王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第13幕 ひとりぼっち

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 軽く朝食を済ませ、気温が高くなってから海へと出かけた。残念ながらバナナボートはないらしく、浜辺で山崩しをしたり、悠斗を砂に埋めたりしていた。それから昨日と同じように海にプカプカ浮き、昨日以上にはしゃいでしまった。きっと解放的な海がそうさせているのだ。
 海から上がったあと、肌がヒリヒリして真っ赤になっていた。日焼け止めを塗らなかったのがいけなかった。これ以上太陽を浴びるのはよろしくないと、昼食を取ってから、悠斗がリサーチしてくれたホテルの従業員さんおすすめの穴場に向かうことにした。海パンに上着を羽織り、探検気分で散策だ。


「滑らないように気をつけて?」
「う、うん……。てか本当にこっちで合ってる?」

 海に面した場所にポッカリと口を開けている洞窟。中の様子は暗くて良く見えない。小さな懐中電灯を照らす悠斗に手を引かれ、恐る恐る中を進んでいた。あまり知られていない穴場スポットは、人気もなく薄暗い。ポタポタと水滴が天井から垂れ、夏とは思えないくらい中は冷んやりとして寒いぐらいだ。入り口からだいぶ歩いたが、目的地に本当に辿り着くのか不安になってしまう。

「間違ってはないと思うけど……。もう少し行ってみてなにもなければ引き返そうか」
「だよな……日が暮れたらもっと暗くなりそうだし……出そうだし……」
「ふふっ、怖いもの好きの瀬菜が出そうとか、本当に出ちゃうかもね?」
「いや……ほら、こういうところってヤバいの居そうじゃん。祟られるのは困るし……」

 一般的に洞窟にはコウモリぐらい居てもおかしくないが、生き物の気配が全くないのだ。響いているのは俺達の声だけで、時折水の音がするだけだった。

「瀬菜とのデート邪魔されたら確かに困る」
「折角悠斗が戻って来たのに、すぐに引き裂かれるとか勘弁だ」
「ふふっ、でも……このまま逃避行もいいかもしれないね」
「逃避行? なにから逃げるんだよ」

 ケラケラと笑う俺に、悠斗はギュッと手を握り直し「……それもそうだね」と言うと、目の前をチラチラと光るなにかが横切った。

「──ゆ、ゆ、悠斗‼︎ なんか光った‼︎」
「ん? どこ?」

 足を止めると、ブルっと背中に悪寒が走る。

「もう戻る?」
「い、いやッ! ここまで来たんだ。さっきの正体を確認するまでは」

 そう言いつつ俺は悠斗の背中に隠れ前へと進んでいた。

「瀬菜は俺をどうしたいの? 俺は魔物への捧げ物かなにか?」
「違う。俺はお化けや妖怪は好きだけど、怪物は苦手だ。男らしいお前を見込んでいるんだ」
「なにが違うの。一緒でしょ。調子いいんだから」

 悠斗は俺を振り返りそう言うと、突き当たりを右に曲がりピタッと足を止めていた。

「悠斗? なにか居る? なぁってば‼︎」

 無反応な悠斗の背中に目を瞑り抱きつく。

「……瀬菜……見て」

 その声は先ほどと打って変わっていた。洞窟の中は声が反響し響いていたが、悠斗の声は全く響いていなかった。それに気温もずいぶん異なる。ゆっくり目を開けると俺は驚きのあまり声をなくしていた。
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