13 / 40
13
しおりを挟む
アラーナの部屋の扉が、静かに開いた。燭台を持ったテレンスは、テーブルに置いてある一枚の紙に気付いた。灯りを近付け、アラーナが残した遺書を読むと、寝台に近付いた。
アラーナは、寝台に横たわっていた。右手からこぼれ落ちたのであろう小瓶が、床に転がっていた。アラーナの顔に手のひらをかざしてみる。
アラーナの呼吸は、止まっていた。
「…………っっ」
テレンスは怒りと哀しみをこらえるように奥歯を噛み締め──燭台を持ったまま、ウェバー公爵の部屋へと向かった。
コンコン。コンコン。
自室でウトウトとしていたウェバー公爵は、ふいに響いたノック音に、苛ついた声音で、誰だ、と声を上げた。
「テレンスです」
扉越しの人物に、ウェバー公爵はさらに怒った。
「貴様。いま、何時だと──」
「アラーナお嬢様が、亡くなられています」
ウェバー公爵は言葉の意味が理解できず、固まった。目を見開いたまま寝台からおり、ゆっくりと扉を開いた。
「……どういうことだ」
蝋燭の灯りに照らされたテレンスが、声を震わせながら答える。
「……実は、王宮から帰る馬車内で、今日の夜。日付がかわるころ、部屋にきて欲しいとアラーナお嬢様に頼まれていたのです。内密に……」
「なぜ」
「理由は、そのときに伝えると言われ……先ほど部屋を訪ねてみたのですが、返事がなく……ですが扉が開いていたので入ってみると……テーブルには、さよならと書かれた一枚の紙が置いてあり、そして……寝台に横たわるアラーナお嬢様は、息をしていませんでした」
「は? ま、待て待て……」
軽いパニック状態になっているのか、ウェバー公爵が、その場をうろうろする。
「さよなら、だと? 何だ、それは。それじゃまるで、遺書ではないか」
ぶつぶつ一人でぼやいていたかと思うと、ウェバー公爵はテレンスから燭台を奪い取り、アラーナの部屋に向かった。
アラーナは、寝台に横たわっていた。暗くて、顔色すらわからないその顔は、ただ眠っているように思えた。
ウェバー公爵が、恐る恐るアラーナに近付いていく。早鐘を打つ心臓が、手を震わす。その手のひらを、アラーナの鼻と口にかざした。
「……なんってことだ……っ」
ウェバー公爵は頭を抱えたかと思うと、駆け足でウェバー公爵夫人の部屋に向かった。
「起きろ! 起きろ!」
ウェバー公爵が叫ぶ。緊迫感のある声色に、アヴリルと、数人の使用人が何事かと目を覚まし、ウェバー公爵の元に集まってきた。
「自殺、ですって? そんな馬鹿な……賊が侵入して、殺されたのではなくて?」
ウェバー公爵夫人が動揺しながらも、そんな言葉を吐いた。ウェバー公爵は、そうか、と、アラーナの部屋にいるテレンスに、廊下から声をかけた。
「どうだ、テレンス!」
「……窓にはきちんと鍵がかかっているので、少なくとも、ここから侵入された可能性は低いかと。争われた形跡もありませんし」
ウェバー公爵は、小さく舌打ちした。それを耳にしたテレンスは、一瞬、燭台を握る力を強めたが、すぐに冷静を装い、床に落ちた小瓶を手に取り、臭いをかいだ。
「詳しい種類まではわかりませんが、これは、毒だと思われます」
ウェバー公爵は「くそっ。どこからそんなもの……っ」と、苛々しながら親指の爪を噛んだ。
それからテレンスはテーブルにある遺書を手に取り、ウェバー公爵たちの元へと足を向けた。
「これは、アラーナお嬢様の字に間違いないと、わたしは思います。どうでしょうか?」
遺書を向け、問いかけると、アヴリルは、そんなの知らないわよ、と怒鳴った。
ウェバー公爵とウェバー公爵夫人は、口にこそ出さなかったものの、アヴリルと同じ意見なのか、怒りを露わにしていた。
アラーナは、寝台に横たわっていた。右手からこぼれ落ちたのであろう小瓶が、床に転がっていた。アラーナの顔に手のひらをかざしてみる。
アラーナの呼吸は、止まっていた。
「…………っっ」
テレンスは怒りと哀しみをこらえるように奥歯を噛み締め──燭台を持ったまま、ウェバー公爵の部屋へと向かった。
コンコン。コンコン。
自室でウトウトとしていたウェバー公爵は、ふいに響いたノック音に、苛ついた声音で、誰だ、と声を上げた。
「テレンスです」
扉越しの人物に、ウェバー公爵はさらに怒った。
「貴様。いま、何時だと──」
「アラーナお嬢様が、亡くなられています」
ウェバー公爵は言葉の意味が理解できず、固まった。目を見開いたまま寝台からおり、ゆっくりと扉を開いた。
「……どういうことだ」
蝋燭の灯りに照らされたテレンスが、声を震わせながら答える。
「……実は、王宮から帰る馬車内で、今日の夜。日付がかわるころ、部屋にきて欲しいとアラーナお嬢様に頼まれていたのです。内密に……」
「なぜ」
「理由は、そのときに伝えると言われ……先ほど部屋を訪ねてみたのですが、返事がなく……ですが扉が開いていたので入ってみると……テーブルには、さよならと書かれた一枚の紙が置いてあり、そして……寝台に横たわるアラーナお嬢様は、息をしていませんでした」
「は? ま、待て待て……」
軽いパニック状態になっているのか、ウェバー公爵が、その場をうろうろする。
「さよなら、だと? 何だ、それは。それじゃまるで、遺書ではないか」
ぶつぶつ一人でぼやいていたかと思うと、ウェバー公爵はテレンスから燭台を奪い取り、アラーナの部屋に向かった。
アラーナは、寝台に横たわっていた。暗くて、顔色すらわからないその顔は、ただ眠っているように思えた。
ウェバー公爵が、恐る恐るアラーナに近付いていく。早鐘を打つ心臓が、手を震わす。その手のひらを、アラーナの鼻と口にかざした。
「……なんってことだ……っ」
ウェバー公爵は頭を抱えたかと思うと、駆け足でウェバー公爵夫人の部屋に向かった。
「起きろ! 起きろ!」
ウェバー公爵が叫ぶ。緊迫感のある声色に、アヴリルと、数人の使用人が何事かと目を覚まし、ウェバー公爵の元に集まってきた。
「自殺、ですって? そんな馬鹿な……賊が侵入して、殺されたのではなくて?」
ウェバー公爵夫人が動揺しながらも、そんな言葉を吐いた。ウェバー公爵は、そうか、と、アラーナの部屋にいるテレンスに、廊下から声をかけた。
「どうだ、テレンス!」
「……窓にはきちんと鍵がかかっているので、少なくとも、ここから侵入された可能性は低いかと。争われた形跡もありませんし」
ウェバー公爵は、小さく舌打ちした。それを耳にしたテレンスは、一瞬、燭台を握る力を強めたが、すぐに冷静を装い、床に落ちた小瓶を手に取り、臭いをかいだ。
「詳しい種類まではわかりませんが、これは、毒だと思われます」
ウェバー公爵は「くそっ。どこからそんなもの……っ」と、苛々しながら親指の爪を噛んだ。
それからテレンスはテーブルにある遺書を手に取り、ウェバー公爵たちの元へと足を向けた。
「これは、アラーナお嬢様の字に間違いないと、わたしは思います。どうでしょうか?」
遺書を向け、問いかけると、アヴリルは、そんなの知らないわよ、と怒鳴った。
ウェバー公爵とウェバー公爵夫人は、口にこそ出さなかったものの、アヴリルと同じ意見なのか、怒りを露わにしていた。
応援ありがとうございます!
36
お気に入りに追加
5,272
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる