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「アデルと違って、感情を素直に表に出すあたしが輝いて見えたって、言ってくれたじゃないですか……」

「覚えがないな」

「いいえ、言いました。抱き締め合い、口付けもしました。何度も愛していると囁いてくれました!」

 ぼろぼろと涙を流すダーラが、アデルに顔を向けた。

「アデルだって、聞いていたんでしょう? ねえ?!」

「……ええ、そうね。セドリック。わたしとあなたはもう他人なのだから、素直な感情を表に出していいのよ?」

「…………」

「お願い。せめて、あれが夢だったかだけでも教えて。そしたら、絶対にあなたを責めないと誓うから」

「……ぼくと別れるという考えは、変わらない? どうしても?」

「ええ。それにもう、ダーラは認めてくれているもの。だから最後に、真実を教えて。でなければ、わたしが聞いたすべてをみなに話すわ」

 セドリックは諦めたように、はあとため息をついた。

「……死ねばいいなんて、思ってなかった。死なれたら困るし。あれは、あの場の雰囲気とノリで言っただけだ」

「……夢じゃ、ない?」

「そうなんじゃないの? あのとき、病室には誰もいなかったのに、きみはぼくたちの会話を正確に言い当てたわけだから。まさか、耳だけ聞こえていたとか……そんな可笑しなことになっていたなんて。知っていたら、ダーラの誘いになんてのらなかったのに」

「あ、あたしから誘ったっていうんですか?!」

「そうだろ? あからさま過ぎて、笑いそうになったけど。なにが大切な幼なじみだよ。お前のせいで、ぼくはアデルと結婚できなくなってしまった。お前にも、慰謝料を払ってもらいたいぐらいだ」

 そのとき。

 それまで冷静だったアデルが、わあっと両手で顔を覆い、泣きはじめた。嬉しい。そう、呟きながら。

「……嬉しい? ああ、ぼくがダーラを愛していなかったからか。そうだよ。だからさ、まだ間に合う。ぼくと結婚しよう。婚約破棄なんて、互いの印象を悪くするだけだ。このままじゃ、この先、相手を見つけるのにも苦労するよ?」

 アデルは顔を上げ、にこっと微笑むと、すくっと立ち上がった。そして、近くにある屋敷の窓をトントンと叩いた。

 それを待っていたかのように、カーテンが開かれ、窓が開かれた。顔を覗かせたのは、この屋敷の執事だった。その表情は怒りに満ちていたが、すっと横にずれ、頭を下げた。

 なんだ。と、セドリックとダーラがパニックになっていると、部屋の椅子に腰掛けていたであろう数人が、ゆらりと立ち上がった。

「「…………ひっ」」

 二人の悲鳴が重なった。

 そこには、ネルソン伯爵夫妻だけでなく、セドリックとダーラの父親もいた。


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