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037 あれは金の亡者だ
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国が大聖国から派遣されるのは二十人。
各国に一人の大司教と選出した補佐役である司教三人と司祭六人。シスターが十人だ。
王都に置かれる教会には大司教、司教一人と司祭二人、シスター四人が就く。
残りの司教二人はそれぞれ補佐役である司祭二人とシスター三人を一つの教会の元とし、王都以外の主要都二つに分かれることになる。
大司教の任命は本国である大聖国でしかできないが、司教や司祭については、三人以上の司教の推薦で認められる。
国が長く続けば信徒を取り込み、司教達はその国出身の者が就くようにもなる。
問題となっている王都の大司教のヘンゼも、ヴェンリエルで神官となった者だった。
「この国の王都にいるヘンゼ大司教は最初から悪い人ではなかった……おかしくなったのは二十年と少し前頃からだとか」
大聖国からシュリアスタと来た大司教と合流した後、フレアリール達はコルトに話を聞いていた。
「僕が知っているヘンゼ大司教は、何かに取り憑かれたように地下の書物庫に籠っているような人だった。表に出てくるのは祭事の時くらい。ほとんどの事はトブラン司教とハッセ司教が取り仕切っていた」
あまり教会と関係を持ちたくなかったフレアリールは、彼らの事もよく知らない。ただし、王都教会の二人の司教がフレアリールを目の敵のように感じていたことは知っている。
「異世界から聖女を喚ぶ方法はヘンゼ大司教が解読したんだ。それと多分、フレアを殺した禁術も……あの人は力に魅入られていた」
気質的には研究者だ。けれど、それを発揮する前までは大聖国も認める人格者だったという。
これに大聖国の大司教が申し訳なさそうに言葉を挟んだ。
「実は今回、あの神官達が参る以前にも、このヴェンリエルの方から本国の方に何度か嘆願書が届いていたことが分かっています……ですが、誰も信じませんでした」
痛ましげに顔をしかめる大司教を見て、フレアリールが確認する。
「……ヘンゼ大司教を信頼されていたのですね?」
「はい。あのヘンゼ殿が居て、このような嘆願が来るわけがないと……それで放置しておりました。それが、本国へ報告もなく異世界の聖女を召喚し、あまつさえ多くの民達に聖女と崇められるフレア様を亡き者にしようなど……っ」
だが、信じない訳にはいかなくなった。奇妙にも腕や足は付いているのに動かない体を必死に支えて訴えにやって来た神官や魔術師達。
直接彼らの声を聞き、これが只ごとではないと認めるしかなかったのだ。
そして、もう一つ。決定的な証拠があった。
「その時、わたくしともう一人の聖女であるラフ様は同じ声を聞きました」
「……キャロウル神ですか?」
シュリアスタが頷く。
「『ハンシンと共にヴェンリエル王都を守りなさい』この一言だけではありましたが、確かにお声を聞いたのです」
キャロウル神はそれしか伝えられなかったのだ。聖女であろうとも、神気に耐えられないと聞いた。だが、フレアリールにも指摘されていた手前、せめてそれだけはとキャロウル神も思ったのだろう。
「ラフ様も行くと仰せでしたが、体調を崩してしまい、わたくしとヘンゼ大司教の知己であるこのミーヤ大司教様とこうしてこの国に参ったのです」
ラフ聖女は高齢だ。たった一言であっても体への負担は大きかった。
「フレアお姉様は何か……聞かれてはおりませんか? わたくしには、神が仰った『ハンシンと共に』というのが気になっていたのです。けれど、お姉様に会って確信しました。『ハンシン』とは『半神』という意味なのでしょう」
「……確かに、私は半神になったわ。キャロウル神からは、王都の教会にあるという『あるもの』を壊すようにも言われています」
「っ、それは一体!?」
身を乗り出すシュリアスタ。だが、これにミーヤ大司教は不安そうにするだけ。それがギルセリュートも気になったらしい。
「ミーヤ大司教は何があるのかご存知なのではありませんか?」
ギルセリュートはフレアリールが答えるよりも早くミーヤ大司教へと問いかけた。それは彼の配慮だろう。
その『あるもの』を知っているのならば、その対処に当然動くべきだと暗に示唆したのだ。フレアリールだけに責任を押し付けることではないと示すために。
ミーヤ大司教は何かに堪えるように目を閉じ、手を固く組んで答えた。
「あの教会には邪神の欠片が安置されていると聞いております。これは本来、大司教にしか知らされぬことです……」
ギルセリュートやコルトだけではなく、シュリアスタでさえも、にわかには信じられないことだった。だからこそ、確認という形でフレアリールへ目を向ける。
ミーヤ大司教もゆっくりと顔を上げ、フレアリールへ同意を求めていた。
「確かに、キャロウル神からもそう聞きました。あそこには特に強く残っていると」
「っ……」
シュリアスタが息をのむ。だが、ギルセリュートとコルトはいまいちピンと来ていないのだろう。だが、フレアリールが聞いたとなれば本当なのかと納得したらしい。
コルトは少々考え込むように口元へ手を持っていく。
「ヘンゼ大司教がその影響を受けたという可能性があると思う?」
「あり得ないことではないかもしれないわ……」
瘴気は土地に影響を与えるほど厄介なものだった。邪神の欠片がどんな影響を持っているかわからないが、あの地が危ないことはキャロウル神から言われているのだから否定はできない。
考え込むフレアリール。だが、コルトはそこでふっと笑いながら指摘する。
「仮にヘンゼ大司教がそのせいでおかしいとしても、その下の司教達のやっていることは明らかに自分たちの意思だと思うけどね」
「因みに、どれほど腐敗しています?」
シュリアスタに少しだけ含みを持った笑みを向けられ、問われたコルトは表情を緩めて答えた。
「賄賂に裏金。特権階級への裏からの支援。などなど……あれは金の亡者だ」
「すごいですわっ。そこまでとはっ。ここまで来る間の教会も多少はそういうのがありましたけどねっ」
「……なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ……」
ギルセリュートの指摘に、シュリアスタが輝くような笑顔が炸裂していた。
「それを暴くというのがイイんですわっ!」
「もしかして『ブラックハント』?」
「そうですわっ!」
コルトがクスクス笑う。聞いていたギルセリュートは目を逸らし、シュリアスタは更に目を輝かせた。だが、フレアリールにはその『ブラックハント』がわからない。
シュリアスタに目を向けると嬉しそうに教えてくれた。
「悪を暴き、人々を助けるヒーローですわっ」
それを聞いてギルセリュートが呆れたような様子を見せたことで、フレアリールは察した。ギルセリュートが聞き取れるだろう小さな声でその答えを呟く。
「……聡さん……?」
「っ……」
正解だったようだ。あの人は何をやっているんだろうか。
フレアリールも呆れるしかなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
2019. 5. 14
各国に一人の大司教と選出した補佐役である司教三人と司祭六人。シスターが十人だ。
王都に置かれる教会には大司教、司教一人と司祭二人、シスター四人が就く。
残りの司教二人はそれぞれ補佐役である司祭二人とシスター三人を一つの教会の元とし、王都以外の主要都二つに分かれることになる。
大司教の任命は本国である大聖国でしかできないが、司教や司祭については、三人以上の司教の推薦で認められる。
国が長く続けば信徒を取り込み、司教達はその国出身の者が就くようにもなる。
問題となっている王都の大司教のヘンゼも、ヴェンリエルで神官となった者だった。
「この国の王都にいるヘンゼ大司教は最初から悪い人ではなかった……おかしくなったのは二十年と少し前頃からだとか」
大聖国からシュリアスタと来た大司教と合流した後、フレアリール達はコルトに話を聞いていた。
「僕が知っているヘンゼ大司教は、何かに取り憑かれたように地下の書物庫に籠っているような人だった。表に出てくるのは祭事の時くらい。ほとんどの事はトブラン司教とハッセ司教が取り仕切っていた」
あまり教会と関係を持ちたくなかったフレアリールは、彼らの事もよく知らない。ただし、王都教会の二人の司教がフレアリールを目の敵のように感じていたことは知っている。
「異世界から聖女を喚ぶ方法はヘンゼ大司教が解読したんだ。それと多分、フレアを殺した禁術も……あの人は力に魅入られていた」
気質的には研究者だ。けれど、それを発揮する前までは大聖国も認める人格者だったという。
これに大聖国の大司教が申し訳なさそうに言葉を挟んだ。
「実は今回、あの神官達が参る以前にも、このヴェンリエルの方から本国の方に何度か嘆願書が届いていたことが分かっています……ですが、誰も信じませんでした」
痛ましげに顔をしかめる大司教を見て、フレアリールが確認する。
「……ヘンゼ大司教を信頼されていたのですね?」
「はい。あのヘンゼ殿が居て、このような嘆願が来るわけがないと……それで放置しておりました。それが、本国へ報告もなく異世界の聖女を召喚し、あまつさえ多くの民達に聖女と崇められるフレア様を亡き者にしようなど……っ」
だが、信じない訳にはいかなくなった。奇妙にも腕や足は付いているのに動かない体を必死に支えて訴えにやって来た神官や魔術師達。
直接彼らの声を聞き、これが只ごとではないと認めるしかなかったのだ。
そして、もう一つ。決定的な証拠があった。
「その時、わたくしともう一人の聖女であるラフ様は同じ声を聞きました」
「……キャロウル神ですか?」
シュリアスタが頷く。
「『ハンシンと共にヴェンリエル王都を守りなさい』この一言だけではありましたが、確かにお声を聞いたのです」
キャロウル神はそれしか伝えられなかったのだ。聖女であろうとも、神気に耐えられないと聞いた。だが、フレアリールにも指摘されていた手前、せめてそれだけはとキャロウル神も思ったのだろう。
「ラフ様も行くと仰せでしたが、体調を崩してしまい、わたくしとヘンゼ大司教の知己であるこのミーヤ大司教様とこうしてこの国に参ったのです」
ラフ聖女は高齢だ。たった一言であっても体への負担は大きかった。
「フレアお姉様は何か……聞かれてはおりませんか? わたくしには、神が仰った『ハンシンと共に』というのが気になっていたのです。けれど、お姉様に会って確信しました。『ハンシン』とは『半神』という意味なのでしょう」
「……確かに、私は半神になったわ。キャロウル神からは、王都の教会にあるという『あるもの』を壊すようにも言われています」
「っ、それは一体!?」
身を乗り出すシュリアスタ。だが、これにミーヤ大司教は不安そうにするだけ。それがギルセリュートも気になったらしい。
「ミーヤ大司教は何があるのかご存知なのではありませんか?」
ギルセリュートはフレアリールが答えるよりも早くミーヤ大司教へと問いかけた。それは彼の配慮だろう。
その『あるもの』を知っているのならば、その対処に当然動くべきだと暗に示唆したのだ。フレアリールだけに責任を押し付けることではないと示すために。
ミーヤ大司教は何かに堪えるように目を閉じ、手を固く組んで答えた。
「あの教会には邪神の欠片が安置されていると聞いております。これは本来、大司教にしか知らされぬことです……」
ギルセリュートやコルトだけではなく、シュリアスタでさえも、にわかには信じられないことだった。だからこそ、確認という形でフレアリールへ目を向ける。
ミーヤ大司教もゆっくりと顔を上げ、フレアリールへ同意を求めていた。
「確かに、キャロウル神からもそう聞きました。あそこには特に強く残っていると」
「っ……」
シュリアスタが息をのむ。だが、ギルセリュートとコルトはいまいちピンと来ていないのだろう。だが、フレアリールが聞いたとなれば本当なのかと納得したらしい。
コルトは少々考え込むように口元へ手を持っていく。
「ヘンゼ大司教がその影響を受けたという可能性があると思う?」
「あり得ないことではないかもしれないわ……」
瘴気は土地に影響を与えるほど厄介なものだった。邪神の欠片がどんな影響を持っているかわからないが、あの地が危ないことはキャロウル神から言われているのだから否定はできない。
考え込むフレアリール。だが、コルトはそこでふっと笑いながら指摘する。
「仮にヘンゼ大司教がそのせいでおかしいとしても、その下の司教達のやっていることは明らかに自分たちの意思だと思うけどね」
「因みに、どれほど腐敗しています?」
シュリアスタに少しだけ含みを持った笑みを向けられ、問われたコルトは表情を緩めて答えた。
「賄賂に裏金。特権階級への裏からの支援。などなど……あれは金の亡者だ」
「すごいですわっ。そこまでとはっ。ここまで来る間の教会も多少はそういうのがありましたけどねっ」
「……なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ……」
ギルセリュートの指摘に、シュリアスタが輝くような笑顔が炸裂していた。
「それを暴くというのがイイんですわっ!」
「もしかして『ブラックハント』?」
「そうですわっ!」
コルトがクスクス笑う。聞いていたギルセリュートは目を逸らし、シュリアスタは更に目を輝かせた。だが、フレアリールにはその『ブラックハント』がわからない。
シュリアスタに目を向けると嬉しそうに教えてくれた。
「悪を暴き、人々を助けるヒーローですわっ」
それを聞いてギルセリュートが呆れたような様子を見せたことで、フレアリールは察した。ギルセリュートが聞き取れるだろう小さな声でその答えを呟く。
「……聡さん……?」
「っ……」
正解だったようだ。あの人は何をやっているんだろうか。
フレアリールも呆れるしかなかった。
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二日空きます。
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2019. 5. 14
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