上 下
31 / 31

31

しおりを挟む
 アーリンはルーファスの自室の窓から一人、晴れ渡る空を見上げていた。正確には、結界を。城内にいるとき、アーリンはたいてい、自分の部屋か、ルーファスの部屋に居た。

 ルーファスはいま、学園で勉学に励んでいる最中だろう。

 ルーファスの部屋は、ルーファスの匂いがして、ひどく落ち着く。いつでも居ていいよ。そう言われたから、甘えることにした。最近、どんどんと自分が我が儘になっているのを感じる。でも、止められなかった。

「……早く逢いたいなあ」

 ぽつりと呟く。朝に逢ったばかりだというのに、もう恋しくてたまらなかった。


 もしブリアナがあんな事件を犯さなければ、ルーファスの恋人になど、なれなかっただろう。いまこうしてルーファスの部屋に居ることなど、できなかった。もっと言えば、ベリンダが聖女だと偽らなければ、こうしてクリーシャー王国に来ることすら叶わなかっただろう。

 二人の女性の顔を脳裏に描く。決して礼など言わないが、それでも少しだけ、感謝したくなった。

「──そろそろ、教会に戻ろうかな」

 昼休憩は終わりだとばかりに、アーリンが伸びをする。最近は、聖女であるアーリンに懺悔や相談をする者が増えてきた。頼られることは素直に嬉しいが、本当に自身が役に立てているのか。疑問ではあるが、やりがいはある。

 部屋の扉に向かい、取っ手に手をかける。

 左手の薬指にある指輪が、一瞬、日の光に反射し、きらっと光った。


 アーリンはそれに愛おしそうに口付けをすると、軽い足取りで、部屋を後にした。


             ─おわり─
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,519pt お気に入り:846

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:398

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,883pt お気に入り:14

お飾り王妃の死後~王の後悔~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,696pt お気に入り:7,305

あなたを愛していないわたしは、嫉妬などしませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:795pt お気に入り:2,188

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,022pt お気に入り:139

処理中です...