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リーシャ、酒場でくだをまく 1
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最低 、最低!
クリスなんて……クリストファーなんて、大嫌いだわ……!
ヒールの高い靴で走ると足が痛む。観劇用におしゃれをしてきたせいだ。
石畳に高いヒールって最高に相性が悪いもの。
石畳の隙間にヒールが刺さるし。そもそも歩くだけでカツカツコツコツ、うるさいし。
踵が痛いし、足の裏も、尖った靴の先端できゅっとまるまる足先だって痛い。
全部が全部最悪だわ……だって私、もうすぐクリストファーと結婚できるって楽しみにしていたのに。
一体いつからなの?
いつから、シルキーと浮気していたのよ。学園ではシルキーは仲良しのお友達だと思っていたのに。
何食わぬ顔で、いつも通りに会話をして笑い合って。
その裏で、クリストファーとあんなふうに、あんなふうにキスをしたり、触れ合ったりしていたというの?
伯爵家の馬車がお迎えに来ていたのだけれど、私は馬車に戻らずにそのまま街へ向かった。
シルキーと浮気をしていたクリストファーのことで頭がいっぱいで、家に帰るとか、馬車に乗るとか、冷静な判断ができなかったのだ。
劇場が開くのは夕方からで、劇が終わる頃にはもうすっかり日が落ちている。
一人で行動するのが得意な私でも、流石に夜は街をうろついたりはしない。
警備が手厚く、安全な王都であっても夜は危険だからだ。
空には星がまたたき、王都にぽつぽつと建てられた魔鉱石の街灯の灯りが心もとなく灯る中、王都の中心街である中央通りで賑わっているのは酒場ぐらい。
私は一瞬ためらったけれど、もうどうにでもなれ! という気持ちでばたんと扉を開いた。
だってこのまま一人でいたら泣いてしまいそうだったのだもの。
それだけは嫌だ。
浮気をされた挙句に婚約を反故にされて、すっかり負け犬みたいになった私が泣くなんて。
こんな、情けないことはない。
「おいおい、どこのお嬢さんだ? 酒場に来るような格好じゃねぇだろう、それは」
「どこかの貴族のお嬢さんがパーティーから抜け出してきたのかな。まぁ、可愛い子は大歓迎だよ。こちらにどうぞ」
「いっぱい飲むかい? 奢るぜ」
カウンターの奥では店主と思しき腕に一角鮫のタトゥの入った男が、シェイカーを振ってカクテルを作っている。
カウンター席も、テーブル席もいっぱいで、強面の男性たちが勢揃いしていた。
明らかに私、場違い。
だって観劇用の衣服だもの。ドレスだし。アクセサリーもしているし、髪だって綺麗に整えている。
走ったせいで、乱れているかもしれないけれど。
酒場に入った途端に、私はなんだかしらないけれど、中にいた男性たちから大人気になった。
こちらにこちらにと、あれよあれという間に奥に連れて行かれて、テーブル席の一つに座らせてもらう。
私の周りを男性たちが取り囲んで、目の前には飲み物が注文もしていないのにわんさか置かれた。
お酒もあるし、ナッツ類もある。
ここにいる男性たちは、いい人なのかもしれない。
明らかに訳ありの私を見て、同情してくれているのかしら。
わからない。でもなんでもいい。
今はともかく、最低な気分だもの。
クリスなんて……クリストファーなんて、大嫌いだわ……!
ヒールの高い靴で走ると足が痛む。観劇用におしゃれをしてきたせいだ。
石畳に高いヒールって最高に相性が悪いもの。
石畳の隙間にヒールが刺さるし。そもそも歩くだけでカツカツコツコツ、うるさいし。
踵が痛いし、足の裏も、尖った靴の先端できゅっとまるまる足先だって痛い。
全部が全部最悪だわ……だって私、もうすぐクリストファーと結婚できるって楽しみにしていたのに。
一体いつからなの?
いつから、シルキーと浮気していたのよ。学園ではシルキーは仲良しのお友達だと思っていたのに。
何食わぬ顔で、いつも通りに会話をして笑い合って。
その裏で、クリストファーとあんなふうに、あんなふうにキスをしたり、触れ合ったりしていたというの?
伯爵家の馬車がお迎えに来ていたのだけれど、私は馬車に戻らずにそのまま街へ向かった。
シルキーと浮気をしていたクリストファーのことで頭がいっぱいで、家に帰るとか、馬車に乗るとか、冷静な判断ができなかったのだ。
劇場が開くのは夕方からで、劇が終わる頃にはもうすっかり日が落ちている。
一人で行動するのが得意な私でも、流石に夜は街をうろついたりはしない。
警備が手厚く、安全な王都であっても夜は危険だからだ。
空には星がまたたき、王都にぽつぽつと建てられた魔鉱石の街灯の灯りが心もとなく灯る中、王都の中心街である中央通りで賑わっているのは酒場ぐらい。
私は一瞬ためらったけれど、もうどうにでもなれ! という気持ちでばたんと扉を開いた。
だってこのまま一人でいたら泣いてしまいそうだったのだもの。
それだけは嫌だ。
浮気をされた挙句に婚約を反故にされて、すっかり負け犬みたいになった私が泣くなんて。
こんな、情けないことはない。
「おいおい、どこのお嬢さんだ? 酒場に来るような格好じゃねぇだろう、それは」
「どこかの貴族のお嬢さんがパーティーから抜け出してきたのかな。まぁ、可愛い子は大歓迎だよ。こちらにどうぞ」
「いっぱい飲むかい? 奢るぜ」
カウンターの奥では店主と思しき腕に一角鮫のタトゥの入った男が、シェイカーを振ってカクテルを作っている。
カウンター席も、テーブル席もいっぱいで、強面の男性たちが勢揃いしていた。
明らかに私、場違い。
だって観劇用の衣服だもの。ドレスだし。アクセサリーもしているし、髪だって綺麗に整えている。
走ったせいで、乱れているかもしれないけれど。
酒場に入った途端に、私はなんだかしらないけれど、中にいた男性たちから大人気になった。
こちらにこちらにと、あれよあれという間に奥に連れて行かれて、テーブル席の一つに座らせてもらう。
私の周りを男性たちが取り囲んで、目の前には飲み物が注文もしていないのにわんさか置かれた。
お酒もあるし、ナッツ類もある。
ここにいる男性たちは、いい人なのかもしれない。
明らかに訳ありの私を見て、同情してくれているのかしら。
わからない。でもなんでもいい。
今はともかく、最低な気分だもの。
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