聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ

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 教会にあるアーリンの部屋の扉をノックする。ルーファスだと名乗ると、すぐにかちゃりと鍵が開けられ、扉が開いた。

「……ルーファス様? いまは学園にいる時刻のはずでは?」

 アーリンが首を傾げる。ルーファスはアーリンの頬に、そっと手を添えた。

「急な来訪者で、休むことになったんだ──顔色、昨日より少し良くなったね」

「急な来訪者、ですか……朝いらしてくださらなかったのは、そのせいですか?」

 拗ねたような口調に、ルーファスが苦笑する。

「ごめん、そうなんだ。テンサンド王国の第一王子のショーン殿が、緊急事態だと言って朝から押し掛けてきて」

 アーリンが「テンサンド王国?」と目を丸くした。

「緊急事態、とは?」

 ルーファスは僅かにためらったものの、事情を包み隠さず語った。

「父上は、きみがテンサンド王国に帰りたいと望むなら、その意思に従うと──アーリン?」

「……ルーファス様はわたしに、テンサンド王国に帰れとおっしゃるのですか……?」

 呆然としながらぼろぼろと涙を流すアーリン。ルーファスが「ち、違う! 違うから!」と慌ててその涙をハンカチで拭う。

「……やはりわたしなんかでは、ルーファス様の相手には相応しくないのですね……」

 仕方のないことではあるが、アーリンは二日前のあの日から、少し情緒不安定気味だった。祈りの時間以外は、ほとんど部屋に引きこもり、ルーファス以外と逢うことも、極力避けていた。

 ルーファスはアーリンを落ち着かせるように、そっと抱き締めた。

「わたしは、アーリンにずっとこの国にいてもらいたいと思っているよ」

「……それは、わたしが聖女だからですか?」

「正直、それもある。王子として、聖女のきみに居てもらわないと困るから。でもね、もうそれだけが理由じゃないよ。それはきみにも、理解してもらえていると信じているのだけれど」

「…………」

 アーリンは答えない。代わりのように、ルーファスの背にまわした腕に、ぎゅっと力を込めた。

「アーリン。どうか、正直な気持ちを聞かせてほしい。きみは、危機的状況に陥っているテンサンド王国を助けたいと思う?」

 静かな問いかけに、アーリンはしばらくしてから、ゆっくりと口を開いた。

「……軽蔑したり、嫌いになったりしませんか?」

「しないよ、約束する。だから怖がらずに言ってみて?」

 優しい声色に、アーリンはすうっと息を吸った。


「──わたしは」

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