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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!

第12章 アリーシャ、プールの怪と接触する

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 変なモノを踏んだ……と気づいた直後、今度はあしに、ヌルッとした何かがからみつく。
 
「みギゃアァッ!? 何?何!? 触手!? やだッ!」
 
 ベタベタブミョブミョした、今まで味わったことのない感触のモノに、足を引っ張られる。
 よく見えないが、イメージ的には "エイリアン的なナニか" の触手だ。
 
《変だワン!プールの中には、アリーシャちゃん以外、何も見えないワン!》
 
 白兵衛がライトで照らしてくるが、確かに見た目は・・・・、私の周りに何も無い。
 
「で、でも、確かに感触が……。ぅキャあァッ!? 今度はうでにも絡みついてきたっ!」
 
 手足を無理矢理引っ張られ、水中でバランスをくずしそうになる。
 
 一人パニックになりさわいでいると……
 
「貴様ら……我がヨメに不埒ふらちなことをいたすな!」
 
 激しい水音と怒声の直後、プールの水がザバッと左右に割れた。
 
 振り向くと、人型に戻ったアッシュが真後ろにいた。
 右腕をり下ろした直後のようなポーズで、鬼の形相ぎょうそうをしている。
 
「アッシュた……ふわッ!? ちょ……っ」
 
 呼びかける間も無く、横抱きにかかえられ、プールサイドへとジャンプされる。
 
 真っ二つに割れていたプールの水は、一瞬で元に戻り、私の手足からはボトボトッと音を立てて、何かががれ落ちた。
 
 水の中だとよく分からなかったが……地上だと確実に、何かがいる・・・・・のが分かる。
 
 透明でプルプルした、ゲル状の物体。これは……
 
「ボ……ボクたち、悪いワラビモチじゃないよ」
 
「そのお姉ちゃんが、ボクらの仲間を踏んづけたから、どいてもらおうとしただけだよ」
 
《トウメイワラビモチだワン。道理で姿が見えなかったわけだワン》
 
「なるほどの。誰もいないはずの水中で足を引っ張られるとは、そういうことか」
 
 私たちに戦意が無いことを悟ったのか、プールの中から次々と、仲間のトウメイワラビモチたちが飛び出して来る。
 
 全部で7匹。……結構けっこうな数がひそんでいたんだな。
 
「ボクたち、ただ静かに、このプールで暮らしていたいだけなんだよぅ」
 
「でも、透明だから、よく気づかれずに踏まれたりするんだよ」
 
「仲間同士でもぶつかったりするし、お互いに姿が見えなくて、困ってるんだよ」
 
「ボクたちも、他のワラビモチみたいに "色" が欲しいんだよ」
 
 トウメイワラビモチたちは口々に、そんなことをうったえる。
 
「 "色" が欲しい、か……。何か色付けできるモノでもあればいいんだけど……」
 
 言いながら、ハッと気づいた。
 
「そうか!かき氷シロップ!このためにあったんだ!」
 
 以前、レシピサイトで見たことがある。
 透明なわらびもちを、カラフルにアレンジする技。それは……
 
「かき氷シロップを器に入れて、透明なワラビモチをひたすこと、1時間……」
 
 入手したシロップは赤、黄、青の3色だけだが、絵の具の色を作るのと同じ要領ようりょうで、赤と黄を混ぜればオレンジ色が、黄と青を混ぜれば緑色ができる。
 
 そうやって7色のシロップを作り、ワラビモチたちを沈めれば……
 
《トウメイワラビモチたちが、ニジイロワラビモチに進化したワン!》
 
 写真にしたら映えそうな、レインボーカラーのワラビモチたちが誕生たんじょうした。
 
「うわぁぁ!ボクたち、色があるよ!」
「1匹1匹、見分けがつくよ!スゴいんだよ!」
 
 ワラビモチたちは、はしゃぎながら水に飛び込んでいく。
 
 プールの中に、色とりどりのボールが浮かんでいるようで、何となく見た目に楽しい。
 
「ありがとう、お姉ちゃんたち!」
 
「お礼にボクたちの宝物をあげるよ」
 
「7つ集めると "素敵な場所" へ行ける、パスの欠片かけらだよ!」
 
 ワラビモチの1匹が、パスの破片を渡してくれる。
 これで5つ目ゲットだ。
 
うわさだと、体育館にもコレがかくされているそうだよ」
 
「でも、気をつけて。体育館には "白い悪魔" が潜んでいるよ」
 
「ヤツらは何でもくす "最強の破壊者" なんだよ」
 
 ワラビモチたちは有益ゆうえきな情報も教えてくれた。
 
 やっぱり体育館にも七不思議はあったんだな。
 
 
「体育館の七不思議って、何だろう?それに "白い悪魔" って……?」
 
《体育館の七不思議も複数パターン存在するワン。『真夜中に何者かが球技の試合をしている』『いないはずの生徒がボールで遊んでいる』『特定の場所で転ぶと異界へ消えてしまう』『真夜中に試合をすると、いつの間にか人数が減っている』などワン》
 
「うーん……。行ってみないと、どのパターンなのかも分からないよね」
 
 元の服に着替えて一休みしてから、体育館へと向かう。
 
 
 プール棟は廃墟にしては小綺麗で、壊れている所も崩れている箇所かしょも無かったのだが……
 
「何だか、こっちの棟はボロボロだね。手すりもびついてるし、窓ガラスも割れてる……」
 
《床が傷んでいる所もあるワン。気をつけて歩いた方が良いワン》
 
 白兵衛のライトで照らしながら、一歩一歩、慎重しんちょうに進んで行く。
 
 辿たどいた体育館も、扉が錆びついて、なかなか開かなかった。
 
「うぅ……っ、重い……っ。おまけに、サビで、手が……」
 
「どいておれ、アリーシャ姫。我が開けてやる」
 
 アッシュが再び人型に戻り、片手で軽く扉を開け放つ。
 
「フム。『真夜中の試合』や『いないはずの生徒』のパターンは無いようだな」
 
 体育館の中は静まり返っていて、何の物音も気配も無い。
 
「……となれば、中を調べ回ってみるより他ないか」
 
 言いながら、アッシュは人型のまま、ズカズカ中に入って行く。
 
「ちょ……っ、アッシュたん!もっと慎重に行った方が……」
 
「何を恐れる必要がある。我は魔王ぞ。そこらのモンスターなど……」
 
 笑いながらそう言うアッシュの姿が、次の瞬間シュッと消えた。
 
「はエぇぇェッ!? 消えた!? 人が消える体育館!?」
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