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しおりを挟む「これは……一度、腕を斬れば外れるか?」
「何、物騒な事を言い出すのよ」
「いや、外さないと君に返せないだろう」
うーんと唸りながら真面目な顔で考える団長さんに思わず吹き出してしまった。返すって言っても、自分の腕を斬るなんて言わないわよ。
「笑う事ないだろう……しかし、どうなんているんだ?」
「本当に詳しい事は分からないの。父から聞いたのは持ち主を選ぶって事だけなのよ」
団長さんは眉を下げて困ったと言った。団長さんが使っている剣は、陛下から貰った物で勝手に変える訳にもいかないとか。
「普段は今の剣を使えば良いんじゃない?魔法道具は鍵になる言葉を言わない限り出て来ないもの」
「そうなのか……これを消すにはどうしたら良い?」
「閉鎖って言うだけよ」
「閉鎖」
鍵になる言葉を言うと、シュッと小さな音と共に剣は腕輪の中に消えた。金の少し太めの腕輪が団長さんの腕に嵌まり輝いている。日に焼けた肌に似合っていて、最初から彼に合わせて作られた様に見えた。
「似合っているわよ。誰かに使って貰う方が父も喜んでいると思うわ」
「それなら良いが……テリーにはどれが合うのかさっぱり分からんな」
「そうね……取り敢えず持たせて鍵になる言葉を言ってみるしかないわね」
残りの武器は纏めて袋に入れて、腰に何時も着けているポーチの中に入れた。そうねぇ……誰か
「誰か詳しい人物がいれば良いが……」
「城には居ないかしら?」
「いるんだが……変人だから当てにはならないな」
「変人って」
そんな話をしていると、ギルマスが女性と話を終えて訓練場にやって来た。あら、以外に早く済んだわね。あの女性、かなり興奮してたのに。
「マーク、あの女の家に苦情は出したのか?」
「あれか。何度も出しているが、親が焚き付けている節があるからなぁ……最終手段を使うか」
二人の会話は何となく先程の女性の事とは思ったけど、関係ない私は傍観していたらニヤリとギルマスが笑いながら私を見た。……嫌な顔してるわね……逃げようかしら?
「ルーシーと婚約した事にすれば黙るんじゃねぇか」
「……逆にキレてルーシー危害を加えられてしまうぞ」
「だから逆手に取ってやり返す」
ギルマスのその場の思い付きとしか言えない意見に、私が眉間に皺を寄せ文句を言おうとしたら団長さん先に口を開いた。
「馬鹿か貴様は」
「あ?」
「貴族相手にそんな事をすれば、ルーシーの身元がバレる危険がある。このまま市民として暮らしたいなら、間違いなく却下だな」
団長さんの指摘に口元を押さえて考えたギルマスは、頭を掻きながら困った表情を見せた。
「すまん。そこまで考えていなかった。しかし、あの女はどうするつもりだ?」
「あれは陛下を通して家に抗議する。自称婚約者なんぞ糞喰らえだ」
団長さんが悪態をつく姿を初めて見て、目を丸くしていると彼の愚痴は止まらない。公式のパーティーにエスコートしろだのデートに連れて行けだの、命令形の言葉で手紙が届く上に直接、抗議をすれば婚約に関する書類は持って来たのかと言ったらしい。
「苦情を伝えに来たと言えば、花瓶を投げてくるような女は誰だってお断りだろう」
あらら、団長さんは女運が悪そうね。巻き込まれない様に距離を置かなくちゃ。それより私は……
「ルーシー、メイソンは武器の事を知っているのか?」
「少しだけ」
頷いた団長さんが、自分の腕をギルマスの目の高さまで持ち上げた。
「これが何か分かるか?」
「うん?……これはルーシーの親父さんの腕輪?」
「あぁ、開放」
ギルマスの前で鍵になる言葉を言った団長さんの右手には、父が使っていた長剣が現れる。
「あぁ、魔法道具だったのか。で、何でお前が着けているんだ?」
「どうやら選ばれたらしい。外れないんだよ」
「は?」
困惑するギルマスに団長さんが腕輪が嵌まった経緯を伝えると、ギルマスは大きなため息を吐きながら腕を組んだ。
「ヤツとルーシーを会わせるのは……ちょっとなぁ」
「そこなんだよ。アイツは暴走するだろうな」
二人がさっきから“変人”とか“暴走”とか、不穏な言葉で表現される人物に興味と恐怖を感じた。二人に言われるって事は……相当よね。関わりたくないわね。二人の話が終わってから団長さんに、訓練に付き合って貰おうかしら?
「ルーシー」
名前を呼ばれて顔を上げると、目の前に団長さんの顔があった。余りの近さに驚いて後ろに飛んで下がると、団長さんとギルマスが困った様に眉を下げた。
「お前のそれは無意識か?」
「それ?」
ギルマスが私の髪を指差すから、視線を動かすと真っ赤に染まって揺れていた。あら……いつの間に?
「気付いてなかったか。急に黙ったと思ったら真っ赤になっていたぞ」
「ごめんなさい。今から訓練する内容を考えていただけなんだけど」
「まぁ、ここなら全開でヤっても問題ないか」
あっさりそう言った団長さんは、ギルマスに何か話すと頷いたギルマスが離れる。私に向き直った団長さんは剣を構えてニヤリと笑っう。
「魔力を巡らせて回復したし新しい剣を試したい。相手になってくれ」
「喜んで」
治療院の庭の時とは違い目に力の入る団長さんの姿に、ゾクリと背中に静電気が通ったような感覚を覚える。あぁ、この感じ……治療師も良いけど、やっぱり私は戦う事が好きだわ。
「本気で行くわよ。開放」
手に剣が収まると同時に団長さんに向かって走り出す。長剣よりリーチの短い双剣は相手の懐に潜り込む必要がある。でも、近付けば一歩、踏み込み私の距離を乱す。何時もの距離を作れないなら別のやり方に変えるだけ。
「はぁぁ!」
気合いと共に剣に魔力を流すと、透明の刃が属性に合わせて光り出す。雷を纏い黄色く輝く剣から斬撃を飛ばす。弧を描きながら飛ぶ雷の斬撃を剣で切り落とした団長さんが、大きな音と共に駆け出す。いつの間に身体強化をしたのか弾丸の様な速さで私との距離を詰めてきたけど、彼の剣が届く前に防御壁を展開しながら上に飛んで避ける。
「甘い」
その一言と共に団長さんの剣は、上に飛んだ私目掛けて迫ってくる。だけどねぇ……スピードは私より遅いわね。
「ごめんなさいね」
自分も身体強化で更に高く、そして横に飛び退くと壁を蹴った反動を利用して更にスピードを上げる。団長さんの舌打ちする音が聞こえて笑った。
「フフ、楽しいわねぇ」
団長さんが苦虫を噛み潰したよう顔になった時、私は更に壁を蹴ってスピードを上げると屈み込んで体勢を低くして彼の懐に入ると逆手に持ち変えた剣を下から上に振り抜いた。
「勝負あり」
ギルマスの言葉で動きを止めると、私の剣は団長さんの喉元で止まる。団長さんの長剣も私の腹部に目掛けて振り抜こうとしていたけど、一足違いで私の方が速かった。
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