【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女と可愛い甘え

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「主任! 届いたランチって、会議室に持って来ちゃって良いんですよね?」

 木曜日の午前11時半。
 事前に予約手配してくれた17人分の弁当の置き場所を問いに、俺と村川くんが資料並べをしている会議室に森田さん野崎さんが入ってきた。

「そうだな。そろそろ到着する事務員さんも居るだろうからもう並べちゃって構わないよ」
「よいしょっと……じゃあ、並べていきますね!」
「ああ! 俺手伝います!」
「主任も資料並べ終わったならお茶配るの手伝ってもらえますか?」
「そこの段ボール箱だよな、了解」

 今日は全国から13名の営業事務がこの本社に集まる。
 この日のために8月下旬からずっと準備してきたのだが、ついさっきまで通常業務をこなし、今は弁当や緑茶のペットボトルを各席に並べたり、資料に抜け落ちたページがないかのチェック……という「地味なのに急いでやらなきゃならない仕事」をこなすので各々精一杯になっていた。

「テイクアウトランチのお店、宅配サービスも込みで助かりましたね」
「あの予算でこんなお洒落な和惣菜のおかずが入ってるのか……最近の店って凄いんだな」

 自分の席に置いた弁当を手に取りまじまじと中のおかずに注目する俺や村川くんに向かって、森田さんは得意げな表情で仁王立ちする。

「伊達にこの辺のランチを食べ歩いてないですからねー! 見た目がお洒落でヘルシーなだけでなく味もすっごく美味しいんですよ!」
「特にここのお弁当は森田さんとハマって、最近は天気の良い日に買って公園で一緒に食べてるんです。森田さん美味しいお店たくさん知ってるから私は着いていってるばかりなんですけど」
「へぇ~……森田さんと野崎さん、外食ばっかりじゃなくてテイクアウトもしてるんだな」

 ランチタイムになると皆一斉にオフィスを出るから、各々外食しに行ってるんだと決め付けていたが、春や秋の季節は近くの公園や緑地に出向いてテイクアウトしたものを食す……そんな事をしている社員も居てはおかしくないんだなと納得する。

「皆さんお疲れ様でーす」
「お疲れ様です!お土産ありがとうございますー」

 そんな会話を4人でしていたら、デスク側から中年女性が総務の誰かに土産の菓子を渡している声が聞こえた。
 早速営業事務員の1人が到着したらしい。

「あっ今の声、大阪の狭山さやまさんだ!」

 森田さんは微かに聞こえた声の主をすぐに察知し、表情が更に明るくなった。

「大阪……早い到着ですね」

 野崎さんがポツリと呟くと

「狭山さんに挨拶しに行かなきゃ!」

 森田さんは会議室を出て総務の輪の中に入ろうとする。

「……鏑木かぶらぎさんも一緒じゃないんでしょうか?」

 「大阪」と聞いて気に掛かる点は野崎さんも同じだったようで……

「こっから見る限りでは居ないみたいだけど」

 コソッと小声で返答した。

 大阪営業所の事務は2人体制だから、狭山さんはその内の一人だ。
 開け放たれた会議室出入り口から見える範囲内で俺も村川くんもその様子を遠巻きに伺うが、今年の春に入社したもう一人の鏑木さんの姿らしき人影は確認出来ない。

「そういえばいつだったか、狭山さんと電話してる時にポロッと漏らしてたんですよね……『新人教えるのって難しい』って」

 野崎さんは弁当や緑茶の不備がないか指差し確認をしながらまたポツリと呟くようにそう話をしてきたので、思わず俺も村川くんも野崎さんの方を振り向き驚いた。

「えっ? 狭山さん、野崎さんにそんな話してたのか?」
「狭山さんって20年近く勤務されてるベテラン事務員ですよね?」

 狭山さんは途中2度の育児休暇を取得してはいたが、それでも今在籍している営業事務員の中ではベテランの方に入るくらい勤続年数が長い。
 過去に何度も相方の新人教育を行っているし、他エリアの若手事務員や病欠した事務員の代わりに仕事をする営業部員にも頼られているくらい「電話越しでも分かりやすく教えてくれる」「仕事で分からないところがあったらまず狭山さんに相談したい」と、昔から何かと頼りにしている逸材でもある。

「そんな狭山さんが手を焼いてるって……マジか。矢野橋の彼女ってどんな人なんだろう?」
「電話やり取りしかしてないから余計に不安ですよね……入社時期は一緒だけど営業事務はエリア採用が基本だから、俺まだ顔を合わせた事ないんですよね鏑木さんと」
「もしかしたら、最初の頃は普通でいたけど矢野橋さんとのお付き合いで変貌していったのかもしれません」
「矢野橋の洗脳か……あり得るな」

 鏑木さんの名前で即「例の件」を頭に浮かべる俺ら。
 3人共に顔を合わせて一緒に微妙な表情を同じようにした。
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