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第7話 心が温まる時間
しおりを挟む「はははっ……はは、ほら。まずは胃に優しいスープだ」
「あ、ありがとう……ございます」
リアム殿下は笑い過ぎたのか目に涙を浮かべながら、私にスープを差し出した。
食べ物に罪は無い。
それよりも何よりも、お腹の音からも分かるように大変お腹が空いているのでここはもう甘えて有難く頂く事にした。
(キャベツに人参に……消化に良さそうな具材の入ったコンソメスープに見える。あぁ、今更だけど乙女ゲームの世界なだけあって食事事情は前世のまんまなのねぇ……)
記憶を思い出したせいか、ますます変な感じがする。
そんな事を思いながら、私はスープを一口飲んだ。
(あ……)
「美味しい! 美味しいです!!」
「そうか? それは良かった。我が家のシェフのお手製だ。俺の体調が優れない時はいつも作ってくれていてな、中の食材には身体が温まるー……」
リアム殿下は嬉しそうにこのスープの解説をしてくれる。
そんな嬉しそうな様子だけで、この方が屋敷の使用人達をどれだけ大切にしているのかが伝わって来る。
(私とは大違い……)
選んだドレスが気に入らなかった。髪型が私好みの形にできなかった。
嫌いな食べ物を食事に入れた……等々
(そんなバカみたいな理由で私はこれまで何人の使用人をクビにして来た?)
彼らにだって生活があったのに!
「……」
処刑なんて嫌。
そう思って逃げる事にしたけれど、私は王女として本当に失格で自分の犯してきた事はちゃんと反省していかないといけない。
よくよく見ればテーブルに並んでいる食事も確かに胃に優しそうなものばかり。
本当に私の事を考えて作ってくれた料理なのだと分かる。
「本当に美味しい……」
「フェリ?」
「温かい……」
スープが……ではなくて。
人が……その心が温かい。
ポロッ
「!」
「フェリ?」
私の目から涙が溢れた。
優しい気持ちが私の心にじわじわと染み渡って来ていて、気付いたら涙が溢れていた。
「あ、違うのです。美味しくて温かくて幸せで……」
「フェリ……」
ポンポン……
(……?)
リアム殿下が私に向かって手を伸ばしたと思ったらまた、頭をポンポンされた。
「泣きたいなら泣けばいい。我慢は良くないからな」
「リー様?」
「たくさん泣いて気持ちが落ち着いた後は……そうだな、せっかくだから笑顔を見せてくれ。フェリの笑顔はきっと…………」
「え?」
(今、なんて……?)
「何でもない! さぁ、どんどん食べろ! さ、冷めてしまうぞ!」
「は、はい」
すごく恥ずかしい事を言われた気がしたけれど、何だか誤魔化された気がした。
何故かしら。視線を感じるわ。
すごく見られている。
「……あの、私の顔に何か付いていますか?」
「え?」
食事をしていたら、理由は分からないけれどリアム殿下からの視線を感じる。
いえ、よく見ればリアム殿下だけでは無い。
使用人の人達からも妙な視線。
(私、何かやらかしてしまった? 一体、なにかし、)
「いや、変わった女だと思ってな」
「?」
(どういう意味?)
ポンポン……
また、頭をポンポンされる。これは、リアム殿下の癖なのかしら?
「……こっちの話だ。気にするな」
「いえ、気になります」
そう何回も頭ポンポンで誤魔化されると思わないで頂戴! そんな目で私はリアム殿下を見る。
「え……」
「……」
「フェリ……」
少しの沈黙の後、リアム殿下は再び豪快に笑い出した。
「ははははは! いいな、フェリのその瞳」
「瞳、ですか?」
「あぁ、固く強い意志を持ったいい瞳をしてる」
「……!」
そんな風に言われたのは初めてでドキッとした。
不思議とリアム殿下といると心の中が温かくなる。
(でも、それはリアム殿下が私を王女だったフェリシティだと知らないから)
何も知らずに出会ったからこそ生まれる関係。
この人には悪行の限りを尽くした私の事は知られたくないなんて思ってしまう。
(私、なんて自分勝手なの……)
罪は償うべきだと思っている。でも、処刑は嫌。
それなら、私はどうやってこの先を生きていけばいいのかしら──
ぐるぐる考え込み始めた私の顔をリアム殿下は静かにじっと見つめていた。
「なんとお部屋まで……!」
食事を終えた後、リアム殿下は当然のように私に向かって言った。
“部屋を用意させた。そこで、少し寝ろ”
「……」
入浴、食事、睡眠……
休ませろの言葉通りの手厚い保護に涙が出そうになる。
(見ず知らずの私の為にここまでしてくれるなんて)
私は言われるがまま、ベッドに横になる。
フカフカのベッドだった。あの牢屋の全身が痛くなる硬いベッドとは大違い。
(隠しキャラっていい人。だから隠しキャラなんだわ…………隠しキャラ万歳……)
ずっと気も張っていたので、相当眠くなっていたらしい私は、久しぶりのフカフカベッドの気持ち良さにあっさり負けて意味不明な思考をしながら眠りについた。
─────……
『王女、フェリシティ! お前だけは許さない!!』
フェリシティが優雅に午後のティータイムを楽しんでいると、突然そこに男が乱入して来た。
(この男は──……)
『まぁ? 突然、不躾に何の話ですの? リアム・リュキアード王太子殿下』
フェリシティはこの闖入者が何者か分かると、お茶を一口飲んだ後、余裕の笑みを浮かべながら答えた。
『俺が何をしに来たか知っているだろう!! しらばっくれるな! もう調べはついている!』
『調べ? ですから何のお話ですの?』
(いったいこの男をここに通したのは誰? 探し出して……そうね。後でクビにしなくては)
『さすが、噂の王女だな』
『お褒めに預かり光栄ですわ。ですが、何のお話なのか全く分かりませんのよ』
『褒めてなどいない! そしてまだ、しらばっくれるのか! この国の心優しい令嬢が協力してくれてもう、全てが明らかになっているんだぞ!』
(この国の心優しい令嬢……? まさか。あの男爵令嬢……最近私の周りをコソコソと何やら嗅ぎ回っていると思ったら……余計な事を)
『落ち着いて下さいませ、リアム殿下』
『落ち着いてなどいられるか! お前は俺の大事な……大事な────』
────……
ハッと目が覚める。
見慣れない天井に戸惑うも、そうだ。ここは王宮の私の部屋でも無ければ牢屋でも無い。
隣国の王太子殿下、リアムの家──……
昨夜、ここに連れてこられて手厚い施しを受けて眠った。
そして、朝───……
「……今のは、夢?」
私はそう呟きながらゆっくり身体を起こす。
今、見ていた夢は明らかに乙女ゲームの中での“悪役王女フェリシティ”と“リアム王太子殿下”だった。
私は彼のルートをプレイしていないのに何故? と思うも一つ心当たりがあった。
あれだけは見た事がある。
「リアムルートのPV……」
私は、はぁ……とため息を吐く。
あの彼の叫びの続きが何と言っていたかは知らない。
そして、悪役王女フェリシティが何をしてあんなに彼を怒らせたのかも分からない。
「現実となった今でも分からないわ。私はリアムに何をしたの?」
しかし、ゲームのフェリシティはともかく、現実のフェリシティ……私は彼に何をしたのかが、さっぱり分からない。
でも、これだけは確かだ。
「やっぱり、私はリアムの敵なのね……」
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