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第13幕 ひとりぼっち
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「凄い人……。屋台の食材足りるかな?」
「去年のが話題になったのかも。数は少ないとはいえ、いち早く打ち上げ花火観られるからね」
「まぁ、売り切りゴメンってことで。さて、それじゃそろそろ開店しますか!」
環樹会長の合図と共に、グラウンド内にアナウンスが流れると夕涼み会は開催された。夕方の辺りが薄っすらと暗くなり始めた頃、すでに人がいっぱいで忙しくなりそうだ。
生徒に交じり商店街で協賛してくれたお店の人達や、近所の家族連れで賑わっている。グラウンドの真ん中には、小ぶりながらも焚き火が焚かれ、それを中心に音楽が流れると盆踊りを皆楽しんでいる。
生徒会主催の夕涼み会は屋台も大盛況で、開催時間がまだ残っているというのに、完売の札を早くから下げることになった。おかげで資金繰りも十分だ。花火を上げるのもお金が掛かるので、環樹先輩の楽しめて資金調達も出来る一石二鳥な提案だとか。
高校生で手腕を垣間見せる環樹先輩は、きっと社会に出たら凄腕になるに違いない。
「さて、こっちはもういいよ。もうすぐ花火が上がるから観てくるといい」
「いいの⁉」
「頑張ってくれたご褒美。特別に屋上の鍵を貸してあげる」
「わーい! 悠斗、行こう! おい、悠斗?」
振り返り悠斗を誘うと、ぼんやりとしている。
「……えっ?」
「お前聞いていなかったのか? 花火観に行っていいって。屋上の特別席だぞ?」
「王子が上の空なんて珍しいね? ああ、けど悪戯するのはダメだよ?」
「聞いてましたよ? 悪戯ってなんです?」
「お前大丈夫か? ほら、始まっちゃう。早く行こ?」
多澤と村上も誘おうとするが、近くに居らず仕方ないので悠斗と二人で屋上に向かった。グラウンドには上から見ると凄い数の人でぎっしりだ。
ゴロンと寝転び空を見上げると、晴れた空には沢山の星が瞬いている。チラリと悠斗を窺うと、座りながら動きもせず静かに空を眺めていた。その姿は今にも空に溶けてしまいそうだった。
「……なぁ、悠斗。最近お前どうしちゃったの?」
「どうって?」
「上の空が多い気がする。なにか悩みでもあるのか?」
「そうかな? 悩みといえば、瀬菜がカナちゃんと仲良すぎて心配なことかな」
悠斗の返答に胸がモヤモヤする。
「そうやって茶化すなよ。忘れたのか? この間約束しただろ? 言いたいことは言うって……」
「言いたいことは言っているよ」
それ以上はなにもないとばかりに、口を閉ざしてしまう。
俺じゃやっぱり頼りないのかな……。
「瀬菜……そんな顔しないで? 俺はまだまだ子供だね。瀬菜に悲しい顔させるなんて」
「そう思うなら隠しごとするな」
俺の言葉に瞼を閉じる悠斗は、覆い被さりそっとキスを落としてくる。唇が離れると大きな音と共に、花火が舞い散る。悠斗を中心にまるで花が咲くように広がる花が、儚く散り消えていく。
「……今は花火観ないと。今年はまた違った角度で瀬菜と観れて幸せだよ」
パタリと俺の横に悠斗は寝転ぶと、俺の手をギュッと握りしめ、大きな音と光に包まれながら夜空を見上げた。俺も悠斗の横顔から花火を見上げ、悠斗の手のひらを握り返した。
ヒュー……ドンッと何度か上がる花火。チリチリと散る姿に、胸の支えが溢れる。身体が強張ると自然と握り締めた手に力が入ってしまう。
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