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ミッション9 学園と文具用品

309 欠陥品だ

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ファスター王は、本気で第二王妃の死の真相を明らかにしようと決意したのだろう。フィルズに真剣な目を向けた。

「……フィル。人を貸してもらえないだろうか」
「調査するやつ?」
「ああ……」
「……そうだな……」

ファスター王は、決して、国が抱える調査機関や暗部が頼りないというわけではないと口にする。

「悟られることはないだろうが、アレの関係者の息のかかっていない者をとなると、人数が心許ないというのに気付いてな……」

第三王妃は多くの貴族達から見捨てられていた。だから、実質的に唯一の王妃としてある第一王妃の味方は多い。

「分かった。何人かそっちで動けるのと……隠密ウサギを一部隊、専用に送る」
「すまんな……」
「いや。ちょい気になってることに関係しそうなんでな。ついでだ」
「それは……」

ファスター王が何かを言いかける途中で、ドアがノックされた。やって来たのは、この王都支部の屋敷を管理するクマのガンナだ。

《失礼いたします。ファサラ様とアクラス様がお伝えしたいことがあるとのことです》
「あ~……嫌な予感……」

フィルズは顔を顰めながら、すぐに行くと返し、立ち上がる。そして、ファスター王に断りを入れた。

「悪いな。途中で」
「いや……大丈夫か?」
「ん? そうだな……まあ、何とかなるだろ」
「そうか……何か私が力になれることがあれば、いつでも言ってくれ」
「私もっ、力になるからねっ」

ラスタリュートもそう言って真剣な目をフィルズに向けた。これにフィルズは笑みを返す。

「おう。その時はよろしくな」
「任せると良い」
「任せなさい」

二人は頷き、立ち上がる。そして、揃って部屋を出た。ファスター王とラスタリュートは、引き続き会議室で仕事がある。それを見送り、フィルズはファサラとアクラスの待つ地下へと向かった。

その部屋では、技巧の女神ファサラと魔法の神アクラスが、部屋の隅に置かれているソファーで資料を確認しながら難しい顔をしていた。

「その顔は、やっぱり間違いなさそうなのか?」
「……ええ……」
「……」

普段からあまり表情が変わらないアクラスが、無言ながら珍しく怒った様子で一枚の古ぼけて黄ばんだ紙と、真新しく見える紙を一枚、一緒にフィルズに差し出した。

それを受け取ったフィルズは、古い方の内容を確認し、下三分の一ほどの大きさを使って描かれている精密なネックレスの絵と真新しい方の紙にカラーで描かれた絵を見比べる。

「【魅了の魔導具】ねえ……」

少し胡散臭そうに見てしまうのは、それを作ろうと思うこと自体がフィルズには信じられなかったからだ。

「精神に作用する魔法陣なんて今の貴族の持つ魔力量でも発動させるのは無理なんだろ? そもそも、賢者の頃に作られたのが今でも作動するのか?」
「土台として使ったのがオリハルコンだからね……」

技巧の女神ファサラが苦々しげな顔で告げる。そして、その続きをアクラスが継いだ。

「……そこに、不壊の魔法陣が刻んである。宝石の方に魅了の魔法陣を刻んだことで、魔力が長い月日を経て空気中から蓄積され、現状のままになっているはずだ。劣化もそれで防がれている」
「へえ。そりゃあすげえっ。なるほどな~。二つ別々に刻んだのか。不壊で劣化を防ぐ方をオリハルコンでってのは確かに正解だよなっ」

そうかそうかと、しきりに資料を見て頷くフィルズ。

「ってか、オリハルコンに直接魔法陣を刻むのかっ。電池代わり、魔力補助代わりにイヤフィスや魔導車に俺も使ってるが、そうかっ。なるほどな~」

フィルズは楽しそうに、キラキラとした目でその資料を尚も見つめる。そんな様子に、二柱の神は困った子を見るような目を向ける。

「……フィル……琴線に触れたのは分かるけれど、これで苦しんでいる子が居るのも忘れないように」
「はっ……ああ、そうだった。いやあ、賢者にも困ったもんだよなあ」
「かつて、これで国が瓦解したこともあった。女とは……恐ろしい……」

アクラスが女嫌いになりそうだ。少し顔色も悪い気がする。何かトラウマでもあるのだろうかと気になってしまう。

「ま、まあそうだな。傾国の美女とか言葉が出来るくらいだし」

この魔導具は、王侯貴族に恨みを持った賢者が、国を瓦解させるために作り上げたもの。いわゆる、乙女ゲームで逆ハーレムをさせ、王侯貴族の上の方の跡取り達をたらし込んで破滅させることを目的とした魔導具だ。その資料が、回収した資料の中にあったのだ。

そして同時に、組織に居た者達の裏取りをする中で、実際に実物が使われているというのが分かった。

「ドラスリールにあった遺跡、早いとこ調べて良かったなあ」
「これが回収できたのは僥倖だったと言えるでしょうね」

辺境伯領と接する隣国のドラスリール。現在は教会が後ろ盾となって国を再建している途中だ。そのドラスリールには賢者の隠れ家であった古代の遺跡があった。フィルズはこの王都支部の出店の前に、その遺跡を調べ、賢者の資料などを回収していた。その中に【魅了の魔導具】についての資料があったのだ。

アクラスが差し出して来た真新しく見えた紙の方が、かつての賢者の回収された資料だった。古く見える方が、今回潰した闇ギルドから回収された資料で、大人しくドラスリールが自滅するのを待っていたら、これは今回、見逃されていたかもしれない。

「で? どうすればいいんだ? 最終的には、単純に外せば良いんだろうが、自分にも魅了を掛けてる状態だろ。というか……俺から言わせれば、オンオフが明確に出来ない時点でこれは……」
「欠陥品だ」

フィルズが濁した答えを、アクラスがはっきりと言い切った。

「だな……魅了って……まあ、執着させるってことだよな。自身はこの魔導具に執着し、着けた者は自分に執着させるように錯覚させるということだろう?」
「そうだ。その物に、執着心を抱かせる……魅了とは言っているが、要は注目させる物だ」
「王族とかなら使えるなあ」
「実際かつては、王家の宝剣や装飾品に施すことで、少しばかり注目させるというものだった。それに、余計な手を入れたようだ」
「なるほど……」

アクラスは始終、不機嫌な様子で腕を組んでソファに背を預けている。賢者が作り出した物とはいえ、相当これが気に入らないようだ。しばらく目を瞑り、そして、フィルズを真っ直ぐに見た。

「……これを打ち消す魔導具を作る」
「そうなるよな……というか、間違いなく必要になる」

早急に、手を付ける必要がありそうだった。









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読んでくださりありがとうございます◎
お待たせしました!
第5巻 今月中旬発売予定です!
よろしくお願いします!
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