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26. ツンデレ愛され令嬢
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その後、お父様の手配したお医者様がやって来た。
「これはまた派手にやりましたな……」
ナタナエルの頬の様子を見て絶句したお医者様には、顔を叩くのも程々に……と言われてしまう。
でも、肝心のナタナエルは……
「アニエスからの愛のムチだと思えば全然平気! むしろ嬉しいかな」
なんて危険な発言をしてヘラヘラと笑っていた。
────
そんなわたしたち、まずは婚約からスタート。
ナタナエルも、もう少し騎士として活躍してから堂々と胸を張って婿入りしたいと言い出したので、結婚はもう少し先となる予定。
(余計な詮索されると困るからあんまり、人にはペラペラ言えないけれど)
「……フルール様には報告……すべき、よね?」
「うん? 報告?」
あれから、ナタナエルは休みの日になると欠かさず我が家を訪ねるようになった。
たまに謎の迷子を発揮して約束から大遅刻してハラハラドキドキ心配させられることもあるけれど。
そんな今日も我が家を訪ねて来たナタナエルは、わたしの呟いた独り言を拾った。
「……そうよ。フ、フルール様くらいには、ナタナエルとのこと言っておくべきかなと思って!」
「ああ、俺と変わらないくらいアニエスの可愛い所を理解している大親友の公爵夫人だね?」
「……っ」
ナタナエルが嬉しそうな顔でのほほん夫人のことをそう評する。
その言い方は…………恥ずかしい。
顔を逸らすとナタナエルはわたしの頭を撫でた。
「アニエス、いい大親友を持ったね?」
「だ、大親友は大袈裟なのよ! あれは、のほ……フルール様が勝手に言っているだけなんだから!」
わたしが反論するとナタナエルはクックッと笑う。
「しょうがないなぁ。俺の前では強がらなくてもいいのに」
「つ、強がってなんか! い、ないわ……よ」
「そう? ───本当は“大親友”嬉しいんでしょ?」
「う、嬉しくなんか……! ないわ……よ」
ナタナエルは、さらに頭を撫でながら今度はクスッと笑う。
「でも、俺聞いちゃった」
「な……何を?」
嫌な予感がしながら訊ねると、ナタナエルはニンマリ笑った。
「───アニエス、夫人の結婚式のためにレース編みでヴェールを作製して贈ったんでしょ?」
「~~!」
どうしてそれを……!
そう口にしそうになって慌てて口元を押さえる。
「あ、伯爵から聞いた。アニエスが特別に作ってもいいかと頭を下げてきたって」
(お父様ーーーー!)
ナタナエルに余計な情報は与えないで欲しい。
「あれは、フルール様の兄に頼まれて……し、仕方なく……!」
「……」
「仕事! 仕事を受けただけで、わ、わたしは別に……あれに深い意味なんて───……」
「…………俺、アニエスのそういう所、好きだよ?」
「!!」
頭を撫でていたナタナエルがそう言ってわたしを抱きしめる。
「本当は嬉しいんでしょ? 大親友の存在」
「……」
「彼女にだけは報告しようかな───それってもう充分、特別だと思うよ?」
「そ……それは、フルール様の言葉に後押しされたことがあったから……ほ、報告の義務があると思ったのよ!」
特別とは違う!
そう主張したかったけどナタナエルはわたしの言葉にニコニコしているだけ。
「はは、アニエスは本当に素直じゃないなーー」
「……」
「多分、意地を張ってもあの夫人には見抜かれると思うよ?」
「……」
「アニエス理解力もすごいし、とにかく……なんか色々な面で鋭そう。鼻とか利きそうだよね」
のほほん夫人は、あんなにのほほんとしておきながら、たまに勘が鋭い。
かと思えば超絶鈍い時もある。
(ナタナエルは同類だから分かるのかしら……?)
わたしはナタナエルも同じでしょ!
そんな思いで睨みつけたけど、結局、いつものようにヘラヘラ笑って流された。
そうしてわたしは、自称わたしの大親友、フルール様の元に報告に向かおうとしたのだけど……
「───え? 隣国に行っている?」
「そうだ。モンタニエ公爵夫妻は今、隣国の王太子夫妻の結婚式に参加するために出発した所だぞ?」
モンタニエ公爵家に先触れを出そうとしたらお父様にそう言われてしまった。
「な、なぜ、フルール様が?」
確かにのほほん夫人は公爵夫人という身分だけど、王族の結婚式ともなれば、普通は王族が赴くのでは?
「主役でもある隣国の王太子夫妻からのご指名らしい」
「……指名」
よく分からないけど、あののほほん顔は着々と交友関係を広げているらしい。
「それで王弟殿下が二人に頼み込んで───……」
「!」
“王弟殿下”
その名前に胸がドキッとする。
実はまだ、わたしは王弟殿下本人をあまりしっかり見たことがない。
(ナタナエルと似ている?)
……いつか“本当の親子”が王宮ですれ違う時が来るのかしら───?
今、考えてもしょうがないことだけど、いつかナタナエルの存在が明るみになる時が来てしまったとしても……
(ナタナエルはわたしが守るわ!)
「……アニエス。その王弟殿下だが」
「?」
お父様がわたしの頭の中を読んだかのように話を切り出した。
「私の知る限りだが……夫妻は“双子の弟”を亡くしたことにショックを受けていた」
「……!」
「毎年、誕生日は二人分のプレゼントを用意しているという話だし、“命日”とされている日は喪に服している───“彼”の存在を忘れてはいないし、双子だからと忌避もしていない」
「っ! そうなのね……ナタナエルにその話は?」
「再会した日に話した。“そうですか”と一言呟いて小さく笑っていたな……」
(……ナタナエル)
なんだか無性にナタナエルに会いたくなった。
─────
「そうなんだ? なら、報告は保留だね」
「……そうなるわ、ね」
翌日、ナタナエルにフルール様が仕事で隣国に行っているので報告出来なかったことを伝えた。
「ははは。アニエス、残念そう」
「ち、違っ……わたしはせっかくだから自慢してやろうと───」
「自慢?」
「あ……」
ナタナエルがきょとんとした顔で首を傾げる。
わたしは口が滑ったことを自覚し、ジワジワと頬に熱が集まっていく。
「……そっかあ、自慢かぁ~」
「!」
ナタナエルが嬉しそうにニマニマ締まりのない顔で微笑む。
その顔はやめて!
わたしの方が恥ずかしい……
「そうだ、アニエス。俺、まだアニエスから聞いていない言葉があるんだけど」
「は?」
わたしが首を傾げていると、ナタナエルはニッと笑いながら言った。
「───“好き”って一度も聞いていないなぁって」
「なっ……!」
ボンッとさらにわたしの顔が赤くなる。
「い、いいいいいい言わなくても……」
「うん、分かる。ちゃんと分かるんだけどね───……」
ナタナエルは、一度くらいは聞いてみたいかも、などと乙女のようなことを言い出した。
「~~~~っ」
「無理はしなくていいけど…………うん、いつか聞けたら嬉しいな」
「~~~~っっ!」
(────もう!)
「───ナ、ナタナエル!!」
「アニエス?」
わたしは勢いよく詰め寄ってナタナエルの胸ぐらを掴む。
「い、一度しか言わないから……耳の穴かっぽじってよーーーーく聞きなさい!!」
「え?」
目を丸くするナタナエルに、向かって背伸びをしてチュッと自分からナタナエルの頬にキスをする。
そして────
「…………ナタナエルのこと、だ…………っ、大好き……、よ!!」
「────!」
ナタナエルの目がさらに大きく見開かれた。
さらに真っ赤になったわたしは勢いよく顔と目を逸らす。
「…………アニエス」
「き、聞こえた!? に、二度目は無いわよ!? 無いんだか────……」
その先は、感極まったナタナエルにギュッと抱きしめられて唇を塞がれてしまったので言えなかった。
「~~~~!」
「────アニエス、俺も大好きだよ!」
「う……」
(知っている。知っているから、もう少し力を緩めてーーーーー!)
─────こうして、なかなか素直になれない意地っ張り令嬢なわたし。
性格は、相変わらずツンッとしたままだけど、
気が付いたら…………とびっきりの愛され令嬢になっていました!
~完~
✼✼✼✼✼✼✼
これで完結です。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
あらすじにも書きましたが、
昨年から書き続けているのに終わらない……終わらせ時を完全に見失ってしまった、
『王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。』
こちらに出てくる主人公(フルール)の大親友、アニエスを主役としたスピンオフ。
ようやくお届けすることが出来ました!
期待はずれではないと良いのですが……
うっかりこちらから読んでしまい、あちらを読んでいない方には「??」な所もあったかと思いますが申し訳ございません……
そこはご容赦ください。
また、あっちの話は長いので気軽に、読んでね! とも言えません……
《補足》
アニエスは初期から出ています。
元々は軽いざまぁ……ギャフン要員のキャラでした。
性格をツンデレにしたら意外な人気者となり大親友にまで出世し、こうして主役に……
ナタナエルの登場はあちらでは175話から。
アニエスの相手役として登場。性格はもうこれしかなかろう、と。
そして、少し謎の男風にしておいてこっちでネタばらしとなりました。
また、この話の時系列ですが、この最終話で気付かれたかもしれませんが、
あちらの話の189話の終わりと190話に入る前の頃の話となります。
両方読んでいる方、ややこしくてすみません。
つまり、現時点でアニエスはいまだに報告が出来ていません!!
もっとサクッと短く終わらせるつもりだったのに、予定より長くなってしまいましたが、
最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。
お気に入り登録や、エール、コメント……そして、最近突然ついたハートマーク!
(何これ! と、めっちゃビックリした)
どれもこれもありがとうございました!
これは励みになりますね~
この先の本編にもアニエスはまだ登場すると思うので、読んでくださっている方は彼女が登場したら……
“幸せ見つけられて良かったね”
と、ニヤニヤしてやってください。
本当にありがとうございました!
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