーピー嘘だの信じてだの煩いが何が言いたい?」
「……だって、おかしいんだもの!」
「おかしい?」
「ラフ様がその女を腕に抱いてる事よ!」
私はミュゼットを指さしながら声を張り上げる。
指をさされたミュゼットは驚いた顔を見せるも、何故かあの凶器のドリルがぶぉん……という音を立てて揺れ始めたので、思わず小さな悲鳴を上げそうになった。
「ラ、ラフ様の隣に立つのは私よって昔から言っていたでしょ? なのに何でその女を抱いてるの?」
ラフ様は昔から何度頼んでも私をマンディーと呼んでくれないし、婚約も了承してくれなかった。
なのに、ドリル女とは婚約したと言う……
「何でってミュゼットが俺の愛しい愛しい婚約者だからだ。愛しい婚約者をこの腕に抱く事の何が問題なんだ?」
「ラ、ラファエル様……!」
はぁ? ドリル女が頬を赤らめてるんだけど!?
ぶぉぉーん……
……あと何なの、あのドリル。動きが怖い……
「だから、その相手は私になるはずでー……」
「あぁ、初めて顔を合わせた時からの妄想話か」
「妄想じゃないわ!」
ラファエル様が、はぁ……と、ため息をつく。
何でよぉぉ!
「俺の大事なマンディーを影でこっそり『思ってたより可愛くなかったわ』と、馬鹿にしておいてよくもまぁそんな事を言えるものだと感心するよ」
「……え!」
「知らないとでも思ったか? それで『アマンダの愛称はマンディーなので、殿下は私の事もぜひ、マンディーと呼んでください!』などと言えたものだ」
「……なっ!」
何で知られてるの!?
あれは初めてマンディーを紹介された日の帰りに誰もいないのを確認して小さな声で呟いただけなのに!
「伯爵夫妻には世話になってるからな。“ラフ様”呼びも仕方なく黙認して来たが……あぁ、そうだな。この機会にそれもやめてもらおうか」
(何ですってぇーー!?)
「ラ、ラフ……」
「……」
「ひっ!」
ラフ様と呼ぼうとしたら睨まれたわ!
「最近、ようやくミュゼットが殿下とつけるのをやめてくれたんだ。俺の名前を呼ぶのは可愛いミュゼットだけでいい」
ぶぉんぶぉん!
「あぁ、だろう? 何ならミュゼットなら愛称で呼んでくれても構わない」
ぶぉぶぉぶぉん!
「え? 照れて無理? また、そんな可愛い事を……ミュゼ」
ぶぉぶぉん、ぶぉぶぉんぶぉん、ぶぉーん!!
はぁ? ドリル女が顔を真っ赤にして頭を振り回しながら悶えてるんだけど!?
あと、まさかと思うけどラフ様、ドリルと会話してない?
ほ、本当に何なのよぉー……意味が分かんない!!
「…………コホンッ……えー、話が脱線してますが、エドポルト伯爵令嬢。あなたは彼らの証言通りオコランド侯爵令嬢を故意に陥れて傷つけようとした事を認めますか?」
先生がずれた話を戻そうとして来たわ。
誰が認めるものですか!
「誤解です! 私はそんなお願いなんてしていないわ」
「では彼らの証言は?」
「勘違いしてるんだわ! それか私に好かれたくて彼らが勝手に……」
そう口にした瞬間、三人に睨まれたけど気にしないわ。
親衛隊の一人や二人に睨まれたって関係ないもの!
「……アマンダ様」
「何よ?」
私が三人の存在を吐き捨てる発言をした時、ドリル女が動いた。ラフ様の腕から抜け出して私の方へ近付いて来る。
ぶぉ……とドリルが揺らめいてるのは気の所為……?
「わたくし、彼らのおかした下衆い行動も許せないんですけども、もう一つ嫌いな事がありますの」
「は? だから何よ!」
「嘘をつくことですわ」
「私は嘘なんてついてなー……」
ぶぉん、ぶぉんぶぉんぶぉん……
怖っ! 人を吹っ飛ばしたドリルがやる気満々で私を見ている気が……する!
ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん……
「わたくしは、あなたが彼らに命令した所を全て見て聞いていますわよ?」
「嘘よ! ミュゼット様の方が嘘をついてるのよ! 私は知らないわ! 私はたまたま教室に用があって戻って来て、鉢合わせただけー……」
「アマンダ様!」
ぶぉーーん、ぶぉん……
(何か、ドリルの動きが……変わった??)
「……っっ!」
「わたくしの縦ロールもあなたが嘘つきだと言って聞かないんですのよ……あなた、この縦ロールに嘘はついてないと誓えて?」
「は、あ?」
「……嘘をついていません、私は無関係です……本当に本当にそうこの縦ロールに誓えます?」
ぶぉん、ぶぉんぶぉんぶぉん!!
「ーーっ!」
血気盛んなドリルを見て思ったわ。
あ、無理。これ絶対にドリルに殺られるって。
(これは、逃げるに限る!)
もはや完全に分が悪いと思った私は、とりあえずこの場から逃げることにした───
…………のだけど!
「っ! 甘いですわよ!!」
「ひぃっ、またっ!? ぎゃぁぁあぁぁぁあ!」
ドリル女のその声と共に、シュルっと腕に巻きついて来たドリルに私は見事に捕まった。
「全てを話すまで離しませんわよ!!」
「ひっ!?」
何か腕を締めつける力がどんどん強くなっていく気がするんだけど!!
そしてドリル女は微笑んだ。
「さぁ、アマンダ様? お話、聞かせてくれますわよね?」
「~~~!!」
そして、その巻きついたドリルは私が全てを包み隠さずに話すまで本当に離れてくれなかった……
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