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勘違い男の独白 ─スチュアート─
しおりを挟む──ミリアンヌがリーツェに突き飛ばされた!
その様子を目にした俺は、リーツェに対して怒りの気持ちが生まれる。
確かに婚約者であるリーツェの目の前で俺はミリアンヌに愛の告白とも取れる言葉を口にした。
リーツェがその様子をいつから見ていたかは知らないが、俺に惚れているリーツェからすれば、確かに面白くなかっただろう。
だからと言って怪我をさせていいはずが無い!!
だいたい俺の正妃になれるんだから、側妃や妾を作ろうとも文句を言うな!
と、言いたい。
「スチュアート様、そして、フォレックス殿下……その、私は本当に大丈夫ですから……だって私は平民です。公爵令嬢のリーツェ様からすれば私のような者なんて……虫けら当然なんです……」
ミリアンヌがそう言って泣き出す。
なんと、リーツェはそんな目でミリアンヌの事を見ていたのか!! むしろ、これは俺に隠れてコソコソとミリアンヌに対して何かしていたのでは……?
ますます、許せない。
ミリアンヌ……君は入学してから、リーツェのそんな態度にずっと耐えて来たのだな……そう思うと、今俺が支えている目の前の彼女を更に愛しく感じた。
フワッとミリアンヌから香ってくる、これは香水だろうか?
香水臭い女は嫌いだったはずなのに……
──そう、この香り。
ミリアンヌの香りを嗅いでいると、不思議と愛しい気持ちが増していく。
この間……あぁ、約束していたお祭りに行けなかった日の後くらいから、ミリアンヌのこの香りが強くなった気がする……
───……
『私は、スチュアート様の婚約者になりたいです!』
高熱を出し生死の境をさ迷っていたというリーツェは快復した後、長年引っ張っていた婚約者問題についてそう答えを出した。
──ははっ!
思わず、笑いが込み上げた。
俺よりフォレックスの方と仲を深めている様子だったから、てっきりフォレックスを選ぶと思っていたが……
(何だ、バカな女だと思ってはいたが、ちゃんと分かっているんじゃないか。己の役割を)
ミゼット公爵家。
この家が後ろ盾に付いてくれれば俺の将来も安泰だからな。
双子とはいえ、第一王子の俺につくのが当然だ!
見た目も中身も俺の好みでは無いが……まぁ、見目も悪くは無い。
特に最近は昔以上に綺麗になったという評判も聞いたしな。
素直な性格ではあるから俺に逆らう事も無いだろう。
将来、俺が好みの女性を側妃にしてもリーツェなら文句は言うまい。
そう思って幼馴染でもある、リーツェ・ミゼット公爵令嬢との婚約を受け入れた。
『スチュアート様!』
婚約を結んだ後、何故かリーツェは俺に執着した。
あと、素直だった性格がちょっと苛烈になっている気がする……
(こんな女だったか?)
そんな疑問が浮かんだが、慕ってくれる事に悪い気はしない。
好みでは無いが見目も確かに昔より更に綺麗になっているし、身体もいい身体をしている。そこは好みかもしれない。
俺達は政略結婚とはなるが、どうやらリーツェは俺に惚れていたらしい、それもかなり。
だが。
最近のリーツェは様子がおかしい。
それに“婚約破棄”なんて口にしてきた。
(俺に惚れているくせに、何を考えているんだ?)
大事な後ろ盾を失うわけにはいかない俺は、政略結婚の大事さを説いたが……リーツェのあの顔。絶対に話を聞いていないな。
(まぁ、リーツェはバカだからな。俺の話が理解出来ないのだろう)
そんな話をしながら、そうか……リーツェは単に婚約破棄をチラつかせて俺の気を引きたかっただけだろうと結論づけた。
なんてバカな女だ。
***
「ミリアンヌと言います! これから私の為にありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
「!」
そう言ってピンクブロンドの髪を揺らしながら挨拶する彼女に俺は見惚れてしまった。
今年は特例で平民の女性が入学してくるとの事で、俺がその平民の女性の面倒を見る事になった。
平民の彼女は、間違いなく学園で風当たりが強くなることが予想された。王族の俺が後ろにいれば牽制になるだろう、そんな魂胆だ。
そうして、顔を合わせたミリアンヌは……
俺の好みのど真ん中だった。
(こんなに俺好みの女がいるなんて……)
ミリアンヌは見た目も中身も、俺好みだった。
ただ、胸が無いのがちょっと残念だが……
(身体はリーツェの方が好みだな……)
ミリアンヌは平民ということもあって、距離感が近い。
「スチュアート様?」
許可もしていないのに名前で呼んでくる。注意しなくてはいけなかったのだろうが、可愛くて許せた。
ミリアンヌは、天真爛漫な性格で俺を惹きつけてやまないが、俺だって密かに楽しみにしていたお祭りデートに行けなかった事をネチネチ責めてくる辺りは王族の事を理解出来ていないな、と少し残念に思った。
やっぱり平民だから妃には出来ない。せいぜい妾が精一杯だ。
────……
と、思っていたが。
(ミリアンヌのこの香りを嗅いでいると、どうにかしてミリアンヌを正妃にしたくなってくるな……)
どうしてこんな不思議な気持ちになるのだろうか。
しかし、そうなると……
リーツェの存在が邪魔だな。
これまでは、リーツェを正妃として置き、ミリアンヌを妾にするつもりだった。
ミリアンヌの存在はリーツェには不満かもしれないが、俺の正妃だし、夜も適度に相手をしてやればリーツェもそれで満足だろう。
そう思っていたが……
リーツェを正妃とし、ミリアンヌをどこかの貴族の養女にでもして側妃にする事は絶対に許されないし出来ない。リーツェが公爵家の令嬢だから。
ならば、リーツェとは婚約破棄するしかない。
……リーツェと婚約破棄する事は多少面倒でも出来なくはないだろう。
だが、リーツェに生きていられると邪魔なのは確かだ。
俺との婚約破棄の後に、まさかとは思うが……万が一、フォレックスと婚約を結び直す……なんて事にでもなったら……
何故か知らんが、フォレックスはリーツェの護衛を申し出て来ているしな。
リーツェが男として惚れているのは俺でも、何だかんだで二人の仲は昔と変わらず良いのかもしれない。
だから、困る。
フォレックスとリーツェが結ばれては困る。
そんな事になったら、俺の安泰生活は終わりだ!
(ただでさえ、婚約破棄すればミゼット公爵家の後ろ盾を失う事になるのだからな……)
そうなると。
俺がミリアンヌと結ばれるのに……リーツェは邪魔だ。
それも、婚約破棄だけでは駄目だ。
──それなら、リーツェを始末してしまえばいい。
リーツェ側に非があれば始末しても俺を責める奴はいない……
ミゼット公爵家の力もフォレックスや他の所に行かないし。
むしろ、公爵は娘が俺に申し訳ない事をしたと頭を下げてくるかもしれない!
あぁ、これが一番の最善策だ!
ミリアンヌと俺が結ばれる為の……
(リーツェは……要らない。不要だ)
ポロポロと涙をこぼすミリアンヌを慰めながら、
“リーツェは冤罪でも何でもいいから罪を着せて始末してしまえばいい”
……この時、悪魔が俺の耳元でそう囁いた。
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