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「……なるほど。よくわかった」
数秒後のクライブの呟きに、デリアは、ぱあっと顔を輝かせた。
「わかってくれてよかったです。あの、少しきつい言い方だったかもしれません……ごめんなさい。だって、クライブ殿下にはここまで言わないと、あたしの辛さ、伝わらないと思ったから」
「いや、謝罪はいらないよ──とりあえず、離してくれるかな」
柔らかな口調に、デリアは安心しきったように「あ、すみません」と腕を離した。クライブはそのままなにも言わず、扉に向かった。デリアが「……は?」と首を捻り、慌てて後を追いかける。
「ちょ、どこに行くんですか?!」
クライブは答えず、扉を開けた。あたりを見回してから「イアンは?」と、傍に立つ男に声をかける。
「フェリシア様と一緒に、どこかへ行かれましたよ」
デリアの護衛役の男が、無感情で答える。デリアが、なにそれ、と目を吊り上げる。
「きっと、イアン様に泣きついたんですよ。フェリシア様、男好きで有名だから」
これにクライブは、そうかと軽く受け流し、デリアに向き直った。
「わたしはこれから父上のところに行く。きみは護衛の彼と一緒に、自分の部屋に帰ってくれ」
「どうして突然……陛下に会っても、早く記憶を取り戻してほしいと願われて、辛いだけですよ?」
「かまわない。むしろ、引っ叩いてほしいぐらいだ。それにイアンと──フェリシア嬢とも、きちんと向き合って話し合わないと」
デリアの眉がぴくりと上がる。
「……あの、さっきのあたしの言葉、聞いてました? あたしはそんなこと望んでませんよ? それにフェリシア様は、あたしとクライブ殿下に二度と近付かないと、神に誓っていましたよね?」
「──そうだね」
ちらりとも表情を動かすことなく答え、クライブはデリアに背を向けた。すっと足を動かし、その場から離れていく。
「教会に戻りますか?」
護衛の男が、前に立ち尽くすデリアにぶっきらぼうに訊ねた。デリアは「……一人で帰れば?」とぼそっと呟き、クライブの後を追った。
ぎり。ぎり。
音がするほど奥歯を噛み締めるデリア。見開かれた瞳に、こちらを見ようともしない、クライブの背中が映る。
『容姿だけが取り柄のお前が年をとったら、残るのは性格の悪さだけだな』
勘違いした不細工な男はそう吐き捨て、踵を返した。最後に見たのは、去って行く貧弱な背中だった。
数秒後のクライブの呟きに、デリアは、ぱあっと顔を輝かせた。
「わかってくれてよかったです。あの、少しきつい言い方だったかもしれません……ごめんなさい。だって、クライブ殿下にはここまで言わないと、あたしの辛さ、伝わらないと思ったから」
「いや、謝罪はいらないよ──とりあえず、離してくれるかな」
柔らかな口調に、デリアは安心しきったように「あ、すみません」と腕を離した。クライブはそのままなにも言わず、扉に向かった。デリアが「……は?」と首を捻り、慌てて後を追いかける。
「ちょ、どこに行くんですか?!」
クライブは答えず、扉を開けた。あたりを見回してから「イアンは?」と、傍に立つ男に声をかける。
「フェリシア様と一緒に、どこかへ行かれましたよ」
デリアの護衛役の男が、無感情で答える。デリアが、なにそれ、と目を吊り上げる。
「きっと、イアン様に泣きついたんですよ。フェリシア様、男好きで有名だから」
これにクライブは、そうかと軽く受け流し、デリアに向き直った。
「わたしはこれから父上のところに行く。きみは護衛の彼と一緒に、自分の部屋に帰ってくれ」
「どうして突然……陛下に会っても、早く記憶を取り戻してほしいと願われて、辛いだけですよ?」
「かまわない。むしろ、引っ叩いてほしいぐらいだ。それにイアンと──フェリシア嬢とも、きちんと向き合って話し合わないと」
デリアの眉がぴくりと上がる。
「……あの、さっきのあたしの言葉、聞いてました? あたしはそんなこと望んでませんよ? それにフェリシア様は、あたしとクライブ殿下に二度と近付かないと、神に誓っていましたよね?」
「──そうだね」
ちらりとも表情を動かすことなく答え、クライブはデリアに背を向けた。すっと足を動かし、その場から離れていく。
「教会に戻りますか?」
護衛の男が、前に立ち尽くすデリアにぶっきらぼうに訊ねた。デリアは「……一人で帰れば?」とぼそっと呟き、クライブの後を追った。
ぎり。ぎり。
音がするほど奥歯を噛み締めるデリア。見開かれた瞳に、こちらを見ようともしない、クライブの背中が映る。
『容姿だけが取り柄のお前が年をとったら、残るのは性格の悪さだけだな』
勘違いした不細工な男はそう吐き捨て、踵を返した。最後に見たのは、去って行く貧弱な背中だった。
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