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第17話 醜い人達

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  ネイサンに見つかってしまった私は、その足ですぐに王宮へと連れ戻された。  

  
  抵抗しようとした私に対して、どこか歪んだ様子の彼は私に言った。

「フェリシティ殿下、あなたが抵抗すればこの家の者達はどうなるでしょうね」

  ……と。

「ここの人達は関係無い!  主も含め彼らは私の正体を知らないわ!」
「知ってる知らないは関係無いのですよ、殿下。どんな経緯であれ、この家の人間は“フェリシティ王女”を匿ったという事は事実なのですから」
「……っ」
「可愛いペトラが悲しむのでね、さぁ、来て下さい。フェリシティ殿下」


  ネイサンに掴まれた腕は跡が残るくらい痛かった。


  ─────……
  



  バシッ

「……っ!」
「フェリシティ。よくもまぁ、逃げ出してくれたな」

  一発目。お兄様から容赦の無い平手打ちが私の頬に飛んで来た。
  じんじんする頬の痛みを感じながらも、こんな風にお兄様に叩かれたのは初めての事かもしれない、なんてぼんやりと思った。
  今まで傍若無人に振る舞う私を叱り付ける時にですら手は出して来なかったのに。

  そして、何より醜い。

  (どうしてかしら?  お兄様もネイサンもすっかり性格が変わってしまった気がする)

  二人共こんな人では無かったのに。
  これも、ゲームの……ペトラと出会った影響なのかしら。
  そう思うとこの世界が途端に怖くなる。

「なぁ、フェリシティ。お前のせいでこっちはどれだけ恥をかいた思う?」
「ふっ……私に逃げられたお兄様が間抜けだっただけでしょう?」

  私はお兄様を睨みつけると、負けじと言い返す。
  図星をさされたらしいお兄様はすぐに真っ赤な顔になって怒鳴った。

「何だと!?  フェリシティのくせに相変わらず生意気なっ!」

  バシッ

「っ!」

  二度目の平手打ち。
  本当にお兄様は私に容赦しなくなった。

  (こんな暴力的な人では無かったはずなのに)

「お前の言う通りだ!  間抜けな王太子と影で笑われたんだぞ!  全部全部フェリシティ、お前のせいだ!」
「ふふ、そうですわね、お兄様。だって、たかが私一人をなかなか見つけられず、果ては騎士団まで動かしていましたものね」
「……っ!  貴様!」

  お兄様の顔はますます怒りで真っ赤になる。

「お兄様ったらそんな事で騎士団を動かすなんて、国に有事があった際はどうするおつもりだったのかしら?」
「うるさい!  黙れ!  どいつもこいつも同じ事を言いやがって!」

  騎士団を動かした事に関しては、あれこれ言われていたのかもしれない。
  自分で言うのもあれだけど、私は騎士団を動かしてまですぐに捕縛しなくてはならない程の犯罪者では無いのだから。

「これも全部、お前が逃げ出したからだ!  フェリシティ!」
「ふふっ、ご自分が無能なのを私のせいにしないで下さいませ?  お兄様」
「フェリシティ……!!」

  再びお兄様の手が振り上げられる。
  三度目の平手打ち……を覚悟した時だった。

「アーロン様、駄目ですわ!!」
「ペトラ?」

  ヒロイン、ペトラがこの場に飛び込んで来てお兄様を止めた。

「ペトラ!  何故止めるんだ!  フェリシティは……」
「いえ、アーロン様。叩いては駄目ですわ」

  一見、私の事を心配してくれているような発言のペトラだけれど……

「今、下手にフェリシティ様の顔や身体に傷を負わせると、処刑時に皆様が不審に思いますわ」
「む!」
「王女様が処刑前に明らかに暴行されていた……なんて事が分かれば周囲の同情を誘う事になってしまいますわよ」
「……なるほどな。それは確かに外聞が悪い」

  その言葉を受けてお兄様は振り上げていた手を下ろした。

  (分かってはいたけれど、やっぱり、私の為を思ってでの発言では無かった)

  そんな事を考えていた私の元にペトラが近付いて来た。

    (えーー?  何でこっちに来るの!?)

  正直、このヒロインが一番何を考えているのかよく分からなくて不気味。
  だから、関わりたくないのに。

「フェリシティ殿下、大丈夫ですか?」
「……あなたにはこれが“大丈夫”に見えるの?  本当におめでたい頭をしているのね?」

  (……何故かしら?  声のトーンも発する言葉や口調も私が思ってる事と違う言葉が飛び出す……)

  お兄様に対しては、様子を見たかったらわざと煽ったけれどペトラは違う!
  何故か自由が奪われる。
  
  (……これが、ゲームの強制力というやつなの……?)

  とことん、この世界は“悪役王女フェリシティ”には厳しいらしい。

「フェリシティ殿下……酷いです、そんな言い方。私はあなたを心配して」
「あなたなんかに心配されたと言うの?  この私が?」
「だって、私……私……」

  ペトラがうるうると涙目になる。
  その様子を見たお兄様がキッと私を睨んだ。

「フェリシティ殿下、私……まさか、こんな事になるなんて……思わなかったんです」
「……」

  そう言ってすすり泣くペトラ。
  ゲームをプレイしている時は、ヒロインらしく慈悲深くて可愛くて良い子……なんて思ったものだけれど。

  (不思議ね。立場が変わるだけでこんなにも見え方って変わるものなのね)

「ですから、ちゃんと罪を償って……下さい、フェリシティ殿下……ぐすん」

  涙を流しながらそう訴えるペトラの肩を抱きながらお兄様が言う。

「あぁ、ペトラ。君は本当に優しくて愛らしい。そこの愚妹とは大違いだ」
「アーロン様……恥ずかしいです」

  ポっと頬を染めるヒロイン、ペトラ。
  なるほどここで、そうやって頬を染めるのが愛されるヒロインなのね、と何故か妙に納得する。

「恥ずかしがる必要は無いよ、ペトラ……」
「アーロン様」

  見つめ合う二人。
  ラブシーン他所でやって欲しいわね。
  今の私にはそんな気持ちしか生まれない。
 
「……フェリシティ殿下」
「?」

  そんなやさぐれた気持ちを抱いていたら、ペトラがそっと私に近付き耳元で囁く。

「戻って来てくれて良かったわ。ふふふ、私の幸せの為にも早く処刑されてくださいね?」

  (─────え?)

「……これで、ようやく私もハッピーエンドとなれるのだから、ふふ、ふふふ」
「……!?」
「ありがとう、私の引き立て役の悪役王女さん」

  そう言ったペトラの顔も、とてもヒロインとは思えないくらいの醜さだった。
  
  
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