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 アブリコスリーズさくらんぼ、アブリコと仕込みを終えたと思ったら、プリュヌプラムも一カメ分仕込むとあみちゃんが言った。
 
「これはまぁ、一応ね?あんまり需要はないけど、変わり種が好きな人もいるから。塩は十五パーセントくらいかな」

 皮と種を取るのが手間で。

「あみちゃん……アブリコを練り梅代わりにしたほうが楽じゃない?」
「楽だけど、ゆみも一応覚えておいたらいいかと思って」

 あみちゃんから教わることは多い。
 最後にこの作業は結構疲れるけど、一カメ分だから二人でどんどん実をむいて入れる。

「皮を剥くのって、なんで?」
「口当たりが悪いから。初めは皮ごと漬けていたけど、かたいのよ」

 眉間にしわを寄せるくらいだから、イマイチなんだろうな。

「どこか他の土地にも梅はないのかな?」
「色々探したけどみつからなかったねぇ、周辺の村や森にあったら植樹しようと思って探したけどなかったよ。あと、シソも。……まぁ、杏もおいしいよね。さくらんぼが小梅の代わりになってるし……それほどカリカリにはならないけど」

 あみちゃんがどこか遠くを見るように言った。
 それから私に視線を移す。

「ところで、フランシスのこと話してくれないの?」
「……フランシスから聞いてるでしょ?」
「ゆみから聞きたいのに。ゆみの気持ちを」

 一年の猶予をもらってつき合うことにした私たちだけど、特に生活が変わるようなこともなく。
 まだ二週間くらいしか経ってないからかもしれないけど。
 
 フランシスは散歩から帰ってきたあみちゃんに堂々と結婚を前提につき合うことになったと挨拶した。
 あみちゃんが涙を浮かべて喜ぶから、なんだか私まで胸がいっぱいになったけれど。

「……フランシスのことは好きだけど、結婚は不安。だって、両親は離婚してるし、お父さんはあんなだったし。スーパーでも旦那さんの愚痴を言うパートさん多かったし」
「…………」
「お父さんとフランシスが違うのはわかっているけど、でも……怖いな。……あみちゃんは、旦那さんと結婚して幸せだった?」

 あみちゃんが乙女のような顔で微笑んだ。

「すごく、幸せだったよ……歳は離れていたけど。ゆみには悲しい思いをさせちゃったけど、あの人と出会えてよかった……」

 そっか。
 あみちゃんの表情には一点の曇りもない。

「幸せなだったんだね……よかった……」
「そうね、幸せな結婚生活を送れたと思う。……お互いしかいなかったから」
「……」
「あの人、私と出会う前に戦争に行ってね、子どもができない体になったらしいの。だから、初めは……私は一緒にいたかったけどあの人は他の人に私を押しつけようとしたのよ。親子ほど歳も離れていたし。私はあの人がよかったら諦めないでいたら、結婚することになって心機一転、この村に住むことにしたというわけ」
「あみちゃんは、結婚したかったの?」

 同じ環境にいたのになんでこうも違うんだろう?

「私はこっちで独りぼっちで、日本への帰り方もわからなくて、あの人を好きになったから家族になりたかった。だから、あの人とは結婚したいと思ったけど……もし一番最初に違う人と出会ったら同じように思ったかはわからないわね」

 フランシスのことは好きだけど、私は家族になりたいかな?
 一緒にいたい、と家族になりたいは同じなのか違うのか、あみちゃんの言葉にますます訳がわからなくなる。
 混乱する私にあみちゃんが言った。

「……ゆみはまだつき合い始めたばかりだから急がなくていいのよ。……一年の猶予があるんでしょ?じっくり考えて、もっとお互いを知り合ったらいいの」
「もし、結婚しないって決めたら、ここに住みづらくなるよね……?」
「うーん……フランシスが他の人と結婚するのを見ても嫌だと思わなければここにいてもいいけどね。………………一緒に他の街に行く?」

 フランシスが他の人と結婚するのはなんだかもやもやする。
 嫌なのかな。
 そう思う自分に呆れる。
 それに地下室の大量のカメを思い出して、私は首を横に振った。

「梅干し置いてくの?」
「全部売り払ってお金にすればいいじゃない!ね?」

 実際はそんなことできそうもないけど、あみちゃんに明るく言われて、もうちょっと気楽に構えてもいいかもと思えた。

「こんにちはー」

 フランシスの声が聞こえて私は振り返る。
 穏やかな顔の彼にほっとする。
 聞かれていなくてよかった。

「頼まれていたもの、運び込んでいい?」
「お願い。塩はここに持ってきてもらえる?」

 あみちゃんの言葉に頷いて、塩の袋を私の脇に置いてくれる。
 あみちゃんに重たいものは持たせたくないから、フランシスの行為ににっこり頷いた。
 そしたら、頭のてっぺんにキスを落として他の品を取りに行った。

「あらあら、かわいいことするわね」
「…………」

 恥ずかしい。

「わかりやすくていいじゃない。さぁ、あと少しで終わりよ」

 私は無言で残りの処理を終えた。


「ちょうどフランシスが来てくれてよかったわね。カメの重さは分かってるから、これをはかりに乗せてくれるかしら?」

 プリュヌの重さを出して、塩を加え混ぜる。

「今日はこれを地下室にしまったらおしまい。ゆみ、フランシスに持ってもらって案内して。……そしたらお茶にしましょう」
 

 
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