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「──ね、アーリン。この国を離れる前に、会いたい人や、行っておきたい場所はある?」
隣の席に座ったルーファスが、アーリンに優しく訊ねる。アーリンは悩む間もなく、いいえ、と答えた。そう。ルーファスの顔色が、僅かに曇る。
「出立は、明日の朝にしようと思っていたんだけど。できるなら早くクリーシャー王国に戻りたいんだ。だからアーリンがいいなら、今すぐにでも出立したい。──どうかな?」
「はい。わたしはかまいません」
この国には、何の未練もありません。アーリンの双眸は確かに、そう語っていた。想いを読み取ったルーファスは、決意した。
「わかった。国王にそう伝えてくるよ。荷物はもうまとめてあるのかな?」
「荷物はないので、大丈夫です」
そうなのか。ルーファスが呟いたタイミングで、小太りな男女が二人、広間に入ってきた。きょろっとあたりを見回し、ルーファスに視線を止めたところで、まあ、と女が黄色い声をあげた。
「聞いた通り、何と美しいお方!」
「こら、ベリンダ! ぼくという婚約者がいながら何だ!!」
「あら。やきもちですか、ショーン殿下。心配なさらずとも、ベリンダはあなたのものですよ」
うふふ。
口元をおさえながら笑い、ベリンダと呼ばれた女性は、ルーファスに近付いてきた。
「あなたがクリーシャー王国の第二王子、ルーファス殿下ですね?」
「ええ。あなたはこの国の第一王子である、ショーン殿の婚約者のようですね」
「はい。侯爵令嬢の、ベリンダです。そして、六代目の聖女ですわ」
あなたがそうでしたか。
ルーファスは、頬を緩めた。
「あなたのおかげで、我が国にも聖女を迎えいれることが叶いました。感謝しています」
「まあ、感謝だなんて。ルーファス殿下がこんなに素敵な方だと存じていれば、わたくしがクリーシャー王国に参りましたのに」
国王やショーンが、何を言っているんだ、と声をあげた。
「お前はこの国にいてもらはなくては困る」
「そうだぞ。それにお前は、聖女であると同時に、ぼくの婚約者でもあるだろう?!」
二人の言葉に、ベリンダが愉快そうに笑う。
「残念ですわ。わたくしはどこぞの平民と違い、誰からも必要とされる存在なので、あなた様の国に行くことはできないようです」
対し、ルーファスもにっこりと笑った。
「我が国のことは心配なさらず。アーリンがいますから」
ベリンダは、ルーファスの背後にいるアーリンにちらっと視線を向けた。
「……お気の毒に、ルーファス殿下。孤児で平民の、そんなみすぼらしい女がお役に立てるとは、わたくしにはとても思えませんわ」
「聖女であることに、孤児も平民も関係ありませんよ」
すかさず返された科白に、ベリンダは片眉をぴくりと動かした。
隣の席に座ったルーファスが、アーリンに優しく訊ねる。アーリンは悩む間もなく、いいえ、と答えた。そう。ルーファスの顔色が、僅かに曇る。
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「はい。わたしはかまいません」
この国には、何の未練もありません。アーリンの双眸は確かに、そう語っていた。想いを読み取ったルーファスは、決意した。
「わかった。国王にそう伝えてくるよ。荷物はもうまとめてあるのかな?」
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そうなのか。ルーファスが呟いたタイミングで、小太りな男女が二人、広間に入ってきた。きょろっとあたりを見回し、ルーファスに視線を止めたところで、まあ、と女が黄色い声をあげた。
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うふふ。
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「まあ、感謝だなんて。ルーファス殿下がこんなに素敵な方だと存じていれば、わたくしがクリーシャー王国に参りましたのに」
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対し、ルーファスもにっこりと笑った。
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「……お気の毒に、ルーファス殿下。孤児で平民の、そんなみすぼらしい女がお役に立てるとは、わたくしにはとても思えませんわ」
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